著者は語る 宮崎法子先生 『花鳥山水を読み解く : 中国絵画の意味』 の巻
宮崎先生とご著書について
宮崎法子先生は、1995年から実践女子大学の美学美術史学科教授として教鞭を取っておられます。
今回、語っていただく著書は2003年に角川書店から出版され、2018年に文庫化された書籍です。
また本書は、2003年第25回サントリー学芸賞「芸術?文学部門」を受賞された宮崎先生にとって大変思い出深い著書となります。
なお、本書の紹介と当館所蔵情報を当ページ末に置きましたのでご参考にどうぞ。
本書誕生まで
この著書は、もともと角川書店の学芸叢書の一として、2003年に出版されたもので、それからすでに15年もの年月が経っています。その年の4月から、私は在外研修の機会をいただきイギリスに半年、続いて秋から台湾に半年滞在することになっていました。
最初の出版は、その数年前、小学館の『世界美術大全集』東洋編の明巻の編集と執筆?翻訳、さらに南宋巻と元巻への寄稿を終え一息ついた頃、角川書店の編集者からの依頼を受けて、スタートしました。当初は、かつて國華賞を受賞した花鳥画の寓意に関する論文を基にした企画でした。「花鳥画の意味」は、すでに色々なところで講演依頼を受け、それに関連した展覧会も開催されるなど、多くの人々の興味を引くテーマであったようです。ただ、私としては、一度書いたものをまとめるだけでは面白くなかったので、世界美術全集の執筆を通じて考え続けていた、山水画とは何かという別の大きな問題について、その機会に併せて執筆したいと申し出て、受け入れてもらいました。
編集者註1: 1999年発行。日野?渋谷両図書館で複数冊数所蔵しています。代表的なものは、渋谷 2F 和図書(大型) 708.7/Se22/8 1A0338586
新しい視点を伝える作業
山水画は宋代以降の中国絵画の最も重要な画題であり、それは深く近代以前の中国の社会と結びつくものでした。その前提として、日本ではあまり理解されていない中国の社会についての長い前書きを書き、それに続けて、山水画が社会の中で担った役割や、その役割を端的に示す山水画中の主題やモチーフの意味について論じた上で、山水画と同様自然を描き、中国絵画史上、山水画を補完する役割を果たしてきた花鳥画について述べることにしました。ただ、書名は、編集者の意向に従い「花鳥山水を読み解く」と花鳥画を先にしました。
書き下ろしをした山水画の意味は、少なくともそれまで私が知る限り、誰も明確に論じたことのない新しい内容でした。様々な事柄は、言語化されて初めて存在すると認識されるものですが、いったん言語化されると、それが基本的な事柄であればあるほど、誰もが以前から知っていたことと見なされる傾向があります。本書で扱った山水画や花鳥画の意味も、今では、自明のことのように扱われています。
しかし、執筆に当たっては、やはり新しい内容を、自分で発掘しながら書き表す作業であったため、どのように書けば明確になるのか、何を取り上げ何を割愛すれば、よりよく理解されるのか、また日本語として滑らかで読みやすくなるのか、ということに心を砕きました。数年前、北京故宮の若いスタッフから、この本をテキストに日本語を学んだと聞き、その時の努力が少しは報われたように感じました。実は、当時、原稿の締め切りを過ぎても、何度も書き直し続け、在外研修の出発直前に、編集者にどうしても気に入らないので、出版は取りやめにして欲しいと申し出て、呆れられ、そのままで何の問題もないので脱稿するよう求められ、それに従いました。あとがきや校正はイギリスからメールでやりとりし、無事出版され、思いがけずその年のサントリー学芸賞を受賞することになりました。慌ただしく一時帰国の手続きをして、台湾から数日間帰国したことが思い出されます。
ちくま学芸文庫化にあたって
今回、文庫化に当たって読み返すと、やはり文章を直したいところが目につきますが、数カ所の小さな訂正と一,二の挿図の入れ替えに止めました。なお、文庫化のあとがきで触れた『吉祥図案解題』の筆者野崎誠近氏に関して、早速遠方の研究者から連絡を頂きお会いしたり、中国の出版社から筑摩書房に正式に翻訳出版オファーがあったりと、文庫化による影響力を実感しました。
分かりやすい文章を心がけたつもりですが、学生には少し難しいところもあるかもしれません。興味が持てそうな一章だけでも、じっくり読んでもらえたら、中国絵画と中国文化が少しは身近に感じられるのではと思います。前回から長い年月が経ってしまいましたが、次は、中国画の「意味」ではなく絵画表現そのものから、中国絵画の魅力を伝える著書をまとめたいと考えています。
書名: 花鳥?山水画を読み解く : 中国絵画の意味 |
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