牛腸 ヒロミ先生(※2021年3月退職)
衣服はサイエンスである。
生活の中にあるものを化学的に分析すると、
知らなかった新しい世界が見えてきます。
牛腸 ヒロミ
Hiromi GOCHO
生活環境学科
専門分野?専攻 アパレル管理学?染色加工学?生活素材科学?生活科学
Hiromi GOCHO
生活環境学科
専門分野?専攻 アパレル管理学?染色加工学?生活素材科学?生活科学
[プロフィール]お茶の水女子大学家政学部被服学科卒、お茶の水女子大学大学院家政学研究科修士課程(家政学専攻)修了。東京工業大学大学院にて博士号(工学)取得。聖徳栄養短期大学、東京聖栄大学教授を経て、2008年実践女子大学に着任。※2021年3月退職
研究、そして教育に情熱を注ぐ生き方を選んだ。アパレルサイエンスとの出会い
地球の成り立ちや大自然の営みについて書かれた本を読み、科学者に憧れたのは幼い頃。高校生になり、自然科学分野に興味があると語る私に、担任の先生が勧めてくれたのが、お茶の水女子大学の家政学部(現在の生活科学部)でした。
当時は、家政学や被服学と聞いても「裁縫を学ぶのかな」くらいしか想像できず、家庭科の中でも特に裁縫が苦手だった私の最初の反応は「ムリです!」。しかし、繊維に関する実験など化学分野の勉強もできる学部だと聞かされ、次第に気持ちが変わっていきます。
紆余曲折を経て、先生のアドバイスに従おうと決意。お茶の水女子大学の家政学部に進学しました。お茶の水女子大学には理学部もあり、1年次には基礎科目として、理学部に設置されている数学や物理、化学の授業も履修しました。2年次からは人文系コースと自然科学系コースに分かれるのですが、迷うことなく後者を選択。この頃にはすでに、大学院への進学を検討しはじめていました。
時代は70年代。就職してOLになると、延々とお茶汲みをさせられるというイメージが私の中にあり、絶対にそれは嫌だと感じていました。だったら大学に残り、研究、そして教育に情熱を注いだ方がいい——その思いは、繊維と染料分子が起こす化学反応に着目する染色化学や、繊維や布を構成する素材の特徴に着目する被服材料学、高分子科学など、被服学領域に属する専門分野の面白さを知るごとに、どんどん高まっていったのです。
4年次からは研究室に所属し、いよいよ卒業研究に取り組みます。私が選んだのは、高分子合成?高分子物性を専門とする研究室。たとえば、絹や羊毛といった動物性の天然繊維を構成する高分子の主なものはタンパク質です。高分子というミクロな視点からさまざまな素材を合成、分析し、その物性について調べている研究室でした。
研究室に入ってすぐ、「大学院に進みます!」と宣言。すると、卒業研究と修士論文、最初からまとめて面倒を見てやろうとばかりに、3年ほどの研究期間を要する難しいテーマを与えられました。なんとか卒業研究としてまとめましたが、1年目の成果はほぼゼロ。悔しかったですね。
そしてリベンジに燃える私は、大学院では研究だけに打ち込もうと、キャンパス併設の学内寮で暮らしはじめます。
品質評価?品質管理の高度な技能を身につけ、一生続けられる仕事を見つけてほしい
それからの2年間は、研究室と寮を往復するだけ。大げさに言っているわけではなく、本当に研究以外のことは何もしなかったんです。その甲斐あって、修士論文では一定の成果を出すことができました。自分の論文が学術誌(日本化学会誌)に掲載されているのを見て、とても感動したのを覚えています。
修士課程修了後も、研究室助手として大学に残りました。1人目の子どもを妊娠したとき、辞めようと思ったのですが引き止められてしまったので(笑)、ひとまず産休をとることに。生まれたばかりの赤ちゃんが可愛くて母親としての幸せを感じる一方、家事と育児だけに向き合う毎日には早々に飽き、「あぁ、私は専業主婦には向いていないんだな」と悟りました。そしてすぐに復帰し、育児と研究を両立する目まぐるしい日々が5年ほど続くのです。
こうして振り返ってみると、母校であるお茶の水女子大学には20年以上もお世話になったんですね。その後栄養系の短期大学、四年制大学を経て、2008年に実践女子大学に着任しました。
生活環境学科の目的は、アパレル、プロダクト、建物という3つの領域で、それぞれの専門知識や技術を学生にしっかり伝え、社会で活躍できる人材を育成すること。私はアパレルの領域に所属し、染色加工学、テキスタイル管理学、生活環境科学といった専門分野の授業を担当しています。
これらの専門分野の知識は、衣料管理士資格を取得するために必要なもの。衣料の品質評価?品質管理の高度な技能を身につけ、アパレル業界、流通業界をはじめとしたさまざまな業界で一生続けられる仕事を見つけてほしいと考えています。
生活環境学科に着任して以来、自分自身の研究にも新たに「環境」という大きなテーマが加わりました。
現在、取り組んでいるのは、りんごの皮や柿の皮、ナスの皮といった食品廃棄物から染料として活用できる色素を取り出す研究。天然染料には色の出方や堅ろう性が不安定という課題があり、将来の実用化を目指して、どうにかこの課題を解決したいと考えているところです。
また、リサイクルの進まない廃棄衣料を原料に簡単な物理的、化学的処理を施して、炭のような天然の消臭剤として活用する研究も同時に進行中です。やるからには、目標は高く。炭以上の消臭効果を引き出すことを目指しています。
努力すれば道は開ける。大切なのは、4年間で何かを得てやろうという強い気持ち
実践女子大学の学生は真面目な人が多いですね。のんびり屋さんなところもありますが、いざ興味のあるテーマを見つけると、それに向かって一直線。一生懸命に何でも調べ、考察し、実験を重ね、魅力的な卒業論文を仕上げてくれます。
自分の好きなことを研究している学生の表情は、いつも生き生きしています。やるからには楽しくやるのが一番ですので、私のゼミの学生には、基本的に自由に卒業論文のテーマを設定してもらっています。
最近では、衣料を洗濯する際に用いる洗剤や柔軟剤に関する研究も増えてきました。一人暮らしの学生も多いですし、やはり彼女たちにとって、毎日の洗濯や、多彩な香りの洗剤?柔軟剤が身近だからなのでしょう。
アパレルサイエンスの領域を超えた研究にも、興味深いものがありました。ある学生は、ディズニープリンセスが身につけているドレスのデザインが、時代ごとにどのように移り変わっているのかを調査。変遷の背景にあるものを考察し、今後登場するであろうプリンセスの特長まで予測していました。
また、ロリータファッションをこよなく愛す学生は、ロリータ仲間と定期的に開催しているというお茶会でアンケートを実施し、ロリータ服の快適性について調査。材料実験を行い、生地の滑りの良さ?悪さなどを数値化して着心地のよい生地の性能について言及していました。
この卒業論文は、日本家政学会の卒業論文?修士論文発表会でも話題になり、優秀賞を獲得。私としてもこういったサブカルチャー分野も研究の対象になり得るのだという新鮮な驚きがあり、学生から大いに学ぶ良い機会になりました。
今まで多くの学生を教えてきましたが、50人のクラスの中で1人でもいい、教え子の考え方に影響を及ぼすことができれば、それだけで教員になった価値があると感じています。
実践女子大学を、そして生活環境学科を選ぶ理由は人それぞれ。大切なのは、この4年間で何かを得てやろうという強い気持ちです。やりたいことがある人も、やりたいことが分からない人も、まずは一歩踏み出しましょう。一緒に心から好きだと思えることを探しましょう。
努力すれば必ず道は開ける。前向きなあなたを全力で応援したいと思っています。