<研究室訪問>諏訪 友亮専任講師
視野を世界に広げて。
文学の価値を今、改めて多くの人に伝えたい。
アイルランドは1922年に自治権を獲得し、イギリスから独立した国です。私は大学時代からこの国の文学、特に詩について専攻し、自治権獲得後、一つの国として歩み出そうとする時期に文学者たちがどのような国民像を提示しようとしていたのかを研究してきました。
例えば、1923年にノーベル文学賞を受賞した詩人?劇作家のウィリアム?バトラー?イェイツはヨーロッパという広いコミュニティの中で生きる姿を自ら体現し、20世紀における重要な作家の一人に数えられるジェイムズ?ジョイスは代表作『ユリシーズ』の主人公であるユダヤ人ブルームに“民族の出自に関わらず自分はアイルランドの国民である”といった台詞を語らせています。こうしたことから、文学者たちは閉鎖的?排他的にならずオープンであ
ろうとする人物像を描き、その姿を通じてアイルランドの人々の“国民”に対する概念を広げていこうとしたのだと考えています。
私がまだ学生だった2000年代初頭は、グローバル化の進展によって日本を始め世界各地でナショナリズムが強まるという逆転現象が現れつつある時期でした。そんな中、2009年にアイルランドに留学。移民を受け入れ始めていた現地で、その人たちも国民として受け止めようという風潮を感じました。同じ島国でありながら日本とは異なる空気に、“この違いはどのようにして生まれたのだろうか”と関心を抱いたことが先述のテーマを研究するきっかけになりました。研究の中で、この国には古くからカトリックとプロテスタントのどちらの宗派に属するかで社会が分断されている状況があり、同じ国に暮らす者同士としてどのように互いを認め合っていくかが課題であったことが浮かび上がってきました。文学者たちはそうした国の状況に向き合い、国民観を拡げるべく力を尽くしてきたのです。
しかし研究に取り組み続けるうち、アイルランド一国の枠の中だけで見ていては、文学者たちが作品を通じて示した可能性や作品が描かれた背景などを捉え切れないと感じるようになりました。またアイルランド文学者たちの著した作品の多くが、国境を超えて人々に受け入れられ愛されています。そこで現在は、アイルランドを始めとする英語圏でつくられた詩が、世界各地でどのように読まれ影響を与えてきたかを研究しています。これは作家や作品を世界文学の視点で検討するものですが、この研究を進めるには各地の特性や言語についての理解が欠かせません。当然、一人でできることには限界があり、他の研究者と協働する必要があるものの、グローバライゼーションという経済的側面ばかりが強調される動きに対して文学がどのような働きかけを行うかの、一つの解にもなると感じています。スピード化が進む現代、文学は以前ほどの影響力を持たなくなってきているメディアですが、言葉や作品、その背後にあるものにじっくり向き合うことは人の内面を着実に豊かなものにしてくれる。その価値や面白さを今改めて発信できたら、と思っています。
教育面では、足球现场直播,大发体育在线感染症対策で拡大したオンライン授業で、学びをどのように最大化するかにも意欲を持って取り組んでいます。試行錯誤の末、一方的に講義をするのではなく学生の意見や反響も即時に取り込める双方向性を高めること、また長時間の動画を流す際は見やすい長さになるよう何本かに分割するなど学生が集中できる環境を整えることが有効だという手応えを得ました。ゼミ活動もほとんどの時間がオンラインですが、Zoomによる個別指導を中心にWeb上で皆が集まる機会も設けるスタイルで行っています。アイルランド文化やイギリス文学はもちろん映画や音楽、LGBTQ文化を取り上げる学生もいるなど、研究テーマの幅が広いことも私のゼミの特徴です。卒論指導の際に大切にしているのは、答えを与えるのではなく問いかけて学生の思考を引き出すこと。学生には、テーマに対する問題意識を明確にし、集めた資料を丹念に読み込んで批判的な視点を養い、自分の考えを複眼的に分析してその結果を論文としてまとめることを意識してほしい。大学での学びの中で批判的な思考力や想像?創造力を身につけることが、学生の、ひいては彼女たちが生きる社会の未来をより良いものにすると考えています。