2019年3月
2019年2月22日(金)
植野達郎教授 最終講義 「フォークナー体験」
去る2月22日(金)、今年度をもって教授職をご退職される植野達郎先生による、最終講義が行われました。先生が学生時代より長年に渡ってご研究されてきたウィリアム?フォークナーを中心に、これまでのご自身の軌跡について時折ユーモアを交えながら講義されました。
講義では、先生がフォークナー作品と出会った学生時代を振り返られ、英文?構成ともに難解なフォークナー作品を、少しでも理解したいという気持ちに駆り立てられたとお話されました。大学院時代には『アブサロム、アブサロム!』の英文を一つ一つ時間をかけて精読され、この時のご経験は、英語を読むということに対して後に大きな自信となったといいます。また、章によって語り手が異なる本作品を例にとって先生の研究テーマの一つである「語り」についても触れられました。語られる対象が同じでも、語り手の視点によってその対象についての情報に差異が生じることは、現実世界にも共通する部分があると先生はお話され、研究対象に留まることなく、視野を広げて物事と捉えられていく先生のご研究の姿勢も伺い知ることができました。
先生はフォークナー研究に従事されながらも、英語を読むことの究極とも言える翻訳にも注力されてきました。その中でもSF作家、トマス?ピンチョンの『重力の虹』は、フォークナーとはまた異なった難解さがあります。現代のようにインターネット等の情報網が整っていない時代に、本作品の翻訳作業は大変に時間を要し、想像以上に難しかったと先生は当時のことを振り返られましたが、先生も含め、4名の翻訳者によって翻訳された本作品は1993年の刊行当時、大変話題となり、ピンチョン研究に随時する日本人研究者にとって貴重な資料となったことは言うまでもありません。
学生時代より培われてきたじっくりと時間をかけ、一つ一つ読み解いていく、先生のこの英語を読む姿勢は、本学科の学生たちへも伝えられてきました。授業内だけでなく、授業外では読書会を開き、学生と一緒にネラ?ラーセンの『白い黒人』を翻訳されています。スピードが重視されがちな現代において、じっくりと物事を考え深めていくという経験は、学生にとっても大変貴重な財産となっています。
当日は学内外から多くの来聴者の方々にお越し頂きました。これも植野先生のお人柄があってこそですが、それだけではなく、これまでの教育や校務、ご研究に励まれてきた先生の姿から、学生や私たち教職員は多くを学びました。
植野先生、32年間という長い間、本当にありがとうございました。ご退職後は益々お元気で充実した日々をお過ごしくださいますよう、お祈り申し上げます。
記?青野 文香(英文学科 助手)