<研究室訪問>奈良 一寛教授
実践女子学園では、教員がそれぞれ独創性を発揮しながら興味深い研究を展開しています。
今回は、生活科学部 食生活科学科の先生に登場していただきます。
食品素材の可能性を追究し、
地域を元気にしていく
「どのように調理すれば、その食品がもつ
栄養成分や機能性成分を上手に利用できるか」を
追究する奈良先生。
研究活動を基盤とした地域振興や、
産学連携によって「現場を知る」教育にも
熱心に取り組んでいる先生にお話を伺いました。
「食品に含まれる栄養成分や機能性成分を分析し、その食品を効率良く利用する方法を見つけ出す」ことをテーマに、研究を展開しています。食品の多くは素材のまま食べるわけではなく、加熱などの「調理」という工程を経て、私たちの口に入ります。従って、食品の栄養や機能性を見つめる際は、調理の仕方でそれらにどのような変化が生じるかを考える必要があります。例えばホウレンソウはビタミンCを多量に含みますが、ビタミンCは水溶性のため、茹でるとその多くが損なわれてしまいます。栄養成分を上手に残して調理するためには電子レンジを活用する、といった方法も有効です。「手料理は手間暇をかけて行うもの」という価値観もありますが、現代は共働き世帯も多く、調理に時間をかけられない家庭も少なくありません。食材ごとにいろいろな食べ方があることを把握していれば、その食材や状況に合わせた調理法で、効率良く栄養を摂取することができます。
私がこれまで研究対象としてきた食材は、アピオスやカシスといった農産物。中でも青森県の特産品であるアピオスについては14、5年研究しています。これはアメリカ先住民の栄養源となっていたとされるマメ科の植物で、大きさは親指ほど。ジャガイモを思わせる食感で、やや繊維が多めです。このアピオスの栄養成分を分析した結果、イソフラボンを多量に含んでいることがわかりました。イソフラボンは骨粗しょう症予防や更年期障害の改善に役立つといわれている成分で、含有食品としてダイズがよく知られています。つまりこの発見により、イソフラボンを摂りたい場合、ダイズのほかにアピオスという選択肢が増えたことになります。効果的な摂取法についても調べ、小麦加工品として摂ると吸収が良くなることも突き止めました。具体的には、小麦粉が主原料となるパンやうどんをつくる際に、アピオスを粉末にして加えます。すると、通常は体内で分解されるイソフラボン中の糖(グルコース)の分解が加工段階から始まり、体内での吸収がスムーズになります。こうした研究成果を地域に提供することで特産品の活用や普及を後押しし、地域振興に貢献したいと考えています。
研究を地域振興につなげる取り組みとして、産学連携にも力を入れています。昨年度は、主宰する食品化学研究室に所属する学生とともに、原木しいたけで6次産業※に取り組む「内沼きのこ園」(青梅市)と連携し、原木しいたけの成分分析とレシピ開発を行いました。原木しいたけに含まれるうまみ成分のグアニル酸が加熱の温度と時間によってどのように変化するかを明らかにし、グアニル酸の機能を効果的に発揮させる時短レシピを開発。また、内沼きのこ園内にあるカフェの集客アップを目指したメニューと、お土産商品も提案しました。内沼きのこ園から「レシピのアイディアに加え、専門的な分析によるデータや、客観的な視点に基づく意見をもらえたことは大変刺激になった」という声が寄せられるとともに、学生からも「原木しいたけの生産現場の現状を見て、その厳しさとやりがいを感じた」といった声があがりました。学内にいるだけではなかなかわからない、ものづくりや商品開発の難しさ、販売の大変さなどを、体験を通じて学生が学ぶ良い機会になったと感じます。
日野キャンパスの位置する多摩地域は都市圏でありながら農業が盛んで、食を学ぶのに良い環境だと思います。昨年は学科の課外活動として「磯沼ミルクファーム」(八王子市)と連携しレシピを開発する取り組みを行いましたが、参加を呼び掛けたところ多くの学生が手をあげてくれ、本学の学生の意欲の高さを改めて実感しました。連携先にも学生にも得るものが多い取り組みだと感じているため、これからも積極的に多摩地域をフィールドとした産学連携を展開していきたいと考えています。
そして私自身も、各地の特産品を素材に成分分析や栄養?機能性の活用研究に幅広く取り組んでいきたい。研究を通じて、日本各地を元気にすることに貢献できれば研究者冥利に尽きますね。
※1次産業の農業と、2次産業の加工、3次産業のサービス?販売を一体化させることで農業の可能性を広げ、新たな付加価値を生み出そうとするもの。