海外に向けた効果的な情報発信方法を探ろうと、実践女子大学(東京都日野市)は2月27日(月)、東京都立川市のパレスホテル立川でシンポジウム「多摩地域と世界発信」を開催しました。本学の観光コミュニケーション研究所が多摩地域の魅力をSNSで世界へ発信する実験の研究成果を一般公開。クロアチア語、セルビア語、ポルトガル語、トルコ語などで、それぞれの母国へのSNS発信を行った結果、いずれの現地からも多くの反応があった事例が報告されました。
観光と異文化コミュニケーションを合体
シンポジウムは、本学の観光コミュニケーション研究所が主催し、パレスホテル立川の「こぶしの間」で午後1時から3時間の日程で行われました。参加者は大学や地方自治体、一般企業などからの約30人です。
プログラムの冒頭、久保田佳枝所長(英語コミュニケーション学科准教授)が観光コミュニケーション研究所について「観光を専門とする武内先生と異文化コミュニケーションを専門とするわたくし久保田の2人が2020年、東京オリンピックで観光と異文化コミュニケーションを合体させた調査研究を3年間で行うことを目的にスタートさせた」とあいさつ。当初の計画はコロナ禍により変更を余儀なくされたと明かし、「この調査研究が今後の多摩地域における観光の活性化につながることを期待する」と強調しました。
観光を通じてクロアチアと日本をつなぐ
続いて基調講演が行われ、一般社団法人日本クロアチア協会会長のエドワード片山トゥリプコヴィッチ氏が登壇。クロアチアの魅力と日本クロアチア協会の活動を写真や動画を通して紹介しました。
その中で、エドワード氏はクロアチアが大自然に囲まれた美食の国であり、多くの世界遺産に恵まれていると強調。また、日本とのつながりについても、クロアチア南部でアドリア海沿岸の城塞都市ドゥブロヴニクの旧市街は、日本ではおなじみのスタジオジブリの映画「魔女の宅急便」や「紅の豚」の舞台であるなどと説明しました。
また今回のシンポジウムのテーマである「観光」については「人や文化、歴史やグルメなど全てにつながると思っている」と指摘。クロアチアの魅力を知ってもらうために、「まずは日本人の興味や関心事を糸口にしてクロアチアとのつながりや接点を見つけるようにしている」などと語りました。
その上で、エドワード氏は日本クロアチア協会が4年前から取り組んできたオンラインサロン「ハートフルライブ」について説明。ハートフルライブは、日本とクロアチアをインターネット生中継でつなぎ、参加者と現地の食文化や景色を共有するバーチャル体験ツアーであり、「3年間ずっと同じプロモーションをやってきた」と強調しました。その結果、テレビ番組「日立 世界ふしぎ発見」でもハートフルという言葉が使われるようになったと、その成果を語り、「やはりプロモーションというのは、短期間ですぐに辞めるっていうのは、僕は賛成できない。一つのイメージを定着させるには、時間が掛かる」などと振り返りました。
現地語による情報発信が効果的
そして、シンポジウムは、この日のハイライトである武内一良副所長による発表へと続きます。武内教授は、日本から世界への情報発信について「日本人であることを棚に上げて、世界の人々に対して国際語である英語で発信すればいいと考えるのは大きな誤解」と問題提起。その理由を「日本人が英語を使わないで日本語でインターネットにより世界の情報収集している事を考えれば、世界の人々がその国の言語でインターネットにより情報収集していると考えるのは当然」と指摘しました。その上で、その解決に向けては「誰であろうと日常的に使って慣れ親しんだ自分の母語で情報収集するのが一番楽しいし、使い勝手がいい。 だったら、世界の人々に対して直接その人々が使っている言語で情報発信すべきだ」などと提案しました。
観光コミュニケーション研究所の研究は、この提案を検証する試みでした。実験は2022年3月に行われ、留学生に自分の母語で観光地の情報をSNSで発信してもらい、その拡散力を測る試みとして実施されました。舞台となった観光地は、東京都あきる野市を中心とした多摩地域です。当時龍谷大学の大学院生だったクロアチア出身のテオ?シュロガールさん(国際文化学で博士号取得)と、ボスニアヘルツェゴビナ出身のアミナ?ムイカノヴィッチさん(公共政策学で明治大学より修士号取得)に協力を仰ぎ、2泊3日の宿泊体験が実現しました。
その結果、SNSでの発信には多くの「いいね」やリツイートが付き、留学生の母国に拡散されたことが確認されました。また外国人の趣向は日本人のそれとは異なることも明らかにされ、例えば、テオさんがお気に入りに挙げた秋川渓谷の薫製卵には87「いいね」、また多摩自慢の酒かす風呂は50「いいね」が付きました。日本人がさほど珍しいとは思わない薫製卵や酒かす風呂が、外国人の関心を集めたのは驚きです。
留学生なら日本語でOK
その上で、武内教授は現地語による世界発信に際して、世界各国から日本で学びに来日した留学生の活用を提唱。またインバウンドの発信先としてヨーロッパを挙げました。
このうち、留学生の活用は「留学生にアルバイト料を払って、その留学生が使う言語で発信すればツイートはすぐ付く」などと強調。加えて、外国人雇用でハードルと考えられがちな言葉の問題も、「相手が外国人だからといって怖がる必要はない。彼らは日本語を勉強しに来ているわけで、日本語で話し掛ければOK。むしろ日本語のネイティブスピーカーと話ができるので喜ぶ」などと指摘しました。
またインバウンド(訪日外国人観光客)誘致を目指す国としてヨーロッパを挙げ、「アジアの近隣国はほっておいても来る。来ないところの国から呼ぼう」「ヨーロッパのお金持ちにまず来てもらう」などと語りました。
その後、プログラム後半は質疑応答に移り、研究に参加した留学生のアミナさんがボスニアヘルツェゴビナからオンラインでシンポジウムに参加。またトルコ出身で日本語が堪能な上智大学大学院の女子留学生のエリフ?エルドアンさんも、トルコ現地からZoomに加わり、会場の参加者との間で議論を深めました。
コロナ禍で研究内容も紆余曲折
観光コミュニケーション研究所は2020年4月、実践女子大学から研究助成を受け、2023年3月まで3年間の期間限定でスタートしました。久保田佳枝准教授(短大英語コミュニケーション学科)が所長に就任。「日本の観光地に、より多くの外国人を呼び寄せる上で効果的な『海外発信マニュアル』を構築し、そのマニュアルの有効性を示す」ことを研究課題に掲げ、当初は2020年開催予定の東京オリンピック?パラリンピックで来日する外国人観光客と地域をつなぐ研究を想定していました。ところが、足球现场直播,大发体育在线の世界的まん延により東京オリンピック?パラリンピックが1年延期。これに伴い研究内容も紆余曲折を経て、SNSを通じて多摩地域の魅力を世界に発信するという今回のシンポジウムで発表された内容に変更されました。