【生活心理専攻】「生活文化史」
突然ですが、みなさんは「版画」を彫ったことはありますか?
小中学校で、なぜか彫刻刀セットを買わされ、図工の時間などで彫ったことがあるのではないでしょうか。
今の中高生は「何の話?」と思っているかもしれませんが、では「作文」は書いたことがあるのではないでしょうか。読書感想文とか、卒業文集など、たくさん書かされますね。
この「版画」と「作文」は、かつての小中学校ではセットで教えられていました。
しかも、どちらもテーマは「生活」。自分や家族の生活を見つめるうえで、「彫る」「書く」ことは重要だったのです。
作文(生活綴方)は戦前から、版画は戦後すぐから、全国で教えられてきました。きっと、みなさんの父母や祖父母も子どものときに彫って、書いていたはずです(ぜひ聞いてみて下さい)。
子どもならではの視点で描かれた各時代?地域の生活は、とても鮮明で、私たちに訴えかけてくるものがあります。
私が担当している「生活文化史」という授業では、この生活綴方(作文)と版画から、生活の多様性を読み解くグループワークをおこなっています。
実際にどのようなことが読み解けるのか、今から70年前の宮城県仙台平野の中学2年生が書いた作文を読んでみましょう。
「けさもかあさんは、四時ごろにおきた。かあさんは、朝ごはんまえに牛に食わせる草をかってくるのです。つゆのおちている草、かまを手にしてかっている母のすがた、おもい草入れかごをしょってくるようす。私はすぐとび起きた。私はご飯の火たきをした。かあさんの帰ってくるまでにちゃんと、用意をしておくのです。
かあさんは、ねる時間がすくないのです。夜は、つぎものの、はり仕事などして、いつも六時間ぐらいです。それでもいやな顔をせず、働いているのです。かえってそれが私にはかなしいのです。私は多く働いた人ほど、多くねるのがほんとうだと思います。これからは、夕飯後は、私の仕事にきめて、夜はゆっくり休ませたいと思います。」(『綴方風土記 第二巻 東北編より)
この作文から、農家の大変さが伝わってきます。特に、母親が朝から晩まで農作業、家事、内職と働きづめだったことがわかります。そうしたようすを子どもはしっかりと見ていて、自分なりの役割を見出して手伝おうとしていることも読み取れます。
このように、生活綴方(作文)と版画は、当時の生活?労働と子どもの考えを詳細に伝えてくれます。
学生ひとりが読み解ける数には限りがあるので、みんなで読み解き、いろいろな地域の生活について報告?ディスカッションしています。
学生たちのなかには、自分の出身地や父母?祖父母の子ども時代に関心を持って調べる学生もいました。先人たちの版画と作文を読み解くことで、自らのルーツを探ると同時に、今日に通じる生活の本質を読み解くことができるのです。
来年度も同様のグループワークをおこない、全国各地のさまざまな時代の生活についてまとめ、代々蓄積していきたいと思います。
(出典、写真1:石川県志賀町版画協会、写真2:筆者撮影)
(文責:笠原 良太)