【生活心理専攻】「テトゥン語」を研究しています。
生活心理専攻は生活文化学科の下位組織です。生活文化学科の特徴は、「生活文化」のすべてが研究対象であるということです。したがって、ちょっと強引かもしれませんが研究テーマは「なんでもアリ」ということになります。
筆者は小児科医で、自閉症などの発達障害や小児の精神疾患、子どもの行動面の問題、非行、虐待などを中心的なテーマとする「発達行動小児科学」が専門です。しかし、ひそかな研究(裏)テーマは、東ティモールという国の公用語である「テトゥン語」なのです。
図1:東ティモールの朝焼け
東ティモールをご存じでしょうか。南緯10度付近、日本の真南にあり、インドネシアの東端の島「ティモール島」の東半分が東ティモール民主共和国です。岩手県くらいの広さの国土に人口およそ120万人が生活する島です。東ティモール国内には10程度の言語がありますが、首都ディリを中心に使われているテトゥン語(とポルトガル語)が公用語として東ティモール憲法に記載されています。
図2:東ティモールletefoho村の小学校にて(2010年当時、前列左から2人目筆者)
筆者は2008年から2年間、東ティモールに外務省の医務官として赴任した経験があります。ここだけの話、英語は英検3級すら持っておらず日常会話もおぼつかない状態だったのですが、東ティモールでは英語はほとんど通じないため気楽でした。現地の人と話をするためには、ポルトガル語とインドネシア語が使われることが多いのですが、ポルトガル語は植民地時代の、インドネシア語はインドネシアによる占領時代の言葉なので、特に子どもと話すときにはテトゥン語を使う必要がありました。テトゥン語で話かけると、「オマエはテトゥン語しゃべるのか(O koalia tetun ka!)」とティモールの人はとてもうれしそうにするのでそれがうれしくて勉強に力が入りました。
テトゥン語は言語体系的には非常にシンプルにできていて、たとえば英語のbe動詞にあたる単語がないとか、動詞は時制で活用しないとか、要は単語を羅列すればそれだけでコミュニケーションできます。ティモール人の現地大使館スタッフから「テトゥン語-ポルトガル語単語集」と「テトゥン語-テトゥン語辞典(いわば東ティモール国語辞典)」のコピーをもらって勉強しました。興味のある人は詳しくは下記の筆者の個人ブログなどを見てください。
テトゥン語研究の成果はまだ少しですが、現在「テトゥン語—日本語辞典」を編纂、というか上記の「テト—テト辞典」の日本語訳をしています。また、日本語の絵本を現地の子どもに届けたくて、これまで「100万回生きたねこ」やミッフィーシリーズの「かわいいうさこちゃん」などをテトゥン語に翻訳したテキストがあります(ただし版権の問題で未発表です)。日本の小倉百人一首をテトゥン語に翻訳したものもありまして、こちらは下記ブログに掲載されています。2020年には東京オリンピックで来日するティモール人選手が日本で病院にかかるときに必要な「診察室のテトゥン語」を作り、こちらはティモール人選手の合宿地であった伊那市(長野県)と大野市(福井県)のスタッフに寄付しました。これから東ティモールに行ってみようという人にも役立つと思いますので、pdfをダウンロードしてください。
ということで、生活文化学科のふだんはあまり表に出ない研究テーマをご紹介しました。
テトゥン語ブログ
テトゥン語百人一首
東ティモールフォトエッセイ
診察室のテトゥン語 [PDF:687KB]
(文責:塩川 宏郷)