未来への扉を開ける: 学際的研究で磨くグローバルな視点
食生活科学科教員A.N
私は「栄養生化学研究室」を主宰しております。今回のブログでは、卒論を通じて研究の魅力を伝えるために、研究室の研究テーマにについてお話したいと思います。
私自身の研究テーマは前職の国立大学医学部から一貫して、日本の死因ランキングで第2位となっています「心疾患」の早期発見に関する研究です。専門的な話になりますが、アテローム動脈硬化性疾患のヒト血管平滑筋モデル細胞が分泌する「エクソソーム」と呼ばれる微小な分泌小胞に含まれる疾患バイオマーカーを探索し、同定された新規バイオオマーカーを血液検査で「心疾患」の早期発見に臨床応用できるような研究を行っています。
こちらに赴任してから、研究室の卒論や修論のテーマの一つとして栄養に関連した研究を行っています。最近、国際的に注目されている「DOHaD」がそのひとつです。このDOHaDの日本語訳はまだありませんが、Developmental Origins of Health and Disease(健康と疾患の発症の発達的起源)の略です。DOHaDでは、胎芽期?胎生期から出生後の発達期におけるさまざまな環境因子が、成長過程や大人になってからの健康や種々の疾病発症に影響を与えるということが明らかにされています。つまり、生活習慣病や精神疾患の発症原因は母親の妊娠期間中に決まってしまうというセンセーショナルな学説です。
さて、私の研究室のDOHaDのテーマは、とりわけ母体の子宮内環境が過栄養なケースに焦点を当てています。具体的には糖尿病の母親から生まれた子どもが、将来、心臓病や精神疾患を発症するメカニズムの分子レベルでの解明と、一次予防として防ぐための食事からの機能性脂質の探索を行っています。私がこの研究を始めたきっかけは、約18年前に、一人の管理栄養士の方が社会人大学院生として入学し、それが縁で、おそらく日本で始めてとなるこの研究を彼女と一緒にスタートしました。その後も、大学院生として管理栄養士の資格をもつ学生が入学し、彼女たちとの栄養学に関わる研究が実践女子大学に移るきっかけともなりました。
学生は、妊婦ラットの糖尿病モデルを作成し、生まれた子どもへの影響を調べます。さらに、ヒト胎児の神経細胞や心筋芽細胞の高血糖モデル細胞を構築して、子宮内高血糖環境の胎児への影響とそれを改善する機能性脂質の分子メカのズムを「生化学」「細胞生物学」「分子生物学」「実験動物学」などの手法を用いて研究しています。
過去5年間で、指導した学生たちは私の研究室の修士課程に進むだけでなく、東北大学、東京大学、東京医科歯科大学、群馬大学、同志社大学、日本医科大学などの医学?生命科学系大学院に進学しています。研究で得られた研究成果は、最初の論文が「Nutrition」に掲載され、その後、「European Journal of Nutrition」および今年の春には「Nutrients」に掲載されました。これらの学術雑誌は栄養科学分野において、国際的にトップレベルの国際学術誌であります。国立大学の医学系大学院に進学した私の卒研生の3人は、DOHaDの分野で管理栄養士の資格を持ちながら、さらに日本を代表する素晴らしい女性研究者に成長していくと思います。昨年、日本医科大学の博士課程に進学したYさんは、コロナ禍の中でありながら、実践女子大学での大学院修士課程2年間で、国際学会で第一著者として2本、国内学会で8本(内共同演者として3本)の研究発表を行い、さらに著名な国際学会誌に共著で2本の論文を発表し、現在、もう1本の論文を投稿準備中です。
私ができることは、学生たちの主体的な研究をサポートし、自由に研究できる環境を作ることです。研究はいつも順調に進むわけでなく、困難な壁に衝突して、悩み苦しむこともあります。しかし、それらを含めて楽しみながら国内外の多くの研究者とつながり、グローバルな視点で研究を行う醍醐味を、たっぷり味わいながら将来につなげて欲しいと思います。