東急株式会社 代表取締役副社長 巴政雄氏が本学の「女性とキャリア形成」の授業で講演しました(11/11)
苦手だからと避けるのではなく、しっかり取り組んで武器にしよう!仕事に責任を持つことで、仕事への誇りが生まれる
2021年度の共通教育科目「女性とキャリア形成」(担当:文学部国文学科 深澤晶久教授)は、実践女子大学の卒業生を含む企業トップの生き方から学ぶリレー講座。第3回目となる2021年11月11日にお迎えしたのは、東急株式会社代表取締役副社長の巴政雄氏です。渋谷キャンパスに通う学生たちにとって、「東急」は馴染み深い名前。その代表取締役のお話は、身近な暮らしに根ざしたものが多く、学生たちはメモを取りながら、熱心に耳を傾けていました。
2024年に刷新される新一万円札の顔
「渋沢栄一」も深い関わりを持つ東急グループ
「宿命、運命、使命」というテーマで行われたこの日の講演は、まず、「東急の歴史」から始まりました。巴氏によると、東急グループは渋沢栄一らが1918年に設立した田園都市株式会社が起源。1922年に田園都市株式会社の鉄道部門が分離?独立して設立されたのが、現在の東急株式会社の前身となる目黒蒲田電鉄株式会社だったそうです。以降、同社は民間事業者として鉄道を中心とした街づくりを担ってきました。
「その集大成ともいえる『東急多摩田園都市』の街づくりは、1953年に当社の五島慶太会長がまとめた『城西南地区開発趣意書』をもとに進められたもので、2都県4市にまたがる日本最大級の街づくりになりました」と巴氏は語ります。そして東急グループは現在、SDGsも見据え、「世界が憧れる街づくり」の実現を目指しているとのことです。
苦手なものから逃げてはダメ
一度自分のモノにしたらそれが自分の武器になる!
農家の出身で、大学卒業後は実家を継ぐことも考えていた、と巴氏。しかし、「一度くらい社会に出てみたら」という両親の勧めで就職を決めたと言います。
「東急に入ったのも、ある意味偶然。でも、今考えてみればそれが良かったと思っています。会社には、学生さんたちが想像している以上にたくさんの仕事があります。自分を枠にはめずに、まずは飛び込んでみましょう。そして、過度な苦手意識は持たないことです」(巴氏)
20代後半の頃、巴氏は上司から「巴君、数字を避けてきたよね」と言われたことがありました。実際、文学部出身の巴氏は数学に自信がなく、劣等感を持っていたそうです。
「まんまと弱点を突かれました。でも、その上司はこうも言ってくれたのです。『避けて通ることができないなら、やってみなさい。一回自分のものにしたら、それは君の武器になるよ』。以降、約18年間、私は40歳になるまで財務や経理の仕事をやり続けました」(巴氏)
そしてその後、ホテル事業などを経験した巴氏は、部長として財務部に戻ったそうです。
「はんこは命がけで押してね」という上司の言葉の真意が分かったとき、仕事に誇りが持てるようになった
巴氏には、前述の上司から言われた言葉で、今も心に深く残っている言葉がもうひとつあるそうです。それは、「はんこは命がけで押してね」という言葉です。
「会社では、書類が回ってくると、読んだことを証明するために印鑑を押す習慣があります。でも、その上司は、『ただ読んだだけではダメで、その内容をきちんと把握し、『自分がこの仕事の責任を持つ』という気概を持ってはんこを押さなければいけないんだよ』と言うわけです。最初はその意味が分かりませんでした。しかし、仕事をしていくうちに、『責任を持つ』ということがどういうことなのかが分かるようになってきたのです」(巴氏)
各人の仕事は、大きな絵を描くための重要なピース。だからこそ、誰一人としていい加減なことをしてはいけない。どんな仕事でも必ず深い意義がある、と巴氏は話します。
「その頃の私の仕事はまだまだ小さなものでしたが、それでも会社の一端を担っていることが実感できるようになってくると、仕事に誇りを持てるようになってきたのです」(巴氏)
ときには「お言葉ですが……」と目上の人に言ってみる
自分の意見をしっかり持って、思ったことを発言しよう
かつて巴氏は上司から「巴君は、『お言葉ですが……』とよく言うよね」と言われたことがあるそうです。上司と意見が合わないときも、巴氏は臆せず自分の意見をはっきりと言ってきたからです。
「意見にはきちんとした根拠が必要です。それは大前提として、意見が言えるチャンスがあれば、ときにはきちんと発言したほうがいいと私は思っていますし、年齢や立場にかかわらず発言できる雰囲気は社内でも常につくっておきたいと思っています」。なぜなら、言うべきことを言わなければ、物事は変わらないと考えるからだそうです。
「皆さんも、相手が先輩や上司であっても、根拠のある意見ならば自分のなかに閉じ込めてしまわないで、いつでも自分のポケットから出せるように、感性を豊かにしておいてほしいな、と思います」と巴氏はアドバイスしてくれました。
「人と交わることで自分が分かる
リアルな人間関係は大事
知識の習得という大前提はありますが、大学とは、人間、社会人、市民としてのミッションを発見する場、と巴氏は言います。そして大学は、他者との関係性において、さまざまなことを深く学ぶことができる場所でもあります。
「他者を通して自分を知ることは少なくありません。コロナ禍の今はなかなか難しいと思いますけれど、リアルな人間関係は大切にしてほしいですね」(巴氏)
宿命に耐え、運命と戯れ
使命に生きる
最後に巴氏は、テーマに掲げた「宿命、運命、使命」について話してくれました。
「物事には、自分ではどうにもできないことと、自らの関わり方で修正できることがあります。宿命は、自分ではどうすることもできないので、耐えるしかありません。運命は、捉え方や関わり方によって修正することができるもの。幸福も不幸もあるので戯れてしまいましょう。そして、使命は自分に与えられた重大な務め、成し遂げるべきことであり、それを全うするために生きていくことが大切。一度しかない人生です。主体的に関わって、使命に向かって進んでいきましょう」と巴氏は目の前にいる学生たちに力強くエールを送りました。
自分はどういう人生を歩みたいかを考えることが自分のミッションを決める第一歩
上手くいかなかったときは諦め、次にどうするかを考える
1時間の講演のあとは、質疑応答です。学生たちから出てきた質問とその答えをいくつかご紹介していきます。ひとつ目の質問は「大学時代にはどのようなミッションをお持ちでしたか。また、広い視野を持つためにどのようなことをしていらっしゃいましたか」。それに対して巴氏は、「大学生時代は明確なミッションは持っていませんでしたが、どういう人生を歩みたいのか、どういう領域を歩みたいのか、といったことはよく考えていました。まずは興味から入って、少しずつターゲットを絞っていくことで、どういう人生を歩みたいかを見つけていけると思います。また、広い視野を持つために、私は日本経済新聞を隅から隅まで読んだり、今まで知らなかったことを勉強してみたり、違う情報に触れたりしました。友人と会って話すことでも、新たな気づきがあったりしました」。
また、「うまくいかないときに引きずってしまいます。どうすればマインドチェンジができますか」という質問には、「長く考えない、夜、考えるのはダメ。堂々巡りは泥沼にはまるから、そうなりそうになったら止める。全然違うことをしてみる。上手くいかなかったのは仕方がないと諦め、次にどうするかを考える」など、巴氏は人生の先輩として、さまざまな妙案を教えてくれました。
最後に、今回の担当グループが「『自分の意見をもって走り抜く』『他人との関わりで自分を知る』という言葉がとても印象に残りました」と感想を述べ、講演会は終了しました。
深澤晶久教授の話
渋谷で学ぶ我々にとって、最も身近な企業と言える東急様、巴副社長は、本当にフレンドリーに、学生に語り掛けて下さいました。
鉄道だけではなく、気が付かないうちに、東急様の様々な事業に触れさせていただき、その理念である“豊かさ”を提供いただいていることを改めて感じる時間になりました。
そして、使命、言い換えればミッションを持つことの大切さを伝えて下さり、これからの生き方の指針をご教示いただけたのではないかと思います。