著者は語る 『公共図書館運営の新たな動向』(勉誠出版) をどう読むか
須賀先生とご著書について
須賀千絵先生は、今年2018年4月に実践女子大学図書館学課程の専任講師として赴任されました。研究分野は図書館情報学です。
本書は、日本図書館情報学会研究委員会が編集を行い,2000年代以降に大きな変化が見られる公共図書館の運営について、8人の研究者が論じたもので、須賀先生は、第1章「公共図書館における計画と評価」を担当されています。今回は現代生活に根付いている公共図書館について,図書館学課程の授業を履修している学生さんだけでなく,学生の皆さんに強くお伝えしたいことを中心に語っていただきました。
なお,本書の紹介と当館所蔵情報を当ページ末に置きましたのでご参考にどうぞ。
「公共図書館」だけの「新たな動向」?
このタイトルを見て,「公共図書館は使わないし,図書館学の授業もとっていないから,自分には関係なさそう」と思った人もいるかもしれません。でも,もう少し,我慢して読んでみてください。これは確かに図書館に関する本ですが,ここに書かれた内容の多くは,決して図書館だけの話ではないからです。
本書は,次の8つのトピックから構成されています。8つのトピックには直接の相互関係はなく,経営計画や住民との「協働」のように抽象度の高いものから,図書館建築のような具体的な「モノ」の話まで,内容は多岐にわたります。
公共図書館における計画と評価(須賀千絵)
指定管理者制度の新たな動向(桑原芳哉)
都道府県立図書館の新たな動向(石原眞理)
図書館における経営組織と司書の専門性(小泉公乃)
公共図書館運営における住民との「協働」(荻原幸子)
個人情報保護と図書館(新保史生)
図書館建築の動向(中井孝幸)
公共施設再編と公立図書館(松本直樹)
これらの「新たな動向」は,図書館内部から発生したものというより,むしろ図書館という場にみられる「社会全体の変化」を反映したものです。きわめて当然のことですが,図書館も,学校も,企業も,それを取り囲む社会の変化に応じて,日々変化しています。「社会全体の変化」は目に見えにくいものですが,図書館のような現実の場に反映されることによって,その変化の中身や問題が具体的になり,実感できるようになるはずです。
計画と評価の必要性
本書の中で私が担当した章は「公共図書館における計画と評価」です。私は,この章の中で,評価の問題は評価にあるのではなく,計画にあるということを書きました。現在,企業でも,学校でも,図書館でも,「漫然と仕事をするのではなく,具体的な目標を立てて,その達成をめざしなさい」ということが言われます(たぶん,学校の勉強や部活動でも,同じようなことが言われてますよね?)。評価とは,達成できたかどうかをチェックする作業のことです。
公共図書館は,2008年の図書館法の改正により,「図書館の運営状況について評価を行う(第7条の3)」ことが定められ,評価が避けて通れなくなりました。しかし,この評価という作業は,図書館員からあまり好まれていません。というのは,評価の作業は,データを集めるなどの手間がかかります。その割に,実際の図書館サービスの改善に役立ったと実感しにくいからです。
そもそも図書館の目標とは何でしょうか?本を読むことによって「教養を身につける」「視野を広くする」といった答えが考えられます。でも,目の前の1冊の本を読んだからといって,即「教養が身につく」わけではありません。評価がしにくいのは,そもそも目標がはっきりしていないからではないか,では,どう考えればいいのかというのが,私の執筆部分の内容です。
これは図書館だけでなく,「売り上げ」だけで成果が測れない公共事業全体の問題でもあります。さらには,企業も,今や「売り上げ」だけを目標とするのは時代遅れであり,社会への貢献が求められています。最初に,図書館についての本だが,図書館だけの話ではないと書いたのは,このような意味からです。
図書館情報学という学問
本書は,日本図書館情報学会研究委員会の編集により,『わかる!図書館情報学』シリーズの第5巻として刊行されました。
図書館情報学とは,図書館だけでなく,本やインターネットなどのさまざまな形態の情報,人間の情報の利用のあり方など,情報にまつわるさまざまなトピックを研究する学問分野です。私は,たまたま,図書館について研究していますが,図書館情報学の扱う分野はとても幅広く,図書館とはまったく無縁の事柄を研究している人の方がむしろ多いくらいです。
『わかる!図書館情報学』は,図書館学課程の教科書などに掲載されるような基本知識ではないけれども,「今」「注目されつつある」「動きのある」トピックを集め,その名の通り,専門的知識を持っていない人にも「わかる!」ように解説しているシリーズです。「わかる」の後に感嘆符までついているのに,中味が「わからない」のではしゃれになりません。私を含め執筆者一同,編集者に,「わからないので説明を加えてください」「書き直してください」と言われつつ,一生懸命書きました(たぶん)。シリーズの他の巻(『電子書籍と電子ジャーナル』『情報の評価とコレクション形成』『メタデータとウェブサービス』『学校図書館への研究アプローチ』)もぜひ手に取ってみてください(読まないまでも新たな発見があるでしょう)。
書名: 公共図書館運営の新たな動向 |
|