図書館員のおすすめ本紹介
図書館員がおすすめする本を紹介します【日野?渋谷】
図書館の所蔵情報も入れておきますので、ぜひ、借りて読んでみてください。
木曜日にはココアを/青山美智子著
『木曜日にはココアを』は、小説家 青山美智子さんのデビュー作で、第1 回宮崎本大賞(※)を受賞している作品です。本屋さんで、並べられた本を眺めている時、『木曜日にはココアを』というタイトルと表紙の可愛らしいデザインに惹きつけられ、自然にこの本を手にしていました。こちらの作品は、1杯のホットココアからはじまる、心がほっと温まる、12編の連作短編集となっています。1つ1つのお話が少しずつ繋がっており、ホットココアを飲んでいるように、心がどんどん温まっていき、読み終えたときには、なんだか幸せな気持ちになる本です。
落ち込んでいる時、嫌なことがあった時、心が疲れてしまった時、ぜひこの本を手に取ってみてください。毎日忙しい日々の中、明るい気持ち、優しい気持ちを思い出させてくれる本なのではないかと思います。日頃、本にあまり触れることがない学生の皆さんも、短編集となっているので、とても読みやすくお勧めです。
『木曜日にはココアを』の続編、『月曜日の抹茶カフェ』や、青山美智子さんの他の作品も紹介しますので、ぜひお手に取ってみてください。学生選書ツアーで選ばれた本もいくつかあります。
※「宮崎本大賞」は、宮崎県内の書店が選考を手掛ける文学賞です。
図書館所蔵情報
小さな場所/ジャメイカ?キンケイド著
120頁余りの「小さな」本です。しかし、そのページを開けば、あなたは一飛びでカリブ海に浮かぶ小島、アンティーガ島に降り立つでしょう。
著者のジャメイカ?キンケイドは、トニ?モリスンやアリス?ウォーカーと並び称せられるアフリカ系黒人女性の人気作家です。作者は常に「あなた」と呼びかける、その「あなた」は、今アンティーガの空港に降り立ったひとりの観光客。ようやくためたお金と休暇で訪れたリゾート地のホテルに向かうタクシーからは、見たことがない青さの海と空、そしてふりそそぐ太陽の光…来てよかった、そう思うのも束の間で、著者のささやくような文章は、あなたをいつしかこの島の暗い歴史へと案内していきます。
アンティーガ島の面積はわずか280?、カリブ海西インド諸島の中の、ひと粒の「小さな」島です。1493年にコロンブスが発見し、1667年にイギリス植民地となり、300年後の1967年に自治権を獲得、1981年にバルブーダ島とともに、アンティグア?バーブーダ国として独立しました。
著者のジャメイカ?キンケイドは1949年、まだ植民地時代のアンティーガ島で生まれた女性作家です。幼少期に感じたさまざまな「違和感」が実は「人種差別」だったという回想や、365ものビーチがある観光立国でありながら、「観光客は醜くて空っぽ」とばっさりと言い切る率直な表現の数々に驚かされつつも、そこにはポストコロニアル社会が抱える苦しみや葛藤がにじみでていて、それが私たちをまるで実際のアンティーガ島にいるような視点に立たせてくれるのです。
彼女は、17歳で渡米し、稀代の名編集者ウィリアム?ショーンに見出されて、『ザ?ニューヨーカー』誌のライターとなりました。彼女は、「「小さな場所」の人たちは、大きな枠組みや流れの中で自分自身のことを考えることができない」と言います。だから自分が言葉にすることで、アンティーガの人々と自分自身を本当の意味で「奴隷から解放したい」と願う作者の姿に、私たちは心を打たれていくのだと思います。
「あなたがアンティーガ島のホテルで使ったトイレの水はどこに流れるか、レストランで食べた料理の食材はどこから来たか知っていますか?」彼女の問いかけは、つねに具体的でシンプルです。
この作品が出版された1988年は、まだ地球温暖化も「なんとかなる問題」として、科学者の警鐘に耳を傾ける人はごく一部でした。しかし、「すべての問題はつながっている」と、未来に強い眼差しを向けた彼女たちの思いと行動は、2015年にSDGs「持続可能な開発目標」として結実しました。2030年のアジェンダ終了まであと7年、私たちはこの「小さな場所」からの切なる声を生かすことができるのか、書棚にそっともどしながら考えさせられた一冊でありました。