「梶井基次郎と“神隠し”の京都」~幻の「檸檬(れもん)」草稿、丸善に見参!~東京展(11/13~)?京都展(11/23~) 開催いたします。
2019年11月27日(追記)
【緊急追加企画】
「梶井基次郎と“神隠し”の京都」ギャラリー?トーク開催決定!
日 時:11月30日(土)16:00~16:30/12月1日(日)14:00~14:30
会 場:丸善京都本店地下2階展示場(参加無料?予約不要)
出演者:河野龍也(実践女子大学国文学科教授)
内 容:展示の見どころを分かりやすく解説します。梶井ファン、京都ファン必見の内容となっております。
皆さまのご来場を心よりお待ちしております。
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本学と京都市、丸善は、実践女子学園創立120周年?実践女子大学国文学科創設100周年?丸善創業150周年事業として「梶井基次郎と〝神隠し?の京都」展を11月に京都と東京で共催します。2011年に現存が確認された梶井基次郎の代表作「檸檬(れもん)」の下書き稿を含む79点を展示。京都市と5月に締結した事業連携?協力に関する協定の第一弾として企画しました。
開幕式?座談会開催
開幕式:2019年11月23日(土)13:30
座談会:2019年11月23日(土)
第1部 14:00~15:00、第2部 16:00~17:00(同内容)
会場:丸善京都本店 B2催事会場
出演者:棚田 輝嘉教授(実践女子大学国文学科)?河野 龍也教授(実践女子大学国文学科)
定員:第1部=30名様、第2部=30名様(応募者多数の場合は抽選)
参加費:無料
座談会応募方法:京都市いつでもコール(?075-661-3755)にて、10月18日より受付(抽選あり)
関連書籍を刊行、会場にて販売予定。
(「梶井基次郎「檸檬」を含む草稿群—瀬山の話—」2019年11月13日発行予定。武蔵野書院。予価未定)
開催の経緯?概要
2019年5月10日、源氏物語を中心とする日本文学の研究に長い伝統を有する実践女子大学?実践女子大学短期大学部と、京都創生を進める京都市は、事業連携?協力に関する協定を締結しました。その最初の取り組みとして企画されたのが、今回の「梶井基次郎と“神隠し”の京都」東京展?京都展です。実践女子学園創立120周年(1899年創立)?実践女子大学文学部国文学科創設100周年(1920年創立)、丸善150周年(1869年創業)の記念展となります。
京都の文学的風土としての厚みは古典に限らず、近代においても名作を生み出しました。その筆頭に挙げられるのは、梶井基次郎(1901-1932)の短篇「檸檬」(『青空』1925.1)でしょう。「えたいの知れない不吉な塊」に心を押さえつけられた主人公は、苦しい現実を超越しようと、京都の街中をひたすら歩きまわります。位置感覚や方向感覚をあえて狂わせて見慣れた景色を一新しようとするこの作品の想像力のドラマは、碁盤の目のような町割りを持つ京都ならではの町歩きの感覚にもとづいていることから、これを〝神隠し?にたとえて今回の展覧会を命名しました。
展示内容は、梶井の代表作「檸檬」の下書きを含む79枚の直筆原稿(1924年秋執筆、通称「瀬山の話」)、梶井の遺品の「やかん」、生前唯一刊行された作品集『檸檬』(1931.5、武蔵野書院刊)の初版本ほか関連書籍などの貴重な実物資料を展示し、パネルでは2011年に発見されたこの原稿の研究成果や、大正京都の町歩きの記憶を、古地図や写真から掘り起こしていきます。
本展示は、東京展?京都展の二会場巡回展示です。展示会場の丸善は、今年創業150周年(1869年創業)を迎えました。丸善京都店は、主人公が寺町二条の果物店(実在した青果店「八百卯」)で買ったレモンを爆弾に見立てて仕掛けていく作品の舞台で、1872年開設後、1907年に三条通麩屋町に再オープン、1940年に河原町通蛸薬師に移転し、2005年に一度閉店しましたが、2015年、河原町通三条BAL内で営業を再開しました。梶井が通ったのは三条麩屋町店舗時代ですが、現代の丸善店舗にも、文学ファンが時々レモンを置きにきて、梶井を偲んでいます。
展示品の価値
今回の展示の目玉は、「檸檬」下書き稿を含む79枚の直筆原稿です。この原稿は、1924年、第三高等学校(旧制、京都)を卒業し、東京帝国大学英文学科に入学した梶井が、三高時代の友人と同人誌の旗揚げを企画し、その創刊号を飾るべく取り組んだ中篇小説の力作です。しかし、それは完成までに至らず、「檸檬」と題する作中の挿話だけが独立して切り出され、短篇小説「檸檬」として発表されました。
その未完の中篇小説原稿は、梶井の死後発見され、友人の淀野隆三(1904-1967)により「瀬山の話」の仮題で発表されましたが、原稿自体は長らく公開されぬまま所在不明になっていました。その幻の原稿79枚を、実践女子大学は2011年に東京神保町の古書店?八木書店から購入しました。
最近の研究の結果、原稿は「一次稿」(70枚)「二次稿」(9枚)に分かれるほか、「一次稿」はさらに8つの断片から成る「草稿群」と呼ぶべき状態だったことが分かりました。淀野隆三はこの「一次稿」の一部を「二次稿」に挿げ替える加工を行い、梶井が目指した中篇小説の完成形に近いものを「瀬山の話」として発表したことも分かりました。しかし、実際の原稿には、多数の推敲や作品構成に迷った形跡が著しく、梶井の原構想が別の形で発展した可能性をうかがわせています。
この「草稿群」は、もともと数の少ない伝説的な夭折作家の現存原稿うちでは最大規模のものであり、しかも、梶井のデビュー作?代表作である「檸檬」誕生の経緯をつぶさに物語る資料として、近代文芸資料中、間違いなく第一級品の価値を持つものです。
座談会概要
京都展では、11月23日初日の開幕式のあと、座談会を予定しています。出演は、日本近代文学研究者の棚田輝嘉と河野龍也(ともに実践女子大学文学部国文学科教授)です。
棚田教授は、梶井文学の要素に「彷徨系」と「対母系」の二つの柱があることを指摘して、梶井の一見複雑な創作構想の絡み合いと展開を明快に分析した業績があります。マンガ等サブカルチャーに関しても該博な知識を持ち、また自身が学生時代を過ごした京都での生活体験などもふまえながら、梶井の魅力について語ります。
河野教授は、2011年に実践女子大学が入手した「瀬山の話」が多様な断片的構想の集合体であることを明らかにしました。そして、「分身小説」構想のねじれが中篇構想に破綻をもたらし、結果的に短篇「檸檬」の誕生につながったとする新説を提唱しています。また、「檸檬」の成立前には、都市幻想と郊外幻想のコントラストから主人公の孤独が照射される構想があったとし、「檸檬」の誕生の陰で忘れられた郊外小説の魅力を「瀬山の話」の中に発見しています。原稿にまつわる研究秘話を紹介します。