研究紹介
2024年度、科研費「基盤研究(B)」に採択された国文学科の大橋直義先生に話を伺いました。
Q 研究の題名は、「中世制作 寺社縁起類の領域横断的研究—形態?様式?機能?表現からの分析と目録作成」ということですが、研究の目的?テーマについてお教えください。
ここでいう「寺社縁起」とは、寺社およびその堂宇の創建(創始)や再興に関わって、その来歴やそこに関与した祖師高僧の伝記、奇瑞霊験の歴史を叙述しようとする資料を意味します。この研究計画では、日本中世、つまり院政期から戦国時代に制作されたことが確実で、現在に至るまで〈紙の文化財〉として伝存する寺社縁起類の悉皆的調査を実施し、目録データベースを作成?公開することを目的としています。
Q 「領域横断的研究」というのは、どのような研究なのでしょうか。
寺社縁起に関する資料は、国文学のみならず文献史学?美術史学?日本語学など、様々な学問領域から研究が行われています。しかし、これまでは残念ながら個別の領域で研究が蓄積されてゆくばかりでその成果が十全に共有されているとは言い難い状況にありました。この研究計画では、上記の諸領域の研究者が集う環境を創出することで、寺社縁起研究を全方位的視座から進めることを目指しています。
Q 「形態?様式?機能?表現からの分析」ということですが、どのような結論が見込まれるのでしょうか。
調査研究を進めて行く過程で、「形態」(非破壊的方法に基づく書誌学的分析)、「様式」(本文?筆跡?絵画?装飾の様式分析)、「機能」(往時の寺院社会における機能論的分析)、「表現」(本文の文体?語彙?引用の方法などについての分析)という四つの指標からの分析を加えていきます。寺社縁起類に限らず、文献資料は、その本文テクストを制作した人、その文章を紙に書いた人、紙が漉かれ装飾を加えられた場、その書物を発注した人、それが書物として仕立てられた場、その書物が収められた場など、様々な観点からの検討が必要ですが、出来る限り多くの資料をこれらの指標に基づいて把握することで、中世日本におけるこの種の資料群の全体像を理解することが可能になるものと考えています。