資料からつながる記憶『実践女子大学書法研修訪中団』
実践女子大学と中国の関係
今回、実践女子大学生涯学習センター事務室の田中三恵子部長に寄稿いただきました。経緯としては次のとおりです。
日清戦争後の清国では、国家革新の方策として若者の日本留学を奨励しており、実践女子大学の前身である実践女学校でも1901(明治34)年の清国留学生受け入れを皮切りに、1905(明治38)年には実践女学校に清国留学生部を設置するなどの取り組みを通じて、留学生の積極的な受け入れを行っていました。学祖下田歌子先生のもとで、実践女学校は日本における清国女子留学生受入の中心的な学校として、1922(大正11)年まで100名近い多くの卒業生を輩出しましたが、後に辛亥革命で捕えられ処刑された秋瑾もその一人として1905(明治38)年に入学し、実践女学校に在籍しました。
その関係もあり、中国では今でも下田歌子先生の名前は広く知れ渡り、また、当時の資料が見つかることもあるため、図書館では定期的に中国の古書販売サイトから、学祖下田歌子先生の著作?関係本、また実践女学校時代の資料等の確認作業を行っています。
今回、そのチェック作業において、図書館のレーダーに捕捉されたのが、標題にある『実践女子大学書法研修訪中団』です。この資料は、1984年3月に本学国文学科の田中有先生を団長として同学科の学生が多数参加し、中国研修旅行が行われた際の名簿で、その参加者の一人に現在本学職員として勤務されている田中三恵子さんが掲載されていました。
田中さんにその研修旅行について伺ったところ、記憶はすっかり忘却の彼方に去っていたとの事でしたが、当時のアルバム写真を探していただくことにより、記憶が朧気に蘇ってきたこともあり、今回寄稿いただくことになりました。
「実践女子大学書法研修訪中団」の記憶
生涯学習センター事務室 部長 田中三恵子
今年は例年にない酷暑となりましたが、9月のある日、職場のPCに図書館から「これは田中部長ですか?」という問い合わせがありました。添付データをクリックしてみると、滅多に見ることがない学生時代の私の写真。
記録的な暑さとともに記憶に刻まれる出来事の始まりでした。
写真は、1984年3月6日(火)から3月13日(火)まで、「実践女子大学書法研修訪中団」として上海、蘇州、杭州、紹興を訪れた際の団員名簿に掲載されていたもの。その年、書道科教育法を履修していた学生に大学主催の中国ツアーの案内があり、既にパスポートを持っていた私は、同じクラスの友人と一緒に気軽に申し込んだことを覚えています。その団体名簿が、現在中国の古書店で販売されているというのです。
そのうちの一人が間違いなく私であるのか、本人確認をするための問い合わせでした。参加したことは確かですが、目の前にあるのは生まれて初めて作ったパスポート用の写真です。まさか数十年の時を経て、私自身が見たことがない団体名簿から、学生時代のパスポート写真と職場で対面するとは思いもよりませんでした。
ツアーを主催した田中有先生の「実践国文学の〈訪中レポート〉」によると、訪中の目的は3つ。
第1は、書道にゆかりの深い地を訪れ、その文物に接すること。
第2は、中国の青年との交流で上海の華東師範大学を訪問し、懇談すること。
第3は、紹興にある秋瑾故居を訪問すること。
紹興は魯迅の故郷であることはよく知られていますが、本学に留学していた革命家秋瑾女士の故居を訪れる人は少なく、この旅では、先輩のお家をお訪ねすることを企画段階から大きな目的としていました。
故居の訪問は、旅程も後半の3月11日。故居の責任者でいとこにあたる薫允良氏に館内を説明していただきましたが、これは例のないことだったそうです。館内をゆっくり見学した記憶はありますが、女士が学ばれた実践女学校からの初の来訪を喜んで心待ちにしていてくださり、立入禁止の奥の小蜜室まで見学させていただいたことは、数十年の時を経て先生のレポートから改めて知らされました。
そして、この原稿を書くにあたり自分の古いアルバムも紐解きましたが、初めての中国旅行に浮かれているものばかりで、大変貴重な機会をもっと有意義に用いる方法はなかったのかと、今は反省しきりです。
また、この旅を振り返る中で、下田先生は学園を創立して程なく清国留学生部を開設、1905年に20人を受け入れ、その中に秋瑾女士がいたということも知りました。今年、創立125周年を迎えた本学の2つの柱はグローバルと社会連携です。既に120年前から国際化を推進していた下田先生の見識の高さと先見性には本当に驚かされます。もしかすると今回の出来事は、「学園についてもっと学ぶように」と、学生時代の学びが不足している私への下田先生の御指導だったのかもしれません。
それにしても長い月日を経て中国に出回っていた自分の写真と遭遇するとは???。発見してくださった図書館伊藤次長に深く感謝いたします。