児島 薫先生
脈々と受け継がれる
実践重視のきめ細やかな教育が
文化継承の担い手を育成する
児島 薫
Kaoru KOJIMA
美学美術史学科
専門分野?専攻 絵画を中心とする日本近代美術史。特に官展の画家、歴史、女性画家などについて。
Kaoru KOJIMA
美学美術史学科
専門分野?専攻 絵画を中心とする日本近代美術史。特に官展の画家、歴史、女性画家などについて。
[プロフィール]東京教育大学附属高等学校(現筑波大学附属高等学校)を卒業後、東京大学文学部美術史学科、東京大学大学院人文科学研究科修士課程に進み美術史専修課程を修了。東京大学人文科学研究科博士課程美術史専攻課程日本美術史を専攻し、3年次に世田谷美術館で非常勤学芸員。東京国立近代美術館美術課絵画係研究員、企画資料課企画渉外係研究員、その後退職して一時在仏。帰国後石橋財団ブリヂストン美術館学芸課学芸員。その後非常勤講師をする中で実践女子大学でも教える。2000年より現職。2007年にロンドン芸術大学でPh. D.取得。
長い歴史を誇る、本学自慢の「博物館学課程」
博物館法によって定められている美術館や博物館、資料館などで働く専門の職員、それが学芸員です。学芸員は、作品や資料の収集、保管、展示などの業務を行うとともに、展覧会の企画や所蔵品の調査、研究といった専門的な仕事を担っています。
本学には、学芸員の資格を取得するための博物館学課程があり、女子大学の中では長い歴史を誇っています(設置は1967年)。また、1985年には文学部美学美術史学科が設置され、美学美術史学科との連携のもとに博物館学課程の教育を展開しています。
博物館学課程は、3,4年次が対象です。2年次の終わりにガイダンスがあり、3年次の学内実習では実際に作品の扱い方を学びます。4年次には学外の美術館や本学の「香雪記念資料館」で実習を体験。現役の学芸員をはじめ、美術の現場で豊富な経験を持つスペシャリストが授業を担当し、課程では学生一人ひとりに対応した細やかな指導を行っています。
独自の上級科目も設定した充実のプログラム
本学の博物館学課程では、必修科目と選択必修科目を修得した学生を対象に、次のような上級科目も独自に設置しています。
■知的財産研究
美術館で作品を公開したり広報したりする上で大変重要な著作権。この考え方をさらに広げ、知的財産ついて学ぶ科目です。本来、著作権は作者の権利を守るものですが、パブリックドメインといった動きも広がっていることから、この科目を設置しています。
■アート&パブリッシング
学芸員の業務の一つである、図録の編集?出版業務について学びます。講師は、美術関連書籍や展覧会図録、美術に関する著作のデジタル公開などの業務に携わっている方にご担当いただいています。
■パブリック?プログラム研究
実際に「香雪記念資料館」で行っている展覧会について、学生たちが鑑賞を補助するミュージアム?キットを作成します。本学の併設校の生徒を対象に鑑賞教室を開き、そこで活用してもらう試みも行っています。美術館でワークショップなどを開いている現役の学芸員の方が講師です。
■保存修復
作品がどういう素材、技法で作られているかを知ることは、美術史研究でも重要ですが、学芸員が実際に作品を扱う際には必須の知識となります。これを知らないと安全に作品を移動、展示、保管することができません。修復の専門家を講師に、洋画、日本画、彫刻の保存修復について学びます。
梱包実習、博物館実習などで実践力を磨く
3年次の学内実習では毎年、ヤマト運輸株式会社にご協力いただき、美術展覧会のための作品輸送に関わる専門の作業員の方を講師にお招きした梱包実習を行っています。薄葉の扱い方や綿枕の作り方などを学んで茶碗や仏像の手の梱包に挑戦するなど、実践的な演習を積んでいます。
博物館実習では、本学の渋谷キャンパスに備える「香雪記念資料館」だけでなく、外部の美術館?博物館にも多くの学生を送り出しています。担当教員は美術館?博物館への学生受け入れの依頼や交渉を行うだけでなく、履歴書や実習記録の書き方も丁寧に指導。学生にとっては、外部での博物館実習がまたとない社会経験の機会となっており、それがその後の就職活動にも生かされています。
また、香雪記念資料館を利用してギャラリートークの実習を行ったり、「東京?ミュージアム ぐるっとパス」を利用して美術館?博物館を巡ってもらったりと、工夫を凝らした学びの機会を提供しています。
ほかにも、美術館等で働く卒業生による活動報告や、博物館学課程を履修する学生の博物館実習報告?実習ノートなどを掲載した冊子「MUSEOLOGY」を年に一度刊行するなど、本学の博物館学課程ならではの独自の取り組みを続けています。
「香雪記念資料館」とは
学祖?下田歌子に関わる資料や近世以降に活躍した女性画家たちの貴重な作品を身近に鑑賞できる施設。館名は、下田歌子の号「香雪」に由来します。始まりは、1980年に渋谷校舎の一室を改修して造られた「美術資料展示室」。1985年の本学の日野校地移転時には、「日本?東洋美術展示室」として本館内に配置され、展示や博物館実習に使用されてきました。そして1999年、学園創立100周年記念事業の一環として本格的な博物館相当施設を目指し、「香雪記念資料館」が立ち上げられました。2014年4月には、大学の二校地化に伴って渋谷キャンパスに移転。女性の文化活動を紹介したり、学内のさまざまな専門分野に関わる展示を行ったりするなど、大いに活用されています。
文化の継承、発展の価値を理解する人材を育てる
博物館学課程は、学芸員を目指している人だけのものではありません。美術館に行くのが好き、美術に興味があるというすべての人にお勧めできる教育プログラムです。美術史などの学びとともに博物館学課程を履修することにより、展覧会がどのように作られているのか、その中で学芸員はどのような仕事をしているのか、展示会場の裏にある学芸員の仕事の主戦場についての話を聞く、あるいは見学する、という貴重な経験ができます。展覧会の開催にたどり着くまでの過程にどのような仕事があるのかを知ることで、美術館や博物館に訪れる際に新たな視点を持つことができるようになるでしょう。作品を大切に平等に扱い、リスペクトする姿勢を養ってほしい——。学芸員に限らず、何らかのかたちで美術に関する仕事に就いている卒業生も少なくありません。
美術史などの学びとともに博物館学課程を履修することにより、美術作品や展覧会をより一層楽しめるようになります。「美術」という共通言語で、国内外問わず多くの人々とつながるチャンスも広がるでしょう。履歴書に学芸員という資格を書き加えられるだけでなく、その後の人生を豊かにしてくれるという点も博物館学課程履修のメリットだと思います。
美術作品は、特定の個人というより社会全体、人類全体の貴重な財産。作品の価値を守り後世に伝えていくことの大切さ、そして、美術館?博物館の役割を理解し、美術を中心に文化を継承?発展させていこうとする人材を、一人でも多く育てていきたいと考えています。美学美術史学科との連携のもと、しっかり学生一人ひとりをサポートしていきます。