青梅の伝統工芸を知る~「青梅夜具地」調査リポート~ 学生:田中優梨?安倍帆香?小川礼桜?小松野乃花?村松鈴葉
私たち「民俗芸能演習」履修者有志は、「有形?無形遺産の結節点を探る—青梅夜具地の図案調査」に取り組んでいます。10月9日(日)常磐祭での研究発表に先立ち、9月4日に青梅市の「ぎゃらりーカフェはこ哉」を訪れ、オーナーの金子静江さんと田邉博美さん母娘、青梅夜具地夕日色の会?栗原広昭さんにお話しを伺いました。今回のブログでは、「青梅夜具地」の魅力についてご紹介します。
織物の郷と「青梅夜具地」
青梅夜具地を伝える青梅市は、東京都の西北部に位置する人口約13万人の街です。秩父多摩甲斐国立公園の玄関口にあり、6割以上を豊富な森林が占める豊かな自然環境に恵まれています。伝統工芸品「青梅夜具地」を展示している「ぎゃらりーカフェはこ哉」は、JR青梅駅から徒歩5分の場所にあります。
実は青梅駅周辺は、昭和レトロが味わえる観光スポットとしても人気を集めています。青梅駅を訪れた際には、電車から降りてすぐに目に入る、木造の年季を感じる休憩所に驚かされるでしょう。さらに改札に続く地下通路には、昭和レトロ感満載の映画ポスター風の絵が一面に描かれ圧巻です。「ぎゃらりーカフェはこ哉」までの道には、スタジオジブリの作品に出てくるような停留所や愛らしい猫のオブジェが点在し、遊び心あるかわいい雰囲気が楽しめます。
このように様々な魅力あふれる青梅市ですが、いったいどのような経緯で青梅の地に夜具地が栄えていったのでしょうか。
隆盛と時代の変化
かつての青梅は、織物の産地として有名でした。伝統工芸品「青梅夜具地」は、江戸時代の青梅村とその近郊に在住する女性たちの手で織られ、着物地として好まれた「青梅縞」がルーツです。「青梅縞」は青梅の重要な産業の一つで、明治時代まで広範囲にわたり流通していたそうです。その後、「青梅綿」とともに寝具の生地に使用されるようになると、「青梅夜具地」と呼ばれました。昭和12年頃には、全国の夜具地の織物の約60%を「青梅夜具地」が占めており、「青梅夜具地」は全国でその名が知られるようになります。隆盛を極めた「青梅夜具地」ですが、昭和33年にピークを迎えるとその後は急速に衰退していきます。その原因の一つが、戦後の生活様式の変化です。高度経済成長期、生活様式の変化と寝具の洋風化にともない、「青梅夜具地」の需要は低下の一途をたどります。残念ながら、平成11年に「青梅夜具地の生産」は終了してしまいました。
「夜具地」の展示と保存?継承
この「青梅夜具地」が、今でも見られる場所があります。それが、「ぎゃらりーカフェ はこ哉」です。現在使用されなくなった「青梅夜具地」の生地の展示のほか、ノートやポーチ、アクセサリーなどにアップサイクル(創造的再利用)しています。店内に一歩入ると、壁に掛かった「青梅夜具地」のタペストリー、夜具地をリメイクした猫グッズ、イヤリングやバッグなどが目に飛び込んできます。オーナー?金子静江さんの「青梅夜具地」に対する“愛”が伝わってきます。ギャラリーには、喫茶スペースもあります。金子さんは、訪れたお客様をもてなす際、ティーカップの下に敷くプレースマットとして夜具地を集めはじめました。その収集過程で製作者の方々からお話を聞くうちに、「青梅夜具地」の保存?継承を決意したそうです。「青梅で織られた、限りある青梅夜具地の配色やデザインを伝えていきたい」と語る金子さん。たくさんの貴重な夜具地を私たちに見せてくださり、どんな質問にも温かく丁寧に答えてくださいました。また、「青梅夜具地」の魅力を伝えるためにさまざまなワークショップも開催していらっしゃいます。こうした取り組みを通して伝統工芸品をアップサイクル(創造的再利用)することで「青梅夜具地」の新たな価値が加わり、地域文化が後世に継承されていくのです。
図案とモチーフの特徴
「青梅夜具地」は、ビビットな色使いの格子柄のほか、オリエント風の壺や薔薇、菊などの花柄デザインが特徴です。さらに、嫁入り道具として縁起のよい松竹梅、鶴、鳳凰といった吉祥紋も重要なモチーフの一つです。今回は、普段はギャラリーに展示されていない生地も特別に見せていただきました。寝具は暖色系が多いのだそうですが、年齢や性別に合わせた寒色系のデザインや、中国山水画を彷彿とさせる風景がモチーフとなっているものなど、実に多種多様です。同時に、貴重なデザイン原画を間近で観察する機会を得たことで、意匠を考案するプロセスを垣間見ることができました。
伝統工芸のぬくもり、学園祭で発表(グッズ販売あり!)
今回は「青梅夜具地」を知る第一歩として、「ぎゃらりーカフェ はこ哉」の展示やアップサイクルの小物を見せていただきながら、貴重なお話を伺いました。初めての現地調査で緊張しましたが、多くの学びを得ることができました。「青梅夜具地」の伝統を守り、その魅力を多くの方々に伝えようと懸命に努力なさっているみなさんとの交流を通して、伝統工芸品のあたたかさと現地調査ならではの主体的な学びを体験しました。常磐祭では、研究発表として「青梅夜具地」の魅力を余すところなくお伝えします。アップサイクルした小物グッズも販売しますので、ぜひお越しください!
※本研究「有形?無形遺産の結節点を探る—青梅夜具地の図案調査と再生プロジェクト」は、2022年度ゼミナール活動等の学術的な活動活性化費に採択され、調査研究を行っています。