冬の朝
頭上で何度も鳴り響く機械音の鬱陶しさで脳が起きる。二分おきにアラームを設定した奴、どこの誰だよ、いや、お前だよ。と、昨日呑気に夜更かしをした自分に舌打ちをする。カーテンの隙間から漏れ出る光の優しさ、掛布団越しに感じる冷えた空気。それは冬を冬たらしめるもので、寒さがないと冬も冬で居られなくなるよなぁ、などとどうでもいいことばかり考える。夏の暑さと冬の寒さを足して二で割ってくれたらちょうどいいのにな、と叶いもしない願望を浮かべ、「布団がくっついて離してくれない!」などと自堕落な自分を擁護する理由とともに天井に投げつける。でもそれは、跳ね返って落ちてくるだけ。
いい加減起きなさい、と実家にいるはずの母の声が脳をこだまして、完全には開ききっていない瞼を無理やりこじ開ける。機械音の正体に手を伸ばして電源を入れ、ブルーライトの光に目を凝らしながらアラームを止めた。
時刻は7時15分、どうやら今日も地球は回っているようだ。
一限がある日の朝は憂鬱で、通勤電車の閉鎖感とか、遅刻ギリギリに到着するであろう未来の自分とか、余計なことばかり想像してしまう。そんなこと考えている暇なんてないのに、手を動かすより先に頭の中でどうでもいい考えごとばかりが先行してふつふつと湧き上がってくる。
そういう日に限って歯磨き粉は出ないし、服は決まらない。そういう日に限って電車は遅延しているようだし、外はあまりにも寒いらしい。ああ、今日はついてないな、運勢ランキングでうお座は最下位だろうな、と、自分を慰める言葉を並べて、焼いていない食パンを口に放る。バタバタする中で、せめてもと髪のセットをして前髪を整え、コートを羽織り、靴を履く。
なんとか外に出られる状態が出来上がって、片手に持ったスマホをちらりと見ると、ロック画面の通知に好きな俳優のドラマ出演が決まったという情報が入る。
その通知一つは魔法のようだった。
目が覚めて、体温がぐっと上がる。機嫌は戻るし、心は温まるし、テンションも上がる。ああ私は、なんて単純な生き物なんだ、寒さとか遅刻とか、そういうのどうでもいい、何とかなるわ。
前言撤回、今日の運勢ランキング、うお座、一位。(自分調べ)
ガチャリとドアを開け、頬に受けた冷たい風を吸い込んで吐き出す。寝起きに感じた憂鬱はすでにどこかへ飛んでいなくなっていた。
生きている だけでぼやける 視界には 春が待ってる きっとそうだよ
寒さが厳しい日々が続いておりますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。
体調などには十分気を付けて、冬を乗り越えましょう!
ペンネーム はる