研究紹介
2024年度、科研費「基盤研究(B)」に採択された人間社会学科の原田謙先生に話を伺いました。
Q 研究テーマについてお教えください。
研究テーマは、この15年間における地域環境と社会的ネットワークの変化を明らかにして、ポストコロナ時代において地域で幸福に暮らす条件を探ることです。
具体的に言うと、1)2010年から2025年までの15年間で地域環境、たとえば「この地域の人びとは信頼できる」といった項目で測定される「ソーシャル?キャピタル(社会関係資本)」や、同じ町内会くらいの範囲で見聞きする「犯罪被害の認知」は変化したのでしょうか?
また2)都市における孤独や孤立がメディアでよく話題になりますが、本当に私たちの社会的ネットワーク(親族?隣人?友人関係など)は衰退しているのでしょうか?
そして3)こうした地域環境や社会的ネットワークが、健康度や幸福感で測定されるウェルビーイングに及ぼす影響は変化しているのでしょうか?
今回の調査では、こうした問いに答えたいと考えています。
Q 「反復横断調査」というのは、どのような調査なのですか。
実践女子大学がある渋谷もこの15年間で大きく変わりました。15年前には、渋谷スクランブルスクエアも渋谷ストリームもありませんでした。こうした物理的な都市空間の変化は、いまの渋谷の写真や映像と15年前のものを比べて見れば一目瞭然です。
しかし、先ほど挙げた地域の社会的環境や人間関係の変化は、何らかの社会調査によって調べないと把握することができません。そこで、同じ自治体を対象として、同じ条件の対象者(個人)を抽出して、同じ調査項目を用いて、同じ調査票の配布?回収方法を用いて、複数時点間の変化をとらえる手法が「反復横断調査(repeated cross-sectional survey)」です。ある社会の変化をとらえる定点観測と言ってよいでしょう。
今回の場合、2010年に一都三県の30自治体を対象に、25歳以上の男女400人(計12,000人)を無作為抽出し、郵送調査法によって実施した調査を、2025年に「再現」するわけです。2010年の調査データを用いた分析結果は、『社会的ネットワークと幸福感:計量社会学でみる人間関係』(勁草書房)という書籍にもまとめているので、ぜひご覧ください。
Q どのようなことを明らかにしようとしているのですか。
コロナ禍では、ステイホームという掛け声によって外出制限がかかり、私たちに身近な地域環境の重要性を再認識させました。実際に学生の「社会学概論」や「地域社会学」のレポートでも、サードプレイス(家庭でも職場でもない第三の居場所)やウェルビーイングに対する関心が高まったことを感じます。
また、高齢者は身体的健康度の低下などによって生活範囲が狭まるので、近隣環境の影響を受けやすいと言われます。私の専門である社会老年学などでは、健康の社会的決定要因(Social Determinants of Health; SDH)に関する議論が高まるにつれて、地域環境に着目した研究が国内でも増えています。
私は、こうした研究動向もふまえながら、人生100年時代とよばれる都市生活において、幸福に暮らす/老いる社会的条件を、今回の調査研究で探究していきます。