カンボジアでの調査(人間社会学部教授 高橋美和)
仏教教学を学ぶ高齢者に着目したカンボジアでの調査の一部をご報告したい。写真は、20年ほど前から存じ上げているオム?ソチア先生(左から2人目)とパオ?ソマリー先生(同3人目)にコロナ以降初めて再会し、お話を伺った時のもの(2023年8月)。お二人はカンボジアで「ドーンチー」と呼ばれる女性修行者。(カンボジアには女性の僧侶は存在しない。)ドーンチーは高齢者がなることが多いが、お二人はかなり若い時に修行者になり、隣国タイに留学して教学を修め、帰国後20年以上教鞭をとられている。現在は、仏教寺院ではなく、菜園を備えた緑あふれる学習所に弟子のドーンチーたちと住まわれ、授業を行っている。コロナ以降は、ここでの対面授業の他、オンライン(ライブと録画動画の両方)を実施、ライブ時は、平日ということもあり、常時50名ほどの受講者にとどまるが、録画の方のアクセス数は現時点でその20倍ほど。講義形式だが、質疑応答も活発で、授業は双方的に行われている。受講者には僧侶を含む老若男女で、高齢女性がもっとも多いとのこと。
この教学は上座部仏教の経典『三蔵』の一部である、仏教哲学にあたる「論蔵」を学ぶもので、内容は難解であり、タイの論蔵学校のカリキュラムでは修了まで7年半もかかる。カンボジアでは、公的な教育制度の枠外であるため修了証などもなく、仮に全てを学び終えたとしても経済的な実利は皆無。文字通り、命尽きるまで学んだ生徒もあった。学び終わらないかもしれない学びにエネルギーを注ぐ高齢者を通して、「学ぶ」ということがどういうことなのか、あらためて考えている。
人間社会学科教授 高橋美和