生活環境学科 住環境デザイン分野 3教授対談
先生と、仲間たちと。楽しみながら経験を重ね、
豊かな感性とものづくりのスキルを身につける場に
生活環境学科の中で、住まいの環境や建築について理解を深める場となっているのが「住環境デザイン分野」。この中で研究室を主宰する3名の教授が、分野の魅力や、どのようなことを大切にして教育を行っているか、学生への想いなどについて、ざっくばらんに語り合いました。
● 橘 弘志 教授(空間デザイン研究室)※写真中央
● 槙 究 教授(環境デザイン研究室)※写真左
● 内藤 将俊 教授(建築デザイン研究室)※写真右
“住まいの環境”と“建築”を、自由にとらえて学べる。
学生と教員との圧倒的な距離の近さも魅力
橘:生活環境学科は、ファッションとインテリア、住まいについて学ぶ学科。様々な内容を取り扱う分、専攻に縛られすぎず、何をどれぐらい学ぶかの自由度が高い気がします。教員たちの人柄によるものか、特に住環境デザイン分野はその傾向が強いかもしれません(笑)。私は建築計画や、環境が行動にどのような影響を及ぼすか、といったことを専門にしていますが、主宰する「空間デザイン研究室」では、“空間”に関わることであれば何を研究テーマにしてもいい、と学生に伝えています。エンタメと空間、保育と空間…など、興味のあるものと空間とを結びつけて、学生たちはのびのびと研究に取り組んでいます。
槙:環境も、いろいろな要素と結びつけられる、幅の広い言葉です(笑)。私自身は環境心理学や色彩計画の研究者ですが、ファッションの色彩について教えることもありますし、「環境デザイン研究室」では“環境”に関連することであれば、どんなテーマも歓迎して、学生の研究活動をサポートしています。
内藤:“建築”というと、一般的には建物建築をイメージされることが多いかもしれませんが、今や様々なものを対象にするようになっています。私は建築デザインを専門にする一方、人間関係の建築としてワークショップにも深く関わっています。建築関連の知人たちも、舞台芸術やインスタレーション(展示空間自体を作品とする、アートの表現手法)など、建物づくりではない建築に携わっているケースが少なくありません。“公務員を目指していて、都市計画のベースとなる人間関係づくりについて学びたい” など、建築を自分の視点で自由にとらえて「建築デザイン研究室」に所属する学生もいますよ。
橘:内藤先生は昨年、本学に着任されましたが、他の大学で教えられた経験も豊富ですよね。それを踏まえて、本学や住環境デザイン分野の良さはどんな点だと感じられますか?
内藤:特に研究室に所属してからの、学生と教員との距離の近さです。これは圧倒的な魅力だと思います。3年次になるまでにいろいろな科目を学んだ上で専攻を決めるので、教員と共通の興味があって、深い話ができる。3、4年次でものすごく濃密な学びの時間が過ごせると感じています。
槙:以前、「研究室の研究」をされている方の訪問を受けたことがあるのですが、本学の研究室を見て“教員と学生が過ごす空間が分かれていないケースは初めて”と驚かれていました。コロナ禍で“キャンパスに通う”ことの価値が改めて問われましたが、私はそれを“楽しい時間が過ごせる”ことだと考えています。研究室が自分の居場所で、授業がなくても足を運びたくなる。そこには仲間や先生、助手さんがいて、研究やものづくりはもちろん他愛のない話もしたりして、一緒に時間を過ごせる。当たり前のようでいて実はそれがとても大切なことで、卒業生から“部活やサークルには所属しなかったけれど、研究室でいろいろな活動をしたことで学生生活を満喫できた”という声を聞くことも多いです。
内藤:研究室という自分で選んだコミュニティに所属して、興味のおもむくままに学び、教員や助手さんとのコミュニケーションから知識を深め、仲間と手を動かしてものづくりする。そんな充実した学生生活を送れるのが住環境デザイン分野ですね。
“自分が目立つより、みんなで力を合わせたい”学生が多いかも?
一人ひとりの持ち味を見つけて高める教育を展開
橘: 先日、3研究室合同の学内コンペを開催しましたが、そのほかにも常磐祭や体育祭など様々なイベントがあって、学生同士が協働するシーンも多い。特に常磐祭の際、住環境デザイン分野の3研究室ではそれぞれ展示作品を制作しますが、力を合わせて取り組むことで一人では到底なし得ないようなレベルの高い作品が完成します。その過程で思ってもみなかった自分の能力や適性に気づいたりもして、全身全霊を傾けた記憶とそこから得たものが、学生たちを着実に成長に導いていることを実感しています。
槙:素直で伸びしろがたくさんある学生が多いことも、住環境デザイン分野の特徴かもしれません。設計製図の実技などで個々の作品について教員がコメントする機会も多々ありますが、どの学生もそれを真摯に受け止め、伝えられた内容をどのように反映してスキルアップにつなげるかを一生懸命考えています。それと、“自分が目立ちたい、上に立ちたい”というより、“みんなでがんばりたい”と考える学生が多い気がしますね。
内藤:建築などの分野は個人で取り組むシーンも多いので競争意識が生まれやすく、ともすると勝ち負けにこだわってギスギスした空気が生まれがちですが、本学にはそんな雰囲気がまったくないことに驚いています。むしろ、他の学生が評価される場に立ち会うと一緒に喜んでいる。そして研究や課題などでそれぞれに忙しいはずなのに、仲間の手薄な部分をカバーしたりと、積極的に手伝ったりもしています。こうした環境なら、一人ひとりがのびのびと自分の持ち味を伸ばしていけると思いますね。
橘:素直さが魅力だからこそ、学生の教育にはいろいろと工夫を凝らしています。本学科ならではのことですが、取り扱うテーマが多彩で学生たちも横断的に学びを深めることが多いため、すべての学生に通用するマニュアルはなく、一人ひとりに向き合ってどのような伝え方が響くのか探りながら指導に当たっています。独自の視点を持っていたとしても学生がそのオリジナリティに気づいていない、そんな時は丁寧に話を聞きながら“自分で気づいた”体験につながるように少しずつヒントを出していったり。先生方はどのような姿勢で教育に取り組んでおられますか?
槙:“相談に乗る”かたちで指導していくことが多いですね。学生が提案してきたものをどう面白くするか、狭まりがちな視野をどう揺さぶって広げるか。アイディアをふくらませる初期の段階では、話を聞きながら“こんな方向性もあるよね”“そのポイントを発展させてみたら?”とアドバイスする。一方で、つまずいても簡単に方向転換せずに粘ってみては、という促しもします。ある程度方向性が固まってきたら、ブラッシュアップしてさらに良いものになるように、学生が気づいていない改良点などをそれとなく伝えます。上に立つ教員としてではなく、研究室の1メンバーとして一緒に取り組むイメージです。
内藤:私の理想は“教えない”こと。いいね、面白いね、がんばってるね!!と声をかけるだけで、課題の想定を超えたものまでデザインしたり、自分でどんどん走っていく学生もいます。とはいえ、そこまでのケースはなかなかないので、学生一人ひとりが必ず持っているユニークなところを見出してそれをさらに高めることは常に意識しています。そして学生に、チームで取り組む時は仲間の良さを見つけてそれをものづくりに活かしてほしい、ということも伝えています。自分の意見を通そうとすれば相手の悪いところを探すようになりがちですが、それでは作品がつまらなくなってしまう。相手の良さに気づけることこそ、本当の実力。それが研究室の学生たちの中に少しずつ浸透している気がします。
住環境デザイン分野は新たなステージへ。
学生が面白がりながら成長できる環境を創造していく
橘:学生には、“とにかく動いてみる”姿勢を大切にしてほしい、と願っています。現場に行って自分の目で見て話を聞いて、さらに感性を働かせる。そしてその経験から何を得たのかを冷静に分析して、自分の考えを組み立てる。必ずしも、誰からも感心されるような“大したもの”でなくていいのです。でもそれは結果的に、人に伝わるものになる。親や先生、ネットの意見などを鵜呑みにするのではなく、自分の体験でとらえ自分の頭で考えて結論を出す姿勢で取り組む、そのことが、ものづくりに限らず、変化の激しいこれからの社会においてますます重要になってくるのでは、と思うのです。
槙:私はこの学科で、“面白いことを見つけてカタチにする”力を育んで、“自分の立ち位置”を見つけてほしい。面白そう、と感じたことにはどんどん首を突っ込んで、ゴールに到達するためにやるべきことを自分で見つけ、実現していく。その中で、自分は何が得意か、どんなシーンで周りの役に立てるかに気づいていく。そんな経験を数多くしてほしいし、教員としてその機会をたくさん用意していきたいです。
内藤:私が学生にいつも言っているのは、“情熱とこだわりを持って、独創的なものを創造しよう”ということ。対象は研究でも制作でも何でもいい。その姿勢で生み出したものには愛着が生まれますし、その存在とつくりあげた手応えが、次への推進力になります。また、好きなことに没頭するのってお祭り騒ぎをするみたいなところがあるな、とも思っていて。それを体験できれば、学びや研究、制作が思い通りに進まない時も、どこか楽しみながら乗り越えられる。学生たちがお祭り騒ぎできる環境を用意したい、という思いは常にあります。
橘:内藤先生がメンバーに加わって、住環境デザイン分野もますます刺激的な場になってきた気がします。どの教員も学生思いで、思いついたことはどんどんやってみよう、という“面白がり”の精神も持っている。興味を感じたものに学生が参画して、うまくいくことも苦労することも楽しみながら成長していく、そんな体験ができる場として発展させていきたいですね。
※このページの掲載内容は、2022年取材当時のものです