大川 知子先生
変化の激しいファッションビジネス。
五感を使って感じながら、
その刺激を成長の糧に
大川 知子
Tomoko OKAWA
生活環境学科
専門分野?専攻 マーケティング、ファッションビジネス
Tomoko OKAWA
生活環境学科
専門分野?専攻 マーケティング、ファッションビジネス
[プロフィール]実践女子大学家政学部被服学科(現?生活環境学科)卒業。フランス国立リヨン第二大学D.E.S.S. de la Modeでファッションビジネスを学ぶ。1997年から一般財団法人ファッション産業人材育成機構(IFI)で、ファッションビジネスにおけるスペシャリストの育成に従事。首都大学東京(現?東京都立大学)大学院社会科学研究科経営学専攻で博士後期課程修了。経営学博士。2013年に着任。
本学の被服学科を卒業後、ファッションの世界へ
高校生の頃からファッションが好きだったこともあり、被服学科に進学しました。しかし、入学後、自分には全くセンスがなく、服作りは向いていないと気付き、それなら「ファッションを科学から学ぼう」と、1級衣料管理士の取得を目指して材料科学研究室に入りましたが、実際にやってみると、今度は実験が苦手だと分かり…。それでもファッションの仕事に就きたいと思い、それまで父の仕事の関係で、転校を繰り返した経験で培ったコミュニケーション力を活かし、営業職としてアパレルメーカーに就職しました。
その後、ビジネスの視点から本場で学びたいと考え、思い切って会社を辞め、フランスに渡りました。9ケ月間フランス語を学んだ後、絹織物で知られるリヨンにある専門職大学院D.E.S.S. de la Modeで1年間学び、修了後はフランスを中心としたヨーロッパの服飾雑貨の輸入を手掛ける企業で、フランス人バイヤーのアシスタントして働きました。
ちょうど30歳で人生の転機があった時、繊研新聞で通産省(現?経済産業省)管轄下の財団法人が、日本初の本格的なファッションビジネス教育機関の設立に際して、「教職員募集」の記事を目にし、ここでなら、それまでの自分の経験が生かせるかも知れないと思い、応募し、採用いただきました。それが、一般財団法人ファッション産業人材育成機構(以下、IFI)で、IFIでは、教育プログラムの考案や、海外研修の企画?運営などを担当する中で、業界を代表するさまざまな方々とお会いする機会に恵まれました。めまぐるしく変わる業界の最前線に身を置く立場の方々から、ご自身の経験や最新の取り組みについてお聞かせいただき、多くの刺激を得る毎日でした。
30代半ばで学び直しを決意。40代半ばで博士号を取得。
教育の仕事は、アウトプットが基本。変化の早い現代では数年前の知識も通用しなくなることから、自分自身にもインプットが必要だと考えるようになりました。そんな折、東京都立大学が社会人向けに夜間のビジネススクールを開講することを知り、当時の上司に相談したところ、許可をいただいて応募が叶い、2003年に1期生として入学。企業経営の視点から欧州のファッション業界の競争力について解き明かしたいと考え、欧州経済史がご専門の矢後和彦先生(2011年より早稲田大学商学学術院教授)に師事して研究をスタートしました。当時は、30代半ばからの学び直しでは遅すぎるのではないかと心配していましたが、ふたを開けてみたら50代の方も多く、企業にお勤めの方から公務員の方まで、さまざまなバックグラウンドの方と交わり大いに影響を受け、年齢という既成概念にとらわれていたのは、自分自身だったと思い知らされました。
研究テーマに取り上げたのは、世界を代表するラグジュアリーブランドの一つで、創業70年以上の歴史を誇るクリスチャン?ディオール社です。夏に2週間の休暇をいただいてフランスに飛び、北部にある国立古文書館に毎日開館から閉館まで詰めて膨大な資料を収集。それをもとに同社の創業時の様相からその歴史を調べ、修士論文を書き上げました。とはいえ、読み込めないままの資料も残っており、もう少しこの研究を続けようと博士課程への進学を決意。研究を深めました。ただ、仕事との両立は困難を極めて長く休学もし、博士論文の完成までには6年の月日を要しました。その間、矢後先生の恩師のお一人である経営史の大家?パトリック?フリダンソン先生(フランス国立社会科学高等研究院)からお声掛けいただき、パリで開催される国際学会に登壇する機会をいただきました。その内容はフランスから“La Mode des 60's”というタイトルで出版され、この学会がきっかけとなり、米国人の研究者?レジーナ?リー?ブラズニックの編集で、各国の方々との共著で “Producing Fashion”(ペンシルべニア大学出版)を上梓。この本は、全米大学出版会のThe Best of the Best賞の一冊に選ばれました。
最近も、何れも共著ですが、“Oxford Handbook of Luxury Business”(オックスフォード大学出版)と、『ファッションビジネスの基礎知識』(日本衣料管理協会)という教科書を刊行しました。私は主にファッション産業の歴史の部分を担当。今後はこの教科書を、授業でも活用していく予定です。
また現在は、ラグジュアリーブランドから研究対象を広げ、歴史の側面から海外からの技術移転をテーマにした研究も行っています。歴史という視点で「消費」や「流通」へのアプローチを試みる場合、どんなことでもテーマになり得、今後も新たなテーマに取り組んで行く予定です。さらに、博士論文をベースに、これまで出版した共著の書籍を、単著としてまとめることを、当面の目標に掲げています。
根拠のない不安は捨て、たくましく失敗を恐れずに行動を
ファッションビジネスを机上で学ぶには限界があります。私が担当するファッションビジネス研究室では、座学での学びをもとに企業訪問や店舗視察などを通して、実際に自分たちの五感を使って検証する活動を大切にしており、産学プロジェクトなども実施しています。
卒業研究のテーマは自由で、それぞれが自分なりのテーマを設定しています。先行研究もなく、私には到底考えつかないような突拍子もないテーマが出てくることもしばしば。正解のないテーマに対して学生と一緒になって仮説を立て、彼女たちを伴走するうちに自分の中にも新たな知見が蓄積される——。その過程はとても苦しいものですが、それを楽しむ自分もいます。
5年ほど前には、古着について研究した学生がいました。これまで自分の研究では扱ってこなかった二次流通を巡る知見を得ることができ、私自身の学びにもつながりました。今年度も百貨店の催事やアウトレットモール、果ては現在流行のトランスペアレントの変遷に至るまで、ユニークなテーマが並んでいます。最初の取っ掛かりは興味本位でも、1年かけて真剣に取り組むうちに物事を多角的に捉える視点が養われます。たとえ思うような結果が得られなくても、自分で決めたテーマなので責任の所在は自分自身。次の手立てを考えるなど、学生たちは主体的に研究を進めてくれています。
私が学生たちに伝えたいのは、まず目の前のことを精一杯やることです。学生から受ける相談のほとんどが、「日常」や「将来」についての不安ですが、誰も明日のことなど分かりません。情報先行の現代では不安を抱く気持ちも理解できますが、数年先には社会も個人を取り巻く環境も大きく変化します。不確実なことを過剰に案じるよりも、先ずは一歩踏み出すこと。「やる」「やらない」の2択を迫られた場合、どちらを選ぶかでその後の人生が大きく変わることもあります。悩んで踏みとどまるよりアクションを取ると、不思議と道が拓けるものです。
そして、学生たちには、「この人だったら」と周囲から信頼される人材になってほしいと考えています。努力を怠らず、たくましくあってほしい——。そのたくましさには、失敗することを前提に自分の非を認める素直さや、他人と自分を比較しない姿勢も含まれます。ぜひ、失敗を恐れず前進してもらいたいです。
好奇心の赴くままに、専門性の高い先生方と一緒に多様な学びに挑戦できる点が、生活環境学科の良いところです。高校までの学びは便宜上、科目に分かれていますが、実社会はさまざまな事象が複合的に絡み合って構成されています。もちろん、大学でも授業は科目ごとに分かれていますが、それを自分の力で統合しながら、複雑な社会に対応する力を養うのが大学ならでは。生活環境学科での学びを通して、難しい時代を生き抜くベースを築いてもらえたらと願っています。
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