実践女子大学りんごラボ&標葉研究室が「サイエンスアゴラ2022」に出展しました(11/6)
11月6日(日)、東京?お台場のテレコムセンターで開催された「サイエンスアゴラ2022——まぜて、こえて、つくりだそう」で、本学人間社会学部3年生5名の学生有志グループ「りんごラボ」が、開発したシリアスカードゲームを出展しました。シリアスゲームとは、教育や社会問題の解決に資することを目的とするゲームのこと。今回出展したゲームは、人間社会学部人間社会学科の標葉靖子准教授による後期授業「メディア?ワークショップ」内で製作されたデモ版を、授業終了後の自主的活動で進化させた完成版となります。
科学と社会をつなぐ「サイエンスアゴラ」に学生たちの出展が実現
「サイエンスアゴラ」は、国立研究開発法人 科学技術振興機構(JST)主催の、科学と社会の関係をより深める目的でさまざまな立場の人たち(小中高生も含む市民、科学者?専門家、メディア、産業界、政策決定者など)が情報共有?対話を行うオープンフォーラムです。今年度のテーマは「まぜて、こえて、つくりだそう」。集まった人々の知恵をまぜて、今ある枠組みや思い込みをこえて、よりよい未来をつくることに挑戦すべく、比較的専門的なことが議論されるセッションから、対話型の展示やワークショップなど、多様な企画が準備され、約6,000人が参加するイベントとなりました。
今回、そんな科学と社会をつなぐ「サイエンスアゴラ2022」への出展をかなえたのは、標葉靖子准教授による後期授業「メディア?ワークショップ」を受講した人間社会学部人間社会学科の学生4名と現代社会学科の学生1名から成る有志グループ、その名も「りんごラボ」。授業内での専門家に対するデモプレーで高評価を得たカードゲームの内容をさらにブラッシュアップし、パッケージ版『ぎゅっと~AIとともに生きる~』として完成させたものを来場者に体験してもらうワークショップを実施しました。
カードゲーム『ぎゅっと~AIとともに生きる~』とは
りんごラボが開発した『ぎゅっと~AIとともに生きる~』は、渋谷キャンパス開催の常磐祭で出展されたシリアスゲーム『インフルアンサー』と同じく、標葉靖子准教授による後期授業「メディア?ワークショップ」内で製作された試作品から発展したものです。
「人工知能(AI)」と人間が共生する未来社会の姿をみんなで楽しみながら考える場を提供することを目的としています。
ゲームのルールは、手札のスペックカードを使ってイベントカードに書かれたトラブルの解決方法を考え、最も良い解決方法を提示したプレイヤーを相互評価で決めるというもの。どんなスペックカードが自分の手札になっても「人間」「AI」のスペックを組み合わせた解決方法を考えなければならず、その過程でAIと人間のより良い社会づくりに自然と意識が向かうよう設計されています。
授業内でのシリアスゲームの専門家に対するデモプレーでは、審査対象となった3つのゲームのうち、りんごラボの作成した試作品が問題設定?内容理解?ゲーム性?教材性で最も高い評価を受けました。りんごラボのメンバーはさらに上を目指したいと、授業終了後も自主的に活動を継続し、カードの内容を再検討したり、学生自らパッケージやカードをデザインしたりして、外部に向けて頒布できるパッケージ版に進化させました。
このパッケージ版を学外で披露するのは、今回の「サイエンスアゴラ2022」が初めて。出展に向けて学生たちは、ヘルプガイドを作成したり、標葉ゼミ内でデモンストレーションを行ったりするなど準備を重ねてきました。その努力のかいもあり、当日は用意していたテーブルがすべて埋まり、さまざまな年齢、立場の来場者の皆さんが実際にゲームを楽しみました。
今後もこのゲームの活用シーンを模索しつつ、メンバーの一部はこれをテーマに卒業論文を執筆する予定です。
「りんごラボ」メンバーのコメント
人間社会学部人間社会学科3年 長瀬瑞季、川畑友香、手塚若菜、松川愛美
人間社会学部現代社会学科3年 遠藤美和
『ぎゅっと~AIとともに生きる~』は、AIと人間の共生をテーマにしたゲームです。私たち「りんごラボ」は、AIについて興味はあるものの、専門的な知識はまったく持たない状態から開発をスタートしました。当初、「シンギュラリティ(技術的特異点)」という言葉に衝撃を受けた私たちは、AIに対する脅威に着目し、AI対人間の対決型ゲームを作ろうとしていました。しかし、メンバー内で検討を重ねていくうち、対決ではなく共生をテーマにしたほうがいいという結論に至りました。
試作版から正式なパッケージ版へとブラッシュアップするにあたっては、多くの時間を費やしました。「メディア?ワークショップ」の授業は既に終わっていましたが、自主的に集まって活動を継続。手札に盛り込むAIの要素技術を詳しく学びながらカードの内容を再検討し、カードやパッケージのデザインもすべて自分たちで行いました。夏休み返上での作業となり苦労もありましたが、思い入れを持って取り組んだおかげで、こうして「サイエンスアゴラ2022」への出展という成果を得られてとてもうれしく思います。
出展に先立ち学内で何度がテストプレーを行いましたが、外部の方にゲームをプレーしていただくのはこの「サイエンスアゴラ2022」が初めて。まったくこのゲームを知らない方にルールを説明するのに苦労する一方で、新たな気付きもたくさん得られました。さまざまな年齢、立場の方がプレーしてくださったので、これまで誰も思い付かなかったカードの組み合わせやアイデアに触れることができたことが一番の収穫です。「初心者目線で作られているゲームだからこそ、AIを知るきっかけにピッタリだと思った」「AIに対する知識がないからこそ、柔軟な発想ができる」「AIの発展により便利になるのは良いことだが、2次的、3次的な問題も考えて改善策を用意することも重要」「対象年齢に合わせてカードの内容を選べるようにしたほうがよい」「あえてAIの知識がある人とプレーすることで、AIと人間の共存の可能性の広がりを感じられるのではないか」など、さまざまな意見?感想をいただくことができ、大変ありがたく感じています。
「メディア?ワークショップ」の授業でゲーム開発を始めた当初は、まさか「サイエンスアゴラ2022」に出展することになるとは思ってもみませんでした。これまで触れることのなかった科学技術についてここまで深く学ぶことになるとも思っていませんでした。今回のプロジェクトのおかげで、さまざまな科学技術が身近にあると気付けるようになり、自分たちの成長を実感しています。
ここまで一緒に頑張ってきた仲間たちと、授業後もご指導くださった標葉先生に、心から感謝申し上げます。
標葉准教授のコメント
りんごラボのメンバーたちは、AIに対する知識をほとんど持たない状態からゲーム開発をスタートさせました。しかし、ゲームデザインのプロセスのなかでAIについての学びを深めるうちに、「AI脅威論」ではなく「AIとの共生」をテーマにしたゲームにしたいと自分たちでその結論にたどり着きました。さらに、「AIとの共生」をテーマにするのならどのようなストーリーが良いか、明確なビジョンをもとに検討。限られた授業の時間内でゲームシステムのほとんどを完成させました。授業内の審査で高評価を得た時点で満足してしまっても不思議はないところですが、彼女たちはより良いゲームにして外に出したいと、授業を終えた後も自主的に活動を継続。頒布できるクオリティーのパッケージ版に進化させるべく、AIの要素技術をより正しく、詳細に学び直してカードの質を上げていきました。さらに、カードや外箱やルール解説書などのデザインも自ら行い、カードの大きさや形状、イラストのテイスト、説明のわかりやすさなど細かいところまで丁寧に話し合い、最後には商業印刷のレベルにまで仕上げていきました。アイデアを発想し形にしていくまでの開発初期の楽しさに比べ、ともすると小難しく逃げたくなる“最後の詰め”の部分にもしっかりと取り組んだことは称賛に値すると思います。
人間社会学部という人文社会学系の学問を学ぶ学生たちにも、AIのような先進的な科学技術の話題に無関心でいてほしくない、何とか自ら進んで科学技術と社会の関わりを学んでもらえるようなきっかけを与えられたら……、と始めた授業でしたが、彼女たちが期待以上の成果を挙げてくれたことを大変喜ばしく思っています。
「サイエンスアゴラ2022」への出展にあたっては、すでにゲームそのものがしっかり作られていたので何も心配していませんでしたが、初めてゲームをプレーする来場者にゲームの趣旨を正しく伝えるのは重要なことだと話しておきました。「AI」と「人間」、それぞれのスペックカードをどう組み合わせて使うかに「正解」はない、自由な発想で組み合わせて使ってよいというのが、このゲームのポイントだからです。すると、彼女たちは新たにゲームを説明するための資料を作成し、当日は来場者の関心をうまく喚起させていました。今後もこの取り組みを継続してほしい?もっと広く展開してほしいという声を来場者の方からいただいた時は、彼女たちの努力が報われたと実感しました。AIについて知らなかった彼女たちが、AIを学びながら作ったゲームが、AIに興味のある人、ない人、大人から子どもまで、さまざまな人が楽しめるものになったと今回の出展で確認することができ、彼女たちも大きな手応えを得たことと思います。
今後も、このゲームをもっとたくさんの方々にプレーしていただけるよう、何らかのかたちで取り組みを広げていけないか模索中です。