須賀 由紀子教授 「地域?生活文化ゼミの取り組み」
地域?生活文化ゼミの取り組み
生活科学部現代生活学科の須賀由紀子教授の下、地域自立型社会の課題に取り組んでいる地域?生活文化ゼミ。2015年、新潟県?越後妻有の広大な里山を舞台に開催される「大地の芸術祭」に参加したのをきっかけに、過疎高齢化?人口減少が著しい中山間地域の一つである布川(新潟県十日町市松之山布川地区)との交流を開始しました。布川は、農林水産大臣名により「つなぐ棚田遺産」として認定された271の地区のうちの一つです。
その後も地域?生活文化ゼミは、「まちの居場所づくりプロジェクト」と題して、都市農村の本質的な支え合いの関係を作ることで過疎地域の活性化を図り、都会にはない豊かさを得るべく布川での活動を拡大。棚田での田植えや稲刈りの体験に始まり、夏祭りや道普請(道路や水路の草刈りなどを行う活動)に参加するなど、8年前から交流を続けてきました。
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ベスト?ティーチング賞を受賞して
今回受賞対象となった取り組みは、過疎高齢化著しい小さな農村?新潟県十日町市布川地区で継続してきた地域交流活動です。
きっかけは、生活科学部に、現代生活学科が10年前に設立されたことにあります。この学科で、地域の自立というテーマで、新しい教育の形を作っていくことになり、地域連携に取り組みました。カリキュラムに「プロジェクト型学修(PBL)」が当初から取り入れられており、地方の課題を実践的に学ぶフィールドをどこかに得たいという思いから、出会ったのがこの集落でした。
「実践の学生さんが来てくれると本当に明るくなる」と土地の人にもいつも喜んで迎えていただいて、一年、また一年と活動を継続してきました。3年ゼミからの活動ですので、関わった学生たちはあっという間に卒業となり、後輩たちにバトンを託していきます。その中で、学生がつなぐ形で、日野市からも布川に通うファンクラブができ、布川を支える都市民の輪(=「関係人口」)が広がっています。
学生たちは「ここに来ると、大切なものがわかる」と言います。それは、まず何といっても、本物の静けさ、美しい景色です。命芽吹く春、清らかな山の水を湛えた棚田、満天に広がる美しい星、秋の稲穂の香り、きらめく雪景色???四季折々の、日本の故郷ともいえる自然の美に、思わず引き寄せられます。そして、どこまでも穏やかで、温かい土地の人の心です。冬は豪雪に閉ざされるこの土地の人たちは、心掛け合うことが自然にできて、学生たちを包み込んでくれます。さらには、農業の厳しさ、過疎の現実に触れること、そんな中この土地を守ろうとする人々の思いの深さに触れること、そこに「大切なもの」の魅力があるのではないかと思います。
教室の中で体系的に学ぶことはもちろん大事ですが、生活の「現場」の中に入り、直接見聞きし、考えることで体得するものは本当に大きく、人生の土台を作ると思います。安全に配慮しつつ、学生が少し背伸びして活動できるプロジェクトを作ることで、学生は力を発揮し、何かを成し遂げた達成感は深い感謝の思いに変わります。
8年間の継続の中で、コロナ禍においても、小さな交流の継続を、大学から認めていただき、布川の皆様にもご理解いただきました。また、人の交流ができないならば、モノの交流をと考え、学生が「布川フォーマーズマーケット」という仕組みを編み出し、定例化させました。これが、農林水産省からいただいた「つなぐ棚田遺産感謝状」の直接的な受賞理由となりました。難しさがあるからこそ工夫が生まれる。「ありたい姿」のビジョンを持ち、続けていくことの中に、新たな価値創造の可能性があることを、学生たちに伝えたいと思います。
「適度な距離感」と「相手を慮る心」が、「また会いたい」という思いになり、通いの関係が生まれ、いつの間にか「帰りたくなるふるさと」になります。今後も、今できることを学生主体で考えながら、地域自立の姿を探求していければと思います。それが、関わる学生にとっての人生の宝に、そして、地域を未来につなぐことに、少しでも寄与できれば幸いです。
末筆になりますが、布川と実践と日野、この関係の源にあるのは、私たち実践女子大学を迎えてくださる布川の皆様、そしてともに活動を育ててくださる日野市の皆様です。素晴らしい皆さまとの出会いに、この場を借りて、心から感謝申し上げます。