上西 朋子 非常勤講師 「情報リテラシー基礎b」
「情報リテラシー基礎b」の概要
情報リテラシーとは、コンピュータを使ってさまざまな情報を集めたり、それを役立てたりする能力のこと。この講義では、本学での学習活動(レポート?資料等の作成)をはじめ、情報化社会で生活する上で欠かせない情報リテラシーの習得を図る。前期(情報リテラシー基礎a)は電子メールや学習管理システムmanaba?responの活用、インターネットによる情報検索のほか、レポート作成に必須となるWordやExcelなどのソフトの使い方を学習。後期(情報リテラシー基礎b)では前期の内容をより深く、高度に行えるよう、実践的な課題に取り組む。また、作成した課題についてPower Pointを活用して発表する経験を通じ、プレゼンテーションスキルも育む。
レポート作成、卒業論文、そしてその先も。
学生に寄り添う指導で、今後に役立つパソコンスキルを伝授する。
1年間の学びの成果をPower Pointのスライドにしてプレゼンテーション
「それでは今日は、前回?前前回に引き続いて、皆さんに課題のプレゼンテーションを行ってもらいます」上西先生のやさしく穏やかな声が教室に響く。照明を落とした教室の前方のモニターにスライドが映し出された。その横に学生が立ち、「これから、高知県の魅力について皆さんにご紹介します」と発表を始めた。
今日は、『情報リテラシー基礎b』の最終?第15週目の授業。第13週から3回にわたって、1週につき15名程度がそれまでの学習内容のまとめとして研究発表を行っており、最終週のこの回では12名の学生がプレゼンテーションする。テーマは「自分が好きな国や地域について」。出身地や旅行に出かけて好きになったところ、興味がある場所などについて調べWordとExcelでレポートにまとめたものを、Power Pointのスライドにして皆の前で発表する。取り上げる要素はおすすめの観光地やグルメ、お土産など自由だが、「基本情報」としてその国?地域の面積や人口、言語などの基礎的なデータと、気温や降水量などのグラフを必ず盛り込むことがルールとなっている。インターネットやWord?Excelといったソフトの基本的な使い方を学ぶ『情報リテラシー基礎a』(前期)と、Word?Excelのより高度な使いこなし方とPower Pointによるプレゼンテーション用のスライドづくりについて学ぶ『情報リテラシー基礎b』(後期)で身につけたスキルをいかんなく発揮して取り組むのがこの研究発表なのだ。
「年齢別人口推移について紹介します」と学生が発表を続ける。モニターに表示された棒線グラフを指し示し、「このグラフから、若者が年々減少し、逆に高齢者が増加していることがお分かりいただけると思います」モニターの表示が切り替わり、今度は「観光来客数の推移」のグラフが現れた。「観光来客数は、2017年に約440万人を突破しました。ここから見ても、高知県にはたくさんの人を惹きつける魅力があることがわかります。それではその魅力を具体的にご紹介したいと思います……」1人当たりの持ち時間は5分。この時間内にプレゼンテーションを収めることもルールの1つだ。学生が一通り発表を終えると拍手が沸き起こり、次の学生のプレゼンテーションに入る。アメリカ?テネシー州の都市メンフィス、静岡県、ドイツ、北海道函館市……。思い思いの国や地域を取り上げ、授業で学んだスキルを駆使しながら独自の工夫を凝らしたスライドが、次々に現れる。わかりやすいようマーカーをつけたグラフ、要点を絞ったテキスト、名所の画像などが盛り込まれたスライドはどれも力作揃いだ。しかし、この授業は1年次を対象としたもの。入学前はPower Pointはもちろん、Word?Excelどころかパソコン自体あまり使うことがなかった学生も少なくない。前期?後期を通じて『情報リテラシー基礎』の授業を受け持っている先生は、そんな学生たちをどのように指導していったのだろうか。次に、前期(『情報リテラシー基礎a』)の授業の様子を紹介しよう。
学生の目線に立った指導で、初心者も安心して学んでいける
『情報リテラシー基礎a/b』は生活科学部1年次の必修授業で、複数の教員が担当している。上西先生の前期授業は、毎回、5分間のタイピング練習で幕を開ける。キーボードで課題の入力を行うのだ。回を重ねるごとに学生はキーボードに慣れ、早くタイピングできるようになっていく。ある週の授業テーマは「Excelの活用」。教材をもとにグラフのつくり方を学ぶ時間だが、先生は教材の内容をそのままレクチャーするのではなく、学生が今後の学習活動でよく使うものや、覚えておくと便利なものを重点的に取り上げたり、自身の体験から編み出した効率良く進められる方法などを教えていく。「折れ線グラフは時系列の変化、棒グラフはデータの大小を比較する時などに適しています。このように、自分が伝えたい内容に合わせてグラフの種類を選ぶ必要があります」「この方法は、皆さんが3年、4年になって実験レポートや卒業論文を書く時に活用するとスムーズに進められて便利です。覚えておいてくださいね」「レポートをつくる際は見た目のデザインよりも、相手にとって見やすく、自分の考えが着実に伝わるかを考える方が大切です」と時折挟み込まれる実践的なアドバイスに、学生たちは皆真剣に聞き入る。
1時間ほど講義が行われた後、学生それぞれが課題に取り組む演習の時間が設けられる。その間、先生は教室を回って学生たちの様子を見守る。行き詰っている学生には声をかけて解決のヒントを伝えたり、呼び止めて質問する学生に対応したり。時折、先生のやわらかな声が教室のどこかから聞こえてくる。パソコン、Word、Excel、と耳にして、「難しそう」としり込みする学生も多いそうだ。けれど先生の指導は学生の目線に立ってやさしく丁寧に行われ、「どう操作したらいいかわからない」「思うように進められない」などちょっとしたトラブルもすぐに相談できるので、初心者も安心して学んでいくことができる。そして誰もが着実にパソコンを使いこなせるようになっていくのだ。
話を後期に戻そう。ポイントを強調したり、アニメーション機能を使ったり、イラストをあしらったりと、学生それぞれがアイディアを盛り込みながら形にしたスライドが映し出され、ニュージーランド、チリ、カナダ、ハワイ、オーストラリアとさまざまな国について紹介が行われた。台湾を選んだ学生が2名続く、といったこともあったが、むしろそれぞれの視点の違いが感じられ、興味深い展開となった。
最後に先生が講評を述べる。「どの方のスライドもすごく上手につくってあったと思います。テキストの見やすさも工夫されていました。見る側の関心を引くように、アニメーション機能を効果的に使ったり、言い回しを考えたりというように、それぞれが一生懸命に取り組んでいたことも良かったです。話し方も、堂々として聞きやすかったですよ。たくさん練習してきたんだなあ、ということが伝わってきました。“このプレゼンテーションいいな”と感じるものもあったのではないでしょうか。ぜひ今後の参考にしていただきたいですね」それからこれはちょっとしたことですが、とアドバイスも付け加える。「グラフの文字が少し小さくて、後ろの方にいる人には見えづらいかもしれない、と感じるものが何点かありました。今後はそういったところにも気を配ると、発表がより良いものになるでしょう。また、今回、発表に制限時間を設けましたが、皆さんよく守ってくれましたね。4年次には卒業研究発表会がありますし、社会に出てからもプレゼンテーションする機会がある人もいると思います。大体は制限時間が設けられ、それを守ることが基本的なルールになります。けれど時間内に発表を収めるためには、練習や事前の準備が重要です。今回の経験を、ぜひ今後に活かしてくださいね」でも、原稿ではなく聴衆を見ながら発表するなど皆さん上手に発表されていて感心しました、と先生は笑みを浮かべた。プレゼンテーションを終えた学生たちの表情からも、「やり遂げた」という達成感と自信が漂っていた。
自身の経験を踏まえ「学びに役立つ」ことにこだわる
「学生生活の中でレポートを作成する機会は数多くあります。また、学びの集大成として、4年次には卒業論文をまとめます。レポートや論文を作成するためのソフトとして利用するのがWordで、その中に実験データのグラフなどを盛り込む場合はExcelを活用します。このように、学年が上がるにしたがって必要性が高まるWordやExcel、またそれを組み合わせて使いこなすスキルを早い段階で身につけてもらうことが、この授業の目的です」と先生は語る。「後期の『情報リテラシー基礎b』の最後に学生に行ってもらうプレゼンテーションは、4年次の卒業研究発表に備えるもの。発表に使うスライドづくりのポイントや、プレゼンテーションを行う際の心がけ、事前準備には何が必要かなどを、体験を通じて学んでもらっています」
この授業を担当される前は、実験を行う授業の指導補佐もされていた。生活科学部の学生にはどのようなスキルが必要か、経験を通じて熟知している先生は、『情報リテラシー基礎a/b』での指導にあたって「学生にとって、今後の学びに役立つこと」に徹底的にこだわっている。「教材の内容を本学の学びに合わせてアレンジしたり、教材に載っていなくても“これを知っておくと便利”と感じる要素を紹介したりしながら、毎回の授業を行っています。学部学科の先生方に話を伺って“こういったスキルを身につけておいてほしい”と要望が寄せられた内容を盛り込むこともあります」授業中の解説や、モニターに表示しながらのパソコン操作は学生にわかりやすいようゆっくり行う、授業後半の演習の時間は教室を巡回して学生が気軽に質問できる環境をつくる、といったことも心掛けているそうだ。また、折に触れて「授業以外にも機会を見つけて積極的にパソコンを活用し、WordやExcelも利用するように」と声掛けもしているという。
学期がスタートする時期に学生にアンケートを取ると、「パソコンはよくわからない」「授業をゆっくり進めてほしい」といった声が寄せられることが多いそうだ。しかし、前期が終わる頃には大体の学生はパソコン操作に慣れ、後期最後には皆驚くほど上手にPower Pointを使いこなしスライドをまとめてプレゼンテーションを行ってくれる、そんな学生の様子を見るたびにうれしくなる、と先生は表情を輝かせる。「初めは難しく思えるかもしれないけれど、パソコンは決して怖い存在ではありません。使いこなせるようになれば、むしろ学びの効率を高めてくれる頼もしいもの。多少のつまづきは一緒に解決しますから、投げ出さず根気よく取り組んでみてください。1年次を終える頃にはほとんどの学生がしっかりスキルを身につけて進級していきますよ」
「情報リテラシー基礎」受講生の声
ほとんどの学生は、高校時代の授業などで多少パソコンに触れたことはあるものの普段使うのはスマホ、という状況。「キーボードも、どこか間違って押したら変な風になるんじゃないか、と怖かった」と話す学生もいた。けれど上西先生の授業を受けて「だいぶ慣れてきた」と学生たちは語る。「キーボードも両手を使って早く打てるようになった」「WordやExcelも少しずつ使えるようになってきた」「パソコンに慣れるまでは、ほかの授業でレポートの課題が出ても手書きしたりスマホで入力したりしていた。この授業でパソコンをある程度使えるようになって、“修正も簡単にできるから、レポートを書くならこっちの方がラク”と感じて今ではWordでつくるようにしている」という声も寄せられた。
先生の指導についてどう感じているか訊くと、「ゆっくり丁寧に教えてくれるのがいい。一つひとつしっかり理解しながら授業を受けられる」「高校の授業でもパソコンを習ったが、モニターに映し出される操作画面が先生と自分で違ったり、先生のペースで操作されたりしてよくわからなくなることがあった。この授業ではそんなことはないし、上西先生は操作画面をモニターに映しながら学生のペースに合わせて進めてくれるので、どう操作すればいいのかよくわかる」「演習の時、自分のすぐそばを先生が通るので声をかけやすい。皆、困った時はすぐ先生を呼び止めて教えてもらっている」といった声が挙がった。
この授業で学んだことを今後どう活かしていきたいか質問すると、「1年次でWordやExcelの使い方をしっかりマスターして、レポートの作成などを効率よく進められるようになりたい」「課外活動で、日本相撲協会との産学連携プロジェクトに参加し、グッズのデザインや生産管理などを担当している。資料づくりや提案の際にWordやPower Pointをはじめパソコンのスキルを使うことが多いので、この授業で身につけたことを活かして活動をさらに充実させたい」などの展望を聞くことができた。