「環境」「メディア」「自立」で 学生の学ぶ意欲を育む
同じ学科でありながら、学生それぞれが多様な学びを目指すことができる実践女子大学生活科学部現代生活学科。
「現代生活学科は、変化激しい現代社会に対応できる知識や技術を総合的に学び、新たな社会の姿、新しい生き方について構想し、実践する力をつけることができる学科です」と話すのは、現代生活学科の須賀由紀子教授だ。遠いどこかの社会ではなく、私たち自身が守るべき暮らしとは何かという生活者の目線から、人間と社会、文化について学ぶ方法を身につけ、持続可能な社会、そして女性としての豊かな生き方についてのビジョンを持つことができるのが現代生活学科だという。
現代生活学科が、3つの柱として掲げるテーマは、社会的需要の?い「環境」「メディア」「自立」。一見すると、つながりが見えづらいものだが、「今」という視点で考えたとき、「環境」は世界にとっての喫緊の課題であり、世界中がその問題に取り組んでいる。情報化が進む社会において「メディア」は、私たちの日常には欠かせないものになっており、そして「自立」は、これからの日本にとって重要となる地域社会の「自立」、さらには学修する学生自身の「自立」を指す。
すべては、私たちが生きている暮らしを取り巻く諸問題の本質をよく知り、よりよく生きていくために何が必要なのか視野を広げ、持続可能な社会、そして自分自身の未来を考える力を培っていくことにある。より実践的に学ぶために、地域、企業、行政などと連携したプロジェクト型の授業を展開し、4年生では、「ファイナルプロジェクト」として、学びの総仕上げに取り組む。この春に卒業した4年生が、現代生活学科での学びについて、それぞれどのように感じていたか話を聞いた。同じ学科でありながら、三者三様に違う彼女たちの学びは、とても興味深いものだった。
須賀ゼミの藤野このかさんは、「地域づくり」に興味をもち、実践女子大学に入学した。「現代生活学科は、本当に自分の学びたいことが自由に学べる環境がとてもよかった」と話す。
「私は、もともとは文化に興味があり、その中で大学を探していました。実践女子大学に“現代生活”という見たことないような学科があるのを知り、さらにその中の『自立』というテーマの中の『地域の自立』という内容に興味を惹かれ、『地域づくり』を学んでみたいと思い入学を決めました。ゼミでは、『くらしいろはカルタ』というオリジナルカルタを使って、地域交流を活性化するためのプロジェクトを行いました。このカルタは、家庭科で学ぶ内容をもとに作られたカルタで、プロジェクトでは、カルタでただ遊ぶだけでなく、カルタに書かれている内容から多世代で楽しくお話を広げ、よりよい暮らしづくりのインスピレーションを得て、丁寧で豊かな暮らしに結びつけていくプログラムづくりを目的としました。
実際に、カルタに参加してくださった年配の女性から、カルタで思い出した『手紙』についてのお話を伺ったことがありました。
結婚式で娘さんから手紙をもらったおかげで温かい親子関係が今も続いている。今の若い人は、あまり手紙を書かないわね。と言われて、あらためて手紙という文化を見直したいと考えて『手紙を出そう』というワークショップを企画、実施しました。
世代を超えた交流から、私も新しい気づきをもらい、参加した人々もそれぞれに何かを得て、それが地域の力になっていくのではないかと感じています。卒業後は、地元の信用金庫に就職することが決まりました。生まれ育った地元をより活性化させたいと思っています。」
卒業後は、女優として芸能活動をするという行実ゼミの鶴田美月さん
「私は実践女子大学に入学する以前から、芸能に興味があり、企業へは就職せず芸能活動をするつもりでした。でも教養や社会勉強もしておきたいと考え、表現やメディアといった内容で大学を探していました。現代生活学科なら『メディア』もあり、『自立』や『環境』などいろいろな方面から社会を学べるのではと思い、教養を身につけるため入学を決めました。
行実ゼミでは、3年生の時に京都国際映画祭に行って、京都国際映画祭名誉実行委員長であり、20年ぶりにメガホンを取られた中島貞夫監督に直接インタビューをすることができました。インタビューするのは初めてで、ものすごく緊張しました。下準備では、みんなから映画の感想を集めて、女子大生という視点を大事にしながら質問することを心掛けました。
中島監督は、時代劇に対する思いやストリーミング形式に今なってる映画業界などについて率直な意見を話してくださり、『あまり時代劇をみない若者に時代劇を観てもらうことについてどう思うか』という私の質問に対して、『いつ、誰と、どこで、どういう状況で観るか、そういう受け取り側の視点がとても大事だ』と答えてくださったことが印象に残っています。
映画を受け取るだけじゃなく、自分の状況を踏まえて観るというのは何か新しい視点でした。
インタビューは、このゼミに入っていなければ経験できないことでしたし、表現することも行動することも、それまであまり自信がなかったのですが、ゼミには、メディアに興味ある学生が集まっているせいか、自分を表現しやすくなりました。大学では、ミスコン活動もしましたが、それもゼミの友人たちの後押しのおかげです。入学した時より、自己表現が豊かになったように思います。
お芝居が好きで女優を目指しています。でも、それ以前に『観ている人を楽しませたい』という最初の気持ちを大切にして、表現方法はどんなものでも、『楽しい』という気持ちを伝えられる仕事をしていきたいと思っています。」
2回目のビジネスコンテストで成長を実感したという倉持ゼミの中村楓さん
「私が実践女子大学に入学した理由は2つあります。ひとつには規模の小さい女子大学の方が手厚いサポートを受けられるのではないかと考えたこと。ふたつめは、現代生活学科という学科が『環境』『メディア』『自立』という全然関係ないような3つのテーマがいろいろなかたちで結び付いてるという特徴がすごく面白そうだなと思ったことです。進路を決める時期には、特にやりたいことが決まってなかったので、私にとっては選択肢が多いところにとても魅力を感じて、この学科を選びました。
ゼミでは3年次、4年次と『CSVビジネスコンテスト』というコンテストに参加しました。企業から出される課題に対して提案を競うものです。私たちは三井住友カードの課題に対して提案を行いました。『キャッシュレスな行動を通じて、社会課題解決を楽しく実現するには?』というテーマに対して、韓国の試験的金融プロジェクトを参考に、日本版『おつりPAY』という提案をしました。
キャッシュレス化を進めるために、現金で支払ったおつりをキャッシュレスで返すというものです。キャッシュレスと社会課題は、結びつけるのが難しいと思う一方で、それまでの学びから、障がいのある方にとっての支払い方法として、バリアフリーの面ですごく可能性があるのではないかと考えたのもあって、今までキャッシュレスに抵抗感を持っていた方々にも使ってもらえるように、韓国版を日本の問題点に照らし合わせながら提案をする形で行いました。
3年生で参加したときは、提案をゼロから1をつくりだそうとして煮詰まり、中途半端なアイデアになって予選で落ちてしまいました。今回は、韓国の事例を持ってきたという新しい視点をとても評価していただき予選は通過できましたが、入賞するにはもう一歩オリジナリティを加えられていたらと思います。
けれど、コンテストに参加したことで他校の学生から刺激をもらい、視野も広がって、とても勉強になりました。コロナ禍も経験して、就職活動を進めるなかで、仕事にしても、家にしても、やはり人が心地よく過ごす空間はとても大切だなという思いに至り、そういう空間づくりに役に立つ建材メーカーへの就職を決めました。新しい興味をみつけることができ、やはりこの学科を選んで良かったと思います。」
話を聞くなかで、三人が口をそろえたのは、仲間についてだった。「自分らしくいられる」「私よりも私のことを知っている」「自分のやりたいことに対してひたむきに取り組む友人が多い」など、ともに学ぶ仲間とのよき出会い、またサポートなど周囲の環境の良さがうかがえた。学びたいことが決まっている学生はその道に邁進すればいい。決まっていなくても、現代的な幅広い学びの中から、自分の将来につながる道が見つけられる。
ただ、やりたいこと、学びたいことを定めて進むのは、そう容易なことではない。学生時代に、社会とつながるさまざまな経験をして、学生が新たな興味をみつけたときに、学ぶ環境として現代生活学科が柱に掲げる3つのテーマの懐の深さをあらためて感じる話だった。