生活環境学科 川上 梅教授が日本繊維製品消費科学会 学会賞「論文賞」を受賞しました!
この度、生活科学部 生活環境学科 川上 梅教授が2021年度 日本繊維製品消費科学会 学会賞「論文賞」を受賞しました(テーマ:「消費者意識と行動の年齢差?時代差に関する研究」)。受賞した「論文賞」とは、6つの学会賞の1つで、繊維製品消費科学について精力的に優秀な研究を行い、その業績を日本繊維製品消費科学会誌に発表した者に授与される賞です。論文賞は、1985年から始まり、実践女子大学での受賞は初めてとなります。
本年度の学会賞(論文賞)をいただきましたことを、大変光栄に存じます。そして、私のこれまでの衣服設計と被服心理の両面からの一連の「消費者意識と行動」に関する研究を、多様化する社会の中で新たな消費生活を提案する際に役立つ研究として評価いただきましたことを、大変嬉しく思います。これまで私の研究を支えて下さった先生方や皆様には厚く御礼申し上げます。
被服構成学出身の私は、衣服設計の基本となる体型分類が大学院修士時代のテーマであり、東京大学大型計算機センターに通い、当時はまだ珍しかったクラスター分析などを駆使して身体計測データの多変量解析を行うことから、研究をスタートしました。その後、タイでの身体計測の機会に恵まれたのをきっかけに、体型の国間差異や価値観の異文化間比較の必要性についても、身をもって知る一方で、フィールド調査の大変さやヒトを研究対象とすることの困難さを知り、改めてデータの貴重さというものを実感しました。一人で取るデータには限界があり、様々な機関により既に公表されている多くのデータを統合して、新しい別の観点からデータを検討する研究手法について学んだのもこの頃でした。私の研究生活の前半では、このような体型の加齢変化や国間差異などを膨大なデータを用いて検討しておりましたので、少数の項目のデータの検討からだけでは分からない複雑な事象を、多変数の項目のデータから解明する手法が必須であり、多変量のデータ解析手法は、この頃に身に付いたものと思います。
体型から始まった私の興味は、大学での担当科目や日頃接している学生の影響もあって、アパレル?ファッションの消費者を、心身の要因から身体外観を形成する化粧などの要素までをも含めて観察するようになり、研究の対象も体型から心理?制服?色彩?化粧へと広がっていきました(時辞刻告「ファッション消費者行動—雑感—」 2013年10月号参照)。そして、日本繊維製品消費科学会での学会発表は、31年前の年次大会以来本年まで、 ほぼ毎年行わせていただいております。
評価していただいた直近5年間での3本の報文の内の2報のタイトルは、「高校生の自己意識?化粧意識?化粧行動の構造とそれらの関係」(2016年4月号)と「小?中?高生の色彩感情と衣服色彩嗜好—好きな色と着たい色の違い—」(2018年3月号)であり、成長期の化粧心理は成人女子の心理とはどのように異なるかを、また成長と共に色彩嗜好はどのように変化するかなどを明らかにしました。残る1報は、「成人女子の衣に関する消費者意識の年齢差と時代差」(2020年3月号)で、博報堂による生活定点データを用いて解析したものであり、衣服選択?着装に関する個々人の意識や行動が、食、住、消費等に対する意識や行動とも密接に関係することを明らかにしたものです。そして、1998年から2018年までの20年間に消費者のライフスタイルや価値観が、如何に変化してきたかを定量的に示しました。いつの時代にもファッションに敏感で刺激を求める傾向は若い女性の特徴ですが、この年齢差と共に、バブル崩壊、リーマンショック、ファストファッションの台頭、東日本大震災などの社会経済?産業の変化が消費者の価値観にどのように影響したかを時代差として明らかに観察できました。
体型の時代差は、身体計測データではよく行われる観察の切り口ですが、ヒトの進化は緩慢です。一方、消費者意識?行動はより速いスピードで変化します。今回の足球现场直播,大发体育在线のパンデミックが消費者意識と行動に及ぼす影響を定量的に解析することは今後の大きな研究テーマになるものと思います。私自身のアパレル?ファッションの消費者行動に関する研究はまだ緒に就いたばかりですが、在職期間も残り僅かとなった今、共感していただける若い方々がこの種の研究を引き継いで、発展させて下さることを願っております。
最後に、私がこれまで進めた研究は、手法が確立したものばかりではなく、未知の分野、独自の研究スタイルであった部分も多々ありました。ただ、その先に見えるゴールが日本繊維製品消費科学会の目指す方向の一つと合致することを信じ、本学会での活動を中心に研究活動を進めて参りました。したがって、論文審査をしていただいた先生方のご助言?ご指導は貴重なものでした。大学の教員生活が40年となった今、研究生活も残りわずかとなりましたが、本学会でお世話になりました皆様、研究活動を支えて下さった大学の同僚?学生の皆様には心から感謝申し上げますと共に、本学会の益々の発展を心より祈念いたします。
選考理由
消費者意識の年齢差?時代差に着目した一連の研究を行っている。直近5年間にも第1執筆者として3本の報文が掲載されている。それらの研究からは、加齢によって体型が変化することや成長と共に色彩嗜好は変化することなど、衣服設計と被服心理の両面から多くの有益な結果が見出されている。一連の研究は、多様化する社会のなかで、新たな消費生活を提案する際に役立つ示唆に富んだ知見を有しており、さらに今後の展開が期待できると考えられる。以上の理由から学会賞論文賞に十分値するものと判断した。
プロフィール
生活科学部 生活環境学科 教授 川上 梅(かわかみ うめ)
お茶の水女子大学卒。家政学修士、博士(学術)。
東京家政学院大学教授、埼玉大学?大妻女子大学非常勤講師などを経て、2010年から実践女子大学生活科学生活環境学科教授。
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(繊維製品消費科学会誌 62巻 7号)