【卒業生の活躍】美術書籍の編集者という仕事
中村友代先生は実践女子学園中学校高等学校および本学美学美術史学科で学び、同学科助教を経て2021年度まで同学科非常勤講師を務められました。現在のお仕事についてご紹介いただきました。
本学科 卒業生 中村友代先生のメッセージ
私は現在、カルチュア?コンビニエンス?クラブ株式会社が抱える出版社のうちの一つ、「美術出版社」に属し、美術に関連する書籍や展覧会図録を制作する部署で編集者をしています。
実践女子大学美学美術史学科を卒業後、古代地中海世界の美術史をより深く学びたいと思い、筑波大学の大学院に進学しました。その後トルコ共和国への研究留学を経て、美学美術史学科の助教を5年間勤めました。任期を終えて退職したのち、展覧会図録のトルコ語の校正に携わったことがご縁となり、現在の出版社でお世話になっています。
最近編集した本で特に印象深いのは、現在開催中の特別展「ポンペイ」*の展覧会公式図録です。本図録では、編集を担当させていただいただけでなく、大学院で専門分野を学んだこともあり、アレクサンドロス大王のモザイクに関するコラムも書かせていただきました。この他に最近関わった本として、こちらも現在開催中の「フェルメール展」展覧会公式図録、また西洋美術史が通史で学べる書籍『ライブラリー西洋美術史』などがあります。
本づくりは校了日が近づくとスケジュールも過密になり、休めず苦しい時もあります。また、監修の先生やデザイナー、校正者、翻訳者といった多くの人たちとチームを組んで仕事をするので、専門的な知識だけでなく、スケジュールの管理能力や、自分の考えを相手に的確に伝える力も必要です。
一方で、楽しいこともたくさんあります。その一つは、本に載る前の論考やコラムなどをいち早く読めることです。編集者は原稿を読み、赤字を入れる校正作業を行いますが、気がつくと何時間も読み耽っていることもしばしばです。もう一つは展覧会図録特有の作業ですが、実作品を見ながら行う色校正です。印刷所や学芸員といった専門の方々とともに、実際に展示される作品と刷り上がった校正紙とを見比べて、作品の色や質感などを近づける作業です。図録の出来上がりに大きく影響するため、緊張感もありますが、展覧会図録の制作に携わる人だけが参加することができる、特別でやりがいのある作業です。
出版の仕事に就き、美学美術史学科で地域も時代も異なる分野の美術史を幅広く教えていただいたことを、改めてありがたく思っています。これまで多くの本の編集に携わりましたが、もちろん自分の得意な分野の本ばかりを担当することはできません。そのような時は、大学の講義や演習の内容を思い出したり、また学生時代に買った本を読み返すことも少なくありません。今まで培った知識や経験を活かし、より多くの人に美術に関心を持ってもらえるよう、出版の世界から貢献していければと思っています。