駒田 亜紀子先生
「本物」をこの目で見て、肌で感じる価値。
美術作品への理解を深めることは、
あなたの今後の人生を豊かにします。
駒田 亜紀子
Akiko KOMADA
美学美術史学科
専門分野?専攻 西洋美術史(特に中世後期?末期の彩飾写本)
Akiko KOMADA
美学美術史学科
専門分野?専攻 西洋美術史(特に中世後期?末期の彩飾写本)
[プロフィール]名古屋大学文学部卒、名古屋大学大学院文学研究科博士後期課程(美学美術史専攻)修了、 パリ第4大学大学院博士後期課程修了。高知大学准教授を経て、2008年実践女子大学に着任。2017年より現職。
はじめて装飾写本を知ったときの心が躍るような感覚は、今も色褪せない
子どもの頃から絵を描いたり見たりするのが大好きでした。高校生になると、大学では美術の勉強がしたいと考えるように。でも、美大で絵を描きたいわけじゃない。美大以外で美術を学べる場所を探して、行き着いたのが名古屋大学の文学部です。
2年後期の学科選択で哲学科を選び、当初の予定通り美術史を専攻しました。所属していたゼミの先生の専門分野は、古代末期の西洋美術。同じフィールドで研究に取り組んだとしても、知識と経験豊かな先生に敵わないのは目に見えています。自分自身の力でひとつの研究をまとめたいと考えた私は、卒業論文のテーマに、中世後期の装飾写本を選んだのです。
装飾写本とは、テキストと共に優美な装飾画が描かれた手描きの本。内容は聖書や祈祷書など、宗教的なものがほとんどです。絵やテキストの内容はもちろん、縁取りの模様の意味や、本自体がいつどこで作られたかなど、研究対象となる要素が多く、とても掘り下げがいのあるテーマだと感じました。はじめて装飾写本を知ったときの心が躍るような感覚は、今も色褪せることがありません。
卒業論文で取り上げたのは、13世紀後半にイングランドでつくられた、新約聖書「ヨハネの黙示録」の装飾写本。装飾写本は「本」なので、絵画や彫刻などのように美術館に展示される機会はあまりありません。実物をこの目で見るまでのハードルが高く、それが一介の学生が装飾写本を研究する難しさでもあります。「ヨハネの黙示録」の装飾写本は有名なものであり、複製本が出版されていました。複製本がない装飾写本に比べて研究しやすかったから、というのも、この題材を選んだ理由のひとつです。
好きな研究を続けたい。その一心で修士課程へ。修士論文で取り上げたのは15世紀フランスの祈祷書です。そのまま博士課程に進みましたが、途中で休学し、フランスへ留学。博士号は、名古屋大学大学院とパリ第4大学(ソルボンヌ大学)大学院の両方で取得しました。
フランスでは、13世紀にラテン語からフランス語に訳された聖書の装飾写本を研究しながら、国内はもちろん、ドイツやイタリア、イギリスなどヨーロッパ中に足を運び、さまざまな美術作品を鑑賞しました。数多くの「本物」の前に自分の身体を置くことも、留学の目的のひとつ。言葉を覚えるのには苦労し、一筋縄ではいかない留学生活でしたが、思い切って海外に飛び出した経験は、今も私の糧になっています。
優れた着眼と論理的なアウトプットを可能にするには、とにかく「場数」を踏むべし
高知大学教育学部で教鞭をとった後、2008年に実践女子大学へ。文学部で美術史を教えることは長年の夢でした。現在は、ゼミ以外の授業では、1年次の「西洋美術史入門」と、3年次の演習を担当しています。
西洋美術史入門では、古代ギリシア時代から17世紀までの美術作品を、古いものから時系列に見ていきます。それぞれの作品に表れた地域や時代ごとの特徴について学び、美術を研究するための基礎知識を身につけるのが目的です。まさに「入門」と呼ぶべき授業ですね。
演習では、ゼミで本格的な研究に取り組む前の「訓練」を行います。まずは、興味のある展覧会にそれぞれ足を運び、好きな作品についてレポートを提出します。
次に挑戦するのは、ギリシア神話の主題を描いた美術作品を4点選び、その4点を「比較」する課題。よく学生は「画家ごとの個性が出ていて面白いと思います」というようなこと言うのですが、ではそれぞれの画家の個性は、作品のどこにどうやって表れているのでしょうか? 同じテーマを描いた4作品の違いは何なのでしょうか? その違いの背景には何があるのでしょうか? ——誰にでも納得してもらえるように言葉で説明するのは、簡単ではありません。
優れた着眼と論理的なアウトプット。これを可能にするには、とにかく場数を踏むことが必要です。見ることと言語化は連動しているので、見て感じたことを言語化していく段階でまた新たな着眼点が生まれます。こうした能力が養われていくうちに、美術作品を比較する面白さに気づくはずです。
比較の手法を身につけたら、さらに高度な「分析」に取り組んでいきます。演習を受講し終える頃には、4年間の集大成である卒業論文に、自らの力で立ち向かう覚悟ができていることでしょう。
まずは動く。試行錯誤を繰り返し、成し遂げる。その積み重ねが「自分」をつくっていく
ゼミでは、古代から17世紀までという大きな枠の中で、自由に卒業論文のテーマを決定してもらっています。やはり毎年、ルネサンス期が人気ですね。
2018年度の卒業論文テーマは、17世紀のオランダ絵画や古代ギリシア建築など。正直、建築は私も専門外なのですが(笑)、好きなことを研究したい学生の熱意を応援しています。私と同じことをやる必要はまったくありませんし、私自身も、学生と一緒に勉強し、視野を広げていけるのでありがたいと思っています。
論文の作成においては、書式を揃えることも大切です。出典の書き方や資料の整理についても事細かに指導しています。ルールに沿って書類をつくるスキルは、社会人になってすぐに役立ちますから。
美術史の研究は「見ること」が半分、あとの半分は「言語表現」です。美術作品という非言語の表現を、言語で表現し直す。非常に高度なスキルであり、誰もが持っているものではありません。適切な書類を作成するといった基本的なスキルとはまた違いますが、美学美術史学科で習得できるこの特殊なスキルは、社会に出てからも大きな武器になるはずです。
インターネットで検索すれば、何でも調べられる時代です。ですが、バーチャルの画像で満足せず、時間とお金をかけ、自分の身体を美術作品の前に運ぶことも大切。「そのもの」を、この目で見て、肌で感じる価値を伝えることは、教え子たちの今後の人生を豊かにすると信じています。
実践女子大学の美学美術史学科で学べるのは、西洋美術?東洋美術?日本美術、そして、古代美術から現代美術に至る、地域?時代共に幅広い専門分野。こんなにも多彩なジャンルの中から自分の好きなことを探せるなんて、「羨ましい!」のひと言です。今、私が高校生なら、間違いなくここで学びたいと思うでしょう。
自分探しという言葉もありますが、あれこれ思い悩むよりも、まずは動いて、試行錯誤を繰り返し、小さいことでもいいので、何かを成し遂げてください。その積み重ねだけが、「自分」をつくっていきます。少しでも美術に興味のある人ならば、楽しみながら成長し、自分の世界を広げていけるはず。自信をもって、入学をおすすめします。