柏崎 秀子先生
教職に活かす教育心理学
教師になるには、各教科の教え方を修得すればよいでしょうか。もちろんそれらは不可欠ですが、それだけでは十分とは言えません。なぜなら、教育は学習者と教師が、そして、学習者同士が関わり合う複雑な活動ですから、生徒の状態をよく理解して働きかけるには、人間の心や行動のメカニズムを理解する必要があるからです。人間の心や行動のメカニズムを探る、それが心理学です。その中でも教育に関わる心理学は教育心理学と呼ばれます。実は、教職課程には、教育心理学の内容が多く含まれています。「発達?学習理論」をはじめ、「教育方法?技術論」「生徒?進路指導論」「教育相談」などが、心理学と深く関連しています。
なかでも、子どもの発達について深く理解することが重要です。教育の対象である子どもの発達的傾向に合わせて、どのような方法?働きかけで教育を行うかを考えるのです。発達途上の子どもは決して「小さな大人」ではなく、独自の見方?考え方を持っていますし、幼児、児童、青年と発達段階によって特徴が異なり、変化していきます。ですから、たとえば同じテーマの授業でも、小学生なら具体物を多く示しながら体験活動を多く取り入れたり、中学生なら個々の事例から一般化や抽象化へと発展する活動を積極的に取り入れたりと、異なるでしょう。また、物事を学習するメカニズムが教え方?授業の進め方に役立つでしょう。たとえば、上手に覚えるには丸暗記ではなく自分なりの工夫が有効ですし、人に自分の行動や発言を認められると学習意欲が高まる等、教育心理学の知見が授業に活かせるでしょう。
さらに、学校は生徒達が長い時間を共に過ごす場であり、人間関係に関する課題が見られますが、それに対処するためにも教育心理学は貢献します。たとえば、中学生頃の思春期は子どもから大人へと移行する非常に不安定な時期であり、個性を出したい気持ちと他者と同調したい気持ちとが混在したり、自分の心が自分自身でもよくわからなかったりと、難しさを抱えています。個々の生徒の悩みに寄り添い、心の健康を保てるには、教師はいかに振る舞えばよいか、どのような言葉かけをしたらよいか等、カウンセリングの知見が活用できます。
このように、教育には教育心理学が深く関わっていますので、是非、教育心理学的内容を積極的に学習して、生徒達の学びや心に寄り添える教師になってほしいと願っています。