生化学実験 ~ヒトゲノムDNAを用いた遺伝子型解析~
食生活科学科助手A.S
寒さが一層厳しくなってきました。
今回は、管理栄養士専攻2年生の「生化学実験」についてご紹介します。
この実習では、「生化学」で学んだ栄養素の構造と機能を、定性実験や定量実験を通じて確認するとともに、栄養素の代謝と調節を行う酵素などの性質について理解を深めることを目標としています。
今回の実習内容は、「ヒト口腔粘膜からのゲノムDNAの抽出と遺伝子型解析」です。
実習は2回に分けて行われました。
遺伝子型解析を行ったのは、アルコール代謝に関わるアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)と肥満に関連するβ3アドレナリン受容体(β3AR)の2つです。
このALDH2とβ3ARには、ゲノム配列の1塩基の違いで酵素活性や受容体の働きが低下する遺伝子多型が存在しており、これはSNPs(Single Nucleotide Polymorphism:一塩基多型)と呼ばれています。
それぞれの遺伝子多型には野生型と変異型があり、ALDH2の変異型をもつ人は、体内でのアルコールの分解速度が低下するため、お酒に弱い体質になります。また、β3ARの変異型をもつ人は、中性脂肪の分解が抑制されて蓄積し、肥満になりやすいといわれています。
実習では、口腔粘膜細胞から抽出したゲノムDNAを用いて、ALDH2とβ3ARの遺伝子多型を
リアルタイムPCR法とエンドポイントPCRのアガロースゲルによる電気泳動法により行い、アルコールパッチテストや両親の出身地などと合わせて考察していきます。
リアルタイムPCR法は、皆さんもご存知の通り、足球现场直播,大发体育在线感染症(COVID-19)の確定診断にも用いられている最先端の遺伝子解析技術です。
短時間に特定の遺伝子を増幅することにより、その遺伝子の有無や量を解析することができます。
エンドポイントPCRのアガロースゲルによる電気泳動法では、リアルタイムPCRを行った各自のPCR産物を、寒天(アガロース)ゲルで電気泳動を行います。
5 ?Lというとても少ない量を正確に測り取り、ゲルにある小さな穴に確実に注入しなければならないため、学生の皆さんも慎重に作業を進めていました。
電気泳動が終了したら、青色LEDトランスイルミネーターという装置で480 nmの光を当て、ゲルを観察していきます。
ゲルの中で筋状に光っているところが「バンド」と呼ばれ、蛍光色素が結合したDNAが緑色の蛍光を放つことで可視化できます。
このバンドを比較することで、PCRで増幅したDNAの長さや有無を判別します。
各自のゲノムDNAは異なるため、バンドの見え方も各々違う結果となります。
近年、臨床現場では、個人のヒトゲノムDNAの配列に基づくテーラーメイド医療や精密医療が活用されています。
実習内容を理解するとともに、管理栄養士を目指す学生たちの興味や関心の幅が広がることを期待しています。