本格イタリアンのシェフを招いた特別給食実務実習が10月20日(火)、日野キャンパスで行われました。集団給食の調理実習を学ぶ学生たちに、有名レストランの味を体験してもらう本学初の試みです。学生たちは実習を通し、オーガニックにこだわるシェフのワンランク上の技を学び、素材重視のイタリアンの味に舌鼓を打ちました。
同実習は、食生活科学科の加藤チイ准教授が担当する「給食実務学内実習」の中で、健康栄養専攻の3年生40人を対象に20日と27日の2回に分けて実施されました。この日の参加者は、このうち22人です。学生たちは「調理実習や給食実習は何回もやっているけれども、今回は特別」と、この授業を楽しみにこの日を迎えました。
「専門学校などで教える機会はある。でも集団給食の指導は初めて」。そう語るのは今回の特別講師を務めた島田伸幸さんです。東京都目黒区駒場の東大キャンパス内に店を構えるレストラン「ape cucina naturale (アーペ クッチーナ ナチュラーレ)」のシェフです。オーガニックにこだわり、様々な素材を自在に操る料理が特徴です。
この日のイタリアンのメニューは、前菜に「秋野菜のガルピュール 茸のフリット添え」、1皿目のメイン料理に「パルミジャーノとゴルゴンゾーラチーズのリゾット」、2皿目のメイン料理に「抗生物質不使用のつくば鶏むね肉のポシェ、オレンジソース 秋野菜のサラダ添え」、そして最後にデザートの「チョコレートムース」です。普段は100食の給食を販売しますが、この日は販売を行わないため、30食分が用意されました。学生たちは見たことも扱ったこともない食材に興味津々で、和気あいあいとした雰囲気のなか、実習を行いました。
島田シェフによると、野菜しか食べないヴィーガンや、小麦を食べないグルテンフリーなど、レストランに来るお客様の嗜好は近年多様化しているそうです。こうした中で、島田シェフは「今は栄養士と料理人が連携を取るようになってきた。これからのトレンドを学生たちに伝えたい」と今回の授業の狙いを語りました。というのも、給食は栄養面を考えると制約があり、例えば塩分を抑えなければなりません。そんな時には様々な香辛料を駆使するというのが島田シェフの技で、風味を与えることで料理がおいしくなります。
島田シェフの技はこれだけではありません。例えば、リゾットです。リゾットとは「イタリア版の雑煮」で、牛乳とチーズを米と一緒に煮て作ります。普通、リゾットは、米は炊かずに、硬いままフライパンで調理しますが、島田シェフは違います。最初に炊飯器で米を炊き、炊いたご飯をいったん冷まして、それを温めた牛乳とチーズの中で混ぜて、煮ます。あらかじめ炊いたご飯を冷ますという、ひと手間を加えることによって、米がくっつき、煮崩れするのが防げるといいます。
また、水分量が変わらないよう、牛乳はあまり沸かさないのがコツだと教えてくれました。
こうしたワンランク上のテクニックが凝らされ、完成したリゾットは、米の一粒一粒まで形を残して、本当においしそうに出来上がりました。
加藤チイ准教授の話
給食実習は、栄養士として集団給食を提供するための知識や技術を習得する実習です。このため衛生管理や栄養バランス、健康への影響、一度に大量の食事を提供することなどが優先され、おいしさを追求することは一般調理ほどには重視されてきませんでした。これらを背景として大学の一般調理実習に料理人が講師として招かれることはあっても、給食実習にシェフが招かれることはほとんどなかったのです。
ところが、料理人の中には、健康に良いオーガニックにこだわるとともに、併せて、添加物?調味料の使用を抑えながら、食材本来の味を活かしたおいしさを追求する機運が高まってきました。つまり、集団給食と一般調理の距離が縮まり、集団給食においても「栄養士が献立を考え、料理人が味を磨く」という新たな連携の形が期待されています。
「給食という料理はない」。給食だから味が薄い、おいしくないというイメージは払しょくされなければなりません。現に、料理人が学校給食とコラボレーションしたり、大学病院で有名シェフがメニュー指導をしたりする事例も出ています。
今回の特別給食実習は、こうした集団給食の新たな潮流を踏まえて、やがて集団給食調理の最前線で手腕を試される学生に、シェフの本物の技と味を知ってもらおうと企画しました。イタリアンはその第一弾です。来年1月には第二弾としてフレンチを計画しており、ミシュランの一つ星レストランのオーナーシェフを特別講師に招きたいと今、検討中です。
取材メモ
初めて給食実習の現場に立ち会い、後輩の真剣に実習に取り組む姿勢に驚かされました。本館2階の給食実習室は黒板がないため、必要なところは全て自分でメモしなければなりません。そんな環境のなか、シェフの説明を一言たりとも聞き逃すまいとペンを走らす後輩の姿が、とりわけ印象的でした。
加えて、渋谷キャンパスの私にとり、給食実習室は見たことのない機械や調理器具のワンダーランドでした。大学とは思えないほどの設備の充実に目を丸くしてしまいました。