リアン,リッキー?チ?ヤン 専任講師「Essential Listening」
「Essential Listeningの概要」
英語のリスニングをはじめとして、スピーキング、ボキャブラリーといった総合的な英語コミュニケーションスキルを身につけることを目的としたクラス。
ペアワークやグループワークでのインタラクティブなディスカッションを多用することによって、リスニングだけではない実用的な会話力を身につける。各回に設定されるトピック(テーマ)に沿って行われる授業は、学生の国際的な視野を広げ、内容をより深く理解する洞察力を得るために、問題解決能力を積極的に活用する力を養う。
また、毎授業出される宿題と学期中に3回提出する小論文などによって、英語のリスニングにおける理解力向上をはかる。
自分の可能性を広げる
国際的なコミュニケーションスキルを学ぶ。
リスニングを中心に総合的なスキルを習得する「インテグレーテッド?ラーニング」を実践
日本人は中学、高校の授業や受験勉強で、英語の文法や「Reading(リーディング=読み)」および「Writing(ライティング=書き)」を多く勉強するため、「Listening(リスニング=聴き取り)」が苦手な人が多いと言われています。
グローバル化が進む現代、ますます世界の公用語としての英語コミュニケーション力が必要とされる中、私たち日本人のリスニング力の強化は重要な課題です。
リアン先生の「Essential Listening(エッセンシャル?リスニング)」は、タイトル通りリスニング力を強化するクラスですが、リスニングだけをひたすらトレーニングするわけではありません。「聴いて、考え、話す」という会話の実践とポイントとなる表現や語彙の座学を通して、コミュニケーションを支える総合的な英語を学ぶクラスです。それは先生の「Content and Language Integrated Learning(CLIL)」という研究に基づいた教え方で、「読む、書く、聴く、考える」などすべての体験を通して英語のスキルを向上させるという取り組みです。
そのため先生はインタラクティブな授業を心がけており、ほぼ全ての内容で学生同士でのペアワークやグループワークが行われます。
ところが、このコロナウイルスの感染拡大予防のため、昨年まで対面で行われていた授業はすべて現在(取材日は8月)、「ZOOM」などを使用してオンラインで行われています。
対面であれば40人のクラスでのグループワークも、先生はすべてのグループを回ってチェックできるのですが、オンラインだと全てのグループの「ルーム」への出入りが難しく、なかなか苦労している様子。
「プレゼンスが大切なのです。対面の方が学生も勉強しやすいのではないでしょうか」話す音声だけではなく、その時の表情や表現など雰囲気のようなものが大切だ、と丁寧に説明してくれる先生。確かに電話の方が対面より英語を聴き取るのが難しいと言われます。語学習得の目的は「会話」なだけに、対面でのコミュニケーションは重要ですが、今は「ZOOM」を効果的に使える新しいプログラムを考え中だとのこと。
「でもZOOMの方が出席率は良くなったかな(笑)」
と先生。やさしい笑顔がとても印象的です。
ペアやグループワークを多用したインタラクティブな授業によって、「会話力」を磨く
リアン先生のクラスで使用される教材は、バラエティに富んでいます。最初に流れる約30秒の動画も、毎回トピックに関連するものを先生がインターネットを含めた様々な動画から選んで自ら編集したもの。
例えば、「Describing People(人の描写)」というトピックの回の動画は、ある韓国人女性がインターネットに投稿したもので、「What is your best quality?(あなたの一番の長所は何?)」と題されて、自分の長所について語っています。
多くの素材から適したものを探して選ぶ作業は大変だそうですが、手間は厭いません。
その動画を見た後、学生たちは数人のグループやペアに分かれて、先生が作成したワークシートにしたがってディスカッションします。
1問目は先生が用意した質問で、まさしく「What is your best quality?」です。その後、2問目、3問目は自分たちで考えて話します。
その際に学生たちは人の資質を表現するキーワードを学ぶだけではなく、会話を弾ませる質問や答え方など「会話力」も自然と会得できるのが、インタラクティブな授業の良いところでしょう。
先生は、学生が毎回違う人と話すことができるようにグループのメンバーを替えるのだそうですが、メンバーを替えることによって話しやすくなる人もいるとのこと。
学生たちがより積極的に参加できるよう、リアン先生は色々工夫をしているようです。
英語を話すのが苦手な人に対しても、先生はあえて答えを急かすようなことはしません。先生は、学生の自発性を尊重しています。
「日本の女子学生はシャイではありませんか?」と聞くと、興味深い答えが返ってきました。
「シャイなことは、その人の“性格”ではないですよね。その状況下で自分が選択(コントロール)している“態度”です。だから自ら“やろう”と思えば、シャイではなくなるのです」
このペアやグループでのディスカッションは、この後続く内容のほぼすべてで行われます。それがこのクラスの特徴と言ってもよいかもしれません。
「歌」でナチュラルな発音やリズムを習得
その後、宿題の答え合わせと先生による解説が行われます。宿題は「歌」を聴いて、歌詞の穴埋め問題といくつか質問に答えるものです。
歌を教材に使うのは、ナチュラルな発音やリズムが習得できるからです。
使用される楽曲は、ビートルズやクイーンなど一般的にもよく知られたロックやポップスの楽曲が多く、親近感ある有名曲は取り組みのハードルを下げてくれます。また、歌詞も学生が理解しやすいものを選んでいるとのこと。
「だって、ラップとかではすごく聴き取りが難しいでしょう?(笑)」
とちょっと冗談まじりに笑う先生。
同じ有名曲でも、時にはライブ?バージョンを使用したり、できるだけ多様な英語に触れさせます。
多くの楽曲の中から選ぶのは大変なのではないか?と問うと、先生は音楽が大好きなので、探して選ぶのも楽しんでやっているそう。「DJ」も趣味だそうですが、そうしたDJ的なスキルが授業でも活かされているようです。
答え合わせとディスカッションは冒頭の動画と同様、ペアまたはグループで行われます。答えを間違えても先生は構いません。
「正しい解答ができることが目的ではないので、間違ってもいいのです。それよりも、わからないことはわかるまで何回も相手に聞いたり、ディスカッションすることが大切なのです」
質問は歌詞に対するものだけでなく、「Do you agree with the message on this song? (あなたはこの歌のメッセージに賛同する?)」など意見を求めるものも。「海外では、自分の意思表示はネガティブなものでも、きちんと理由を付けて言えることが必要で、その方が色々な人と楽に会話できるようになります」と先生。
例え英語を話すスキルを習得しても「自分の意見」を持たないことにはディスカッションはできません。そうした「自分の考え」を持つ訓練としても、このクラスは有用です。今後は、ニュースなど少し硬めのコンテンツも取り入れたい、とのこと。
ネイティブおよび非ネイティブの「活きた英語」を知る
「Whaddaya say(ワッダヤセイ)?」
と突然聞かれたら、皆さんすぐに答えることができるでしょうか?
先生は、できるだけ現場で使える「活きた英語」を学んでほしいと考えているため、ネイティブならではの「発音」の勉強もします。
実は日本人がたくさん英語を勉強してきているのに、ネイティブの英語の聴き取りができない理由のひとつに、「Linking(リンキング)」に関してあまり勉強してこなかったことがあります。「リンキング」とはネイティブが英語を話すときに起こる「音声変化」で、主にアメリカ英語などで起こります。
例えば、「What do you ??」「What are you ??」は「Whaddaya(ワッダヤ)??」と発音され、またその発音に準じて略式表記されます。つまり冒頭の「Whaddaya say(ワッダヤセイ)?」は、「What do you say(ワットドゥーユーセイ)?」のことだったのです。それを知っていないと、聴き取るのは難しいかもしれません。よく情報番組などで聞く「チェキラ」は「Check it out」のことですが、すでに「チェキラ」自体がカタカナで日本語のように話されているので意味がわかるのです。
反対にネイティブの日常英語は、日本人が習ってきたような発音ではあまり話されていないとも言えます。
「読み」「書き」中心の教育によって、発音も「耳」より「スペル」にとらわれやすいという日本人のウィークポイントを克服するためには、実際に使われているネイティブの英語を勉強することが一番効果的でしょう。そういう意味では、一度これまで習ってきたことをリセットする必要もあるのです。
また、非ネイティブの人の英語を先生は意図的に選んでいるそうです。
トピックが「Describing People(人の描写)」の回は韓国人女性の動画でしたが、「Health and Fitness(健康と運動)」の回はイラク人女性でしたし、その他の回はブラジル人、というように毎回違う国の人の動画を使い、様々な発音の英語を聴かせています。
今世界で英語を実用レベルで使用している人の3/4は、実は非ネイティブだということを考えると、私たちが学校で習ってきた発音よりも多様な発音に慣れることの方が、実際の英語のリスニングには必要なのです。
何度も繰り返し聴いて、先生のワークシートの空欄を埋めていくのですが、「you are」と「your」の違いの聴き取りなど聴き分けにくいものも、何度も聴くことで慣れて聴き分けられるようになると言います。
「とにかく英語の聴き取りは、たくさん聴いて慣れるしかないのです」と先生はトレーニングの大切さを説きます。
「活きた英語」の習得ということでは、「最適な教材」と人気のアメリカのテレビドラマ「FRIENDS(フレンズ)」も使用されます。まず一度観た後、覚えるべき単語やネイティブならではの「表現」を学んでからもう一度観て、「知識」として定着させます。
この「フレンズ」からのシーンも、その回のトピックに合わせて先生が選んで編集しているそうですが、楽曲を選ぶよりもっと大変そうです。例えば「Health and Fitness(健康と運動)」という回では、「Chandrer’s Sleeping Problem(チャンドラーの睡眠の問題)」と題されたシーンが使われており、ここでもペアまたはグループで「もしあなたがチャンドラーだったらどうする?」とか「あなたは寝る時に何か抱いて寝る?」などと質問を出し合ってディスカッションします。
自分の意見を持ちながら「違い」も理解し受容する国際的ディスカッション力を養う
ディスカッションの場は、ほぼすべての内容で設けられていますが、その際の言語は、必ずしも英語しばりにはしていないそうです。
「英語でも日本語でも、コミュニケーションが円滑にいく方でよいと思っています。ディスカッションすることが大事ですから。でも、何も言わなくても会話の80%くらいはみんな英語を使っていますよ」
「Describing People(人の描写)」というトピックに関しては、例えば「beauty(美しさ)」について皆で意見を出し合います。
話してみると、実はその基準は人それぞれだったりすることがわかります。「美しくなるために何をする?」という問いにも回答は様々。「ダイエットをする」「化粧をする」「ヘアスタイルを変える」「ファッションスタイルを変える」、中には「美容整形をする」なんて答えもあります。
日本人はディスカッションに慣れていないため、こうして訓練することによって国際的なディスカッション力を身につけていきます。
その際に大切なのは、例え異論であってもその「違い」を理解し受け入れることです。
英語という公用語を使って世界の人たちと話す際に、「文化の違い」の認識不足が障害になることが多々あります。先生も来日して約10年ということですが、初めはこの「文化の違い」での苦労も多かったそうです。
「日本でのキャリアの初めの頃、“文化の違い”で戸惑いました。“文化の違い”は誰も教えてくれません。例えば日本人はあまり自分の意見を積極的に言わなかったりしますが、初めは自分が嫌われているのかと思って焦りました。同僚や日本人の知り合いに聞いたりして、今はそれは“文化の違い”だと理解したので大丈夫ですけれども」
グループを作る時も、先生の出身のカナダでは、敢えて普段話す機会のない人と話そうとするけれども、日本人は自分と同じ所属の人と集まる傾向があり、それが日本の「集団意識」というものだということを理解したそう。
反対に、日本人が海外に出ると受けるカルチャーショックもあります。
「実践の学生も、海外研修から帰ってくると人が変わるんですよ」と先生も驚くように、皆、多様な価値観に触れ、その認識を改めるのだそう。
「旅行は良い機会です。特に自力打開する旅行はとても良い経験になる。学生にはどんどん海外に出る機会を持ってほしいです」
旅行好きの先生。その理由のひとつは、新しい価値観に出会えるからなのかもしれません。
最後の「名言」は、豊かな価値観を作る有意義なメッセージ
そして冒頭で説明した「宿題」となる楽曲を流しながら授業は終わるのですが、その最後は毎回、トピックに関連したちょっとした「名言?格言」で締めくくられています。毎回この名言を選ぶのが「楽しみ」という先生。
例えば「Describing People(人の描写)」の回は、こんな名言で終わりました。
“We are all different. Don’t judge, understand instead.
(私たちはみんな違う。判断せずに、理解しよう)”
Roy T. Bennett
これは「The Light in the Heart」の著者Roy T. Bennett(ロイ?T?ベネット)の言葉で、ポジティブな考えを広めてきた彼らしい名言のひとつです。
ディスカッションの際も「違い」を理解することが必要なように、昨今とかく耳にする「多様性(ダイバーシティ)」という社会のあり方を支える価値観に通じる重要なメッセージだと思います。
でも、その横には思わずくすりと笑ってしまうユーモアある画像が添えられています。
「最後は少しこれでリラックスした気持ちで終わろうと思って。月曜の4限でみんな疲れてますからね(笑)」
学生が興味を持ちそうなアニメなどから選んだりすることもあり、「少しでも楽しく学生に勉強してもらおう」という気持ちが伝わってきます。
またそれをきっかけに学生が面白いアニメや映画などを教えてくれたり、学生との情報交換にもなっているようです。
「日本人の中高生の多くが、英語を単語や文法を覚えたり、リーディングを中心とした “試験科目”のように思っています。でも大学に入って、英語をコミュニケーションスキルとして学んで欲しいので、できるだけ興味を持って楽しく勉強してもらえるようにしています」
この毎回の宿題の他に学期中に3回提出するリポート(英語小論文)がありますが、こちらのテーマも任意で、自分が観た映画とか動画、ドラマ、音楽などについて「勉強になった単語」「なぜそれを選んだか」などについて英文で論じます。今の学生は「ネットフリックス」や「アマゾンプライム」などで海外ドラマをよく観ているので、テーマも豊富だそうです。
「何かを身につける」には、やはり「興味を持って楽しく」取り組むことが1番大事なのです。
ポジティブ思考と言葉が、人の可能性と世界を広げる
リスニングを中心とした英会話スキル以外に、先生はこのクラスで学生たちに期待するものとして以下の3つを挙げています。
1.Positive mindset(前向きな思考) 2.Motivation(hopefully)(モチベーション)
3.Cultural awareness(文化的な認識)
3は先の「多様性」への理解に繋がり、1と2はとても先生らしい考えです。
先生はロイ?T?ベネットのように「Openly(オープン)」であること、「Positive(ポジティブ)」であることを大事にしています。
「Positiveでいることは何かを変える力があります。人は自分で自分の能力を制限してしまっていますが、実は“行動”によって変えられるのです。“できない”ことは無く、“やる”か“やらない”かです。私は“やる”ことによってしか道は開けないと思います。失敗したとしても、失敗は“失敗”ではなく“経験知”になります」
と話すリアン先生の言葉に少し力が入ります。それは先生がこれまで研究してきたこと、経験してきたことから得た「人生観」とも言えるからでしょう。
先生に「英語を学ぶ楽しさ」を聞いたら、実にたくさんの回答をしてくれましたが、その中のひとつに「Change narrow-minded mentality,expand your horizons.(狭い考えを変えて、あなたの限界を広げよう)」
という言葉がありました。
「まだ覚えているのですが、」と先生の話は続きます。
「以前、ファッションの専門学校で英語を教えていた時、英語が嫌いな女子学生がいました。その理由を聞くと、『ここは日本だから英語は必要ない』と彼女は答えました。私は彼女に言いました。『確かにここは日本だけど、地球でもある。他の言葉を理解できたら、あなたが活躍する場所はもっと広くなるよ』と。英語が自分の可能性を広げるツールなのです。私は学生たちに自分の世界を広げてほしいし、また、その可能性に気づいてほしいと切に思います。よく『英語は難しいからできない』と言う人がいますが、決めつけないで、ポジティブに取り組めば変えられる、という可能性を信じてほしいと思っています」
と熱っぽく語るリアン先生が教師を目指したのは、人びとに影響を与え、より良く変えたいからだそうです。
また、先生自身は英語、中国語、日本語(まだ勉強中とのことですが、上手です)を話しますが、その国の言葉を学んで理解することによって、世界が広がったことを実感してきたと言います。先生は強い確信を持って学生への期待を語ります。
「言語を学ぶと人とのコミュニケーションも深くなります。言葉は人の心を開いたり、世界を広げたりする力を持っているのです。学生の皆さんには、人として成長し続け、やりたいことをやり、自分が望む人生を作り上げていってほしいと願っています」
リアン,リッキー?チ?ヤン専任講師のプロフィール
言語文化教育研究センター専任講師 ※2022年3月退職
専門分野:TESOL (Teaching English to Speakers of Other Languages)
学歴:カナダサイモンフレイザー大学 コミュニケーション学部 コミュニケーション学科2000-2005)
テンプル大学 教育大学院 英語教授法専攻 修士課程修了(2012-2015)
TESOL修士(M.S.Ed. in TESOL)
経歴:専門学校などの英語教師を経て、2017年4月より実践女子大学言語文化教育研究センター専任講師に着任、現在に至る。
趣味:旅行、音楽、DJ、映画、運動、ボルダリング、NBA、仮想通貨 など