図書館員のおすすめ本紹介
図書館員がおすすめする本を紹介します【日野?渋谷】
図書館の所蔵情報も入れておきますので、ぜひ、借りて読んでみてください。
『海からの贈物』/アン?モロウ?リンドバーグ著 吉田健一訳
7月18日は海の日。明るく賑やかな海開きの光景が目に浮かびますが、この作品に出てくる海は、誰もいない静かな海。著者は休暇で、とある島のコテージに滞在しています。
そこでの生活は「どれだけ少ないものでやっていけるか」であり、不要なものや体面、虚栄心などは自然とはがれ落ちてゆきます。主人公のこのエッセイの筆者アンは、大西洋単独無着陸横断飛行を成し遂げたリチャード?リンドバーグの妻であり、6人の子の母であり、女性飛行家でもありました。女性としてすべてを手に入れ、豊かで便利な生活の毎日、でもその実態は多忙かつ煩雑の極みで、アメリカの女性が家事や仕事で「曲芸」のような毎日に追われていることに気づきます。偶然手にした小さな貝殻が、それ自身で完結し美しく輝いていることにインスピレーションを得た思索と文章は、のちのフェミニズムや現代のシンプルライフの考え方へとつながり、コロナ禍を経験した私たちの胸にも響くものがあります。
訳者の吉田健一は文芸評論家で英文学翻訳家、小説家です。そしてその父は、戦後の日本に独立を回復し、復興への道筋を開いた総理大臣吉田茂です。そのプレジデント?ヨシダの息子が後を継がなかったことに世界は驚かさせられますが、若き日、文士となる決意をしてケンブリッジ大学を中退し、一路シベリア鉄道で帰国した、その透徹した眼差しは、父茂やリンドバーグ夫人の澄んだ瞳と重なるものがあります。
「海から得たものは海に返す」と、著者はこのエッセイを世に放ちました。その「海」は「社会」とも読み替えられます。私たちは社会のどこからか生まれ、さまざまなギフトを受け取り、社会へと返す。最後は自分も命を終えて、その「海」へと消えていく。それは名もない一滴にすぎないかもしれませんが、その人が存在しなかった社会とはきっとどこかが違うはず。原作は1955年、邦訳は1956年に出版され、300万部を超える大ベストセラーとなりました。女性として、一人の人間として、読んでおきたい一冊です。
図書館所蔵情報
『すてきなあなたに』/
『「暮しの手帖」とわたし』/大橋鎮子著
この本との出会いはNHK連続テレビ小説「とと姉ちゃん」を見ていたのがきっかけです。
「とと姉ちゃん」は戦後、女家族で助け合いながら、女性のための雑誌を刊行し一世をふうびする女性を描いたドラマです。
「とと姉ちゃん」のモデルとなったのは、女性のための家庭向け総合生活雑誌『暮しの手帖』を1948年に創刊した大橋鎭子さんです。
このドラマを見て大橋鎭子さんに興味を持ち、『すてきなあなたに』と『「暮しの手帖」とわたし』をすぐに読みました。
『「暮しの手帖」とわたし』は大橋さんが生きてこられた時代のことやファッション誌の誌面がどのように作られているか、商品テストへの拘りなどが書かれていてドラマを思い出しながら、一気に読んでしまいました。
『すてきなあなたに』は、『暮しの手帖』編集長の花森 安治さんが描くかわいらしいイラストも見どころで、ページをめくるのが楽しくなります。
そして何より大橋さんの言葉がやさしくて心地よくて、今日はここまでにしようと思っていても1ページ1ページと読み進んでしまう。
生活の知恵や季節の移ろい、海外での出来事、料理のこと、おしゃれのこと??
日々の暮らしの中で見つけたことを小さな話にしてひと月ごとにまとまっていいます。
<ポットに一つ、一人に一つ>とおぼえて下さい。
なんのことか、おわかりですか。
一人分の紅茶は茶サジ山もり一杯です。
一人でのむときは、ポットに一杯とわたしに一杯。
二人でお茶をのむときは、ポットの一杯、
あなたに一杯、そして、わたしに一杯?????。
本文「ポットに一つ、あなたに一つ」より
『すてきなあなたに』1巻でとても印象に残っている文章です。
紅茶を淹れる時に思い出し、またこの本を読み返したりします。
ぜひ読んでみてください。