槙 究先生
生活環境学科は楽しい学科。
頭の中に浮かんだアイデアや疑問に向き合い、
友人たちと共に青春の1ページを刻みましょう。
槙 究
Kiwamu MAKI
生活環境学科
専門分野?専攻環境心理学?色彩計画
Kiwamu MAKI
生活環境学科
専門分野?専攻環境心理学?色彩計画
[プロフィール]名古屋大学工学部建築学科卒、東京工業大学大学院総合理工研究科博士課程(社会開発工学専攻)修了。1995年実践女子大学着任。2011年度より現職。
良い空間、デザインとは何なのか。人生のテーマとなる問いが生まれた大学時代
現在に至る道のりについて尋ねられたとき、私はいつも父の話をします。父は、ペンキ屋の息子で教員。休日にはずっと日曜大工に凝っていました。コンクリートブロック造の実家は、ほとんど父が造ったようなもの。ものづくり好きでアイデア豊富、面白そうなことを見つけると、あれをやってみろこれをやってみろと、次々に私に勧めてくれる良き父でした。
そんな父の影響もあって、名古屋大学の工学部建築学科に進学。2?3年次で設計製図の課題に取り組んだのですが、やれどもやれども、自分がデザインしたものが気に入らず自信をなくすばかり。そもそも自分は、良い空間、デザインとは何なのかが分かっていないのではないか——その答えを求め、環境心理学が学べる研究室の扉を叩きます。
環境心理学は、建築環境と人間との関わりに心理学的な手法でアプローチする分野です。どういう空間、デザインが「良い」のか、分からなければ色々な人に聞いてみよう。そう思ったのです。
卒業研究に取り組んでいる最中、「参考にしなさい」と先生が貸してくださった本によって、大学卒業後の進路が決まりました。その本とは、乾正雄先生著「建築の色彩設計」。内容と分かりやすさに感動し「この先生のもとで学びたい!」と考えるように。乾先生の研究室に入るため、東京工業大学大学院への進学を決意します。
東京工業大学は工業系の単科大学ですが、学生の学びが専門分野ばかりに偏らぬよう、教養科目にも力を入れています。文系の著名な先生方の授業も多く、研究室で乾先生の指導を受けながら、プロダクトデザインや視覚の授業など、興味のある分野に色々と首を突っ込んでいましたね。今だとリベラルアーツ的な学び方と言うのでしょうか。
研究室で取り組んでいたのは、街路景観=街並みの印象評価に関する研究。街並みの中にあるさまざまな要素の中でも「テクスチャー」に注目し、建物の表面の素材感を変えることで、その街並みへの印象がどう変わるのか、インタビュー調査を行い、修士論文にまとめました。また、先輩のサポート役として、街並みの色彩に関する論文にも携わっています。
研究室の先輩たちの就職先と言えば、ほとんどがゼネコン。仲の良かった先輩に「跳ねっ返りなお前にはゼネコンは向いていないよ」と言われ、妙に納得してしまいました(笑)。時代は、バブル絶頂期。大手コンピューターメーカーにSEとして就職し、1度、研究の現場から離れることになります。
未知の生き物「人間」の特性を少しずつ知っていけることも、環境心理学の魅力
SEになったものの、目を悪くしてわずか2年で退職。乾先生に連絡をとって研究室に出戻り、博士論文に取り組みはじめます。
博士論文のタイトルは「街路景観における評価構造」。ある人が、ある街並みを良い、もしくは悪いと「評価」するとき、どんな印象が良し悪しを決定づけているのかインタビュー調査しました。
ある人は、整然と区画整理された街並みを「すっきりしているから好き」と評価し、繁華街の猥雑な街並みを「ゴチャゴチャしているから嫌い」と評価する。これによって「すっきりしている」「ゴチャゴチャしている」という印象が、評価に関連しているのだと分かります。
解明したかったのは、人間の心の中のメカニズム。大学3年生のときに私が抱いた「良い空間、デザインとは何なのか」という疑問につながる研究がやっとできました。
とは言っても、やはり感じ方は人それぞれです。すっきりした街よりも、ゴチャゴチャした街が良いという人もいるでしょう。人間は、私にとって未知の生き物。そんな人間の特性を少しずつ知っていけることも、環境心理学というフィールドの魅力のひとつです。
博士課程修了後、1年のブランクを経て実践女子大学の生活環境学科にやってきました。今年でもう24年目になります。
担当授業は、1年生が受講する「建築概論」をはじめとした基礎科目と、2年生が受講する「色彩設計演習A」などの演習科目。色彩設計演習Aでは、インテリアとエクステリアについて学びます。つまり、建物の内部と外部について学ぶということですね。
2年生になって初めて室内模型を制作する学生も多く、まずは基本的な制作方法を覚えながら室内のカラーデザインに取り組み、デザインの意図をプレゼンします。無事に1回目のプレゼンを終えたら、次は教室の外に出て、気になる街並みをピックアップ。Photoshopなどの画像処理ソフトでカラーシミュレーションを行い、自分が提案したい街並みの色彩計画について、2回目のプレゼンを行います。
人によって色彩の好みは千差万別ですが、街並みは「みんな」のもの。その問題についても、学生同士で意見を出し合いながら考えていきたいと思っています。
大切なのは提供し合うこと。他者と豊かな関係性を築き、幸せな人生を送ってほしい
私の研究室の基本スタンスは、「インタビューや行動観察などの手法によって、人間と環境の関わりを明らかにしていく」こと。学生の研究テーマは、空間や色彩に関するものはもちろん、ファッションに関するものもあり非常に幅広いです。あそこの研究室ならば何でもやらせてもらえる、という風に学生たちの間で噂になっているようです(笑)。
教員としてどれだけ年月を重ねようと教育はとても難しく、だからこそ面白い。学生たちは一人ひとり違った個性を持っており、それぞれにきちんと響くように伝え方を工夫していくのが目下の課題です。
私が思うに、教育とは「プチおせっかい」。私には4人の子どもがいるのですが、子どもたちがより良い人生を送るため、何かしてあげられることはないだろうか……と、親は常に考えています。学生たちに対しても同じ気持ちです。頭の中に浮かんだアイデアや疑問について、とことん考え抜く。その楽しさを伝えたいですね。
私も年を取り、昔はできていたけれどできなくなったことも増えてきました。物忘れも激しく、学生に「先生、出席をとるのを忘れていますよ」と教えてもらうこともあります。よく私の方からも「気づいたことがあったら何でも教えてね」とお願いしています。
一方的に教える、一方的に知識を与えるのではなく、お互いに持っているものを提供し合うのが理想的な関係。多くの人とそういう関係を結んで生きていくのが、幸せということなのではないでしょうか。
学生たちには、他者との豊かな関わり合いの中で幸せな人生を送ってほしい。若い時期、友人と一緒に、興味のある勉強に楽しく向き合った経験は必ずあなたの糧になるはずです。
生活環境学科は楽しい学科ですよ。ものづくりや、「こんなものがあったらいいのにな」と考えることが好きだという方は、ぜひ、かけがえのない青春の1ページを刻む場所として検討してみてください。