現代生活学科菅野元行教授とゼミ生が環境省大臣官房環境保健部より表彰されました(4/20)
4月20日(水)、環境省大臣官房環境保健部の放射線健康管理担当参事官室の参事官補佐である古川卓也氏と、同参事官室の藤嶋洋平氏が日野キャンパスに来校。環境省主催のぐぐるプロジェクト「ラジエーションカレッジ」の開催に貢献したとして、本学に感謝状が贈呈されました。当日は生活科学部現代生活学科の菅野元行教授と、「ラジエーションカレッジ」に参加した菅野ゼミ所属の4年生、武井唯さん、塚越梨乃さん、平川芽衣さんが、感謝状の授与式と歓談に参加しました。
ぐぐるプロジェクト「ラジエーションカレッジ」とは
環境省は2021年7月、放射線健康影響に関する課題を通じ「つむぐ:学び?知をつむ“ぐ”」「つなぐ:人?町?組織をつな“ぐ”」「つたわる:自分ごととしてつたわ“る”」ことにより風評に惑わされない適正な判断力を養うことを目的とした「ぐぐるプロジェクト」を立ち上げました。放射被ばくによる健康影響が次世代の福島県民に起こる可能性が高いと思っている人の割合を、2025年度までに2020年度の40%から20%に減らすことが目標です。
そんなぐぐるプロジェクトの取り組みの一つが「ラジエーションカレッジ」。全国の大学生等を対象に、放射線の健康影響に関する情報のアップデートを図ることを目的に実施された学び?発表の場です。全国49校より1,345名が参加し、実践女子大学からは生活科学部現代生活学科菅野ゼミ所属の4年生、武井唯さん、塚越梨乃さん、平川芽衣さんがセミナーを受講し、武井さんは発表の一部門である「台詞作成部門(放射線の健康影響に関する風評払拭を目的に、あらかじめ与えられた場面?登場人物?ストーリー等の設定に基づいて登場人物の会話を提案するもの)」にも参加しました。
今回の感謝状は、「ラジエーションカレッジ」への参加を学生に促した菅野元行教授と、積極的に学びに取り組んだ学生3名の貢献をたたえるものとなります。
正しい放射線の知識を広く知ってもらうために
感謝状の授与式の後、古川氏と藤嶋氏、菅野教授、武井さん、塚越さん、平川さんにより懇談の場が設けられました。古川氏から「ラジエーションカレッジ」への参加と貢献に対する感謝の言葉をいただいた学生たちは、それぞれ感想を述べました。
「私はセミナーに参加しただけでなく、台詞作成部門にも応募しました。放射線の健康被害は次世代に受け継がれないことを分かりやすく伝えようと考えましたが、それを台詞としてどう表現すればいいのか分からず難しかったです」(武井さん)
「情報を読み解く力や判断力を養えるプログラム構成で、とても充実した内容でした。東日本大震災が起きた時はまだ小学校4年生で、当時は“放射線は悪いもの”と考えていただけに、今回、放射線について正しく学び直すことができて良かったです」(塚越さん)
「放射線の影響が次世代に及ぶと考えている方が40%もいるという事実に、まず驚きました。次世代に影響が及ぶことはないということを、今後は自分の言葉でも発信していきたいと思います」(平川さん)
菅野教授は「ゆくゆくは、原発事故を知らない世代の学生に教えるときが来るからこそ、原子力発電や原発事故に関する事実やその後の復興について正しく伝えていく責任がある」と付け加えました。
さらに古川氏は、「マスメディアでの発信だけでなく地道な啓発活動が必要であり、人から人へと正しい情報が伝搬していく仕組み作りが重要。怖いのは、原発事故の記憶が悪い意味で風化していくこと。間違った情報が固着し、正しい情報にアップデートされないまま原発事故の記憶として風化していくのは望ましくない」と話し、「今年度もぐぐるプロジェクトを続けていく。このプロジェクトはSDGsの取り組みの一環でもあるので、積極的にSDGsに取り組んでいる実践女子大学には、今年度もぜひ参加してもらいたい」と結びました。
表彰された学生のコメント
東日本大震災の5年後、高校の課外行事で被災地を訪問したことがあり、放射線の影響についてはもともと興味を持っていました。放射線は目に見えないだけに怖いものと捉えられがちですが、「ラジエーションカレッジ」を通して、放射線は不必要に恐れるものではないと再認識できて安心しました。
「台詞作成部門」は、放射線技師の男性と結婚したい主人公の女性が、結婚に反対する父(感情的なタイプ)と母(論理的なタイプ)をどのような言葉で説得するか、その主人公の立場になって台詞を考えるというものでした。菅野教授の授業で放射線について教わってはいたものの、放射線と風評被害についての詳しい情報や、専門的な知識は持ちあわせていなかったので、「いわれのない差別にどう向き合うか」をテーマにして台詞を考えました。放射線についてだけでなく、差別や偏見という問題に向き合う機会にもなりました。
東日本大震災を経験した者として、原子力発電や放射線について正しく理解したいという思いがあり参加しました。菅野教授の授業で得た予備知識があったので、セミナーの内容はすんなりと理解することができました。また、これまで、放射線にまつわる偏見は持たないよう意識して行動してきたつもりでしたが、正しい理解を得ないままでいると、無意識のうちに不適切な行動に及ぶ可能性があることに気付かされました。自分自身の日頃の行いを見直すきっかけにもなったと感じています。
私たち菅野ゼミでは、日頃からTwitter等のSNSを通じてゼミでの活動や環境問題について発信しています。その際、その情報に誤った内容が含まれることがあってはいけないと改めて痛感しました。常に正しい知識を持って取り組んでいきたいです。
放射線についてこれまでそれほど関心を持っていなかっただけに、セミナーを通して放射線への理解を深められればと思い参加を決めました。特に印象的だったのは、放射線の健康被害が次世代に受け継がれると考えている方がまだ40%もいるという事実でした。これに大変ショックを受けましたし、放射線による偏見?差別をなくすためには、一人ひとりが正しい放射線に対する知識を持つことが大事なのだと感じました。
菅野教授は、いつもさまざまなイベントやセミナーなど、学外の情報もたくさん提供してくださいます。そのおかげで、今回もセミナーを受講して新たな気付きを得ることができました。後輩の皆さんも、ぜひ積極的にさまざまな体験をして、環境問題に対する意識を高めていってくれたらと思います。
菅野元行先生コメント
菅野ゼミは環境?エネルギーついて学ぶゼミですが、ゼミ生は理科が得意な学生ばかりではありません。とはいえ、専門家ではない一般の人たちこそ環境?エネルギー問題について考え、行動していくことが重要なのではないでしょうか。そういった観点から、ゼミ生が取り組めそうなイベントやセミナーなどの情報は随時ゼミ生に紹介していますし、ゼミ生たちもそれに応えてくれています。これまでも、毎年12月に東京ビッグサイトで開催されている展示会「エコプロ」に出展したり、実践女子大学環境報告書「サステナブルレポート」を作成したりと、理想的な環境?エネルギーの社会づくりを目指すさまざまな取り組みを実践してきました。今回のラジエーションカレッジもその一環です。
私の専門は有機化学で、放射線や原子力発電の専門家ではありません。とはいえ、原子力発電については以前から授業で取り上げ続けてきました。さらに、東日本大震災で原発事故が起きて以降、福島第一原発の電力が供給されていた首都圏で生活する者として、放射線にまつわる問題について責任を持って考えるべきであり、正しい事実を知ることが大事だと学生たちに説いてきました。
「ラジエーションカレッジ」は、自然科学を専門としない学生でも放射線について学べる最適なプログラムだと思います。放射線の基礎知識と健康への影響、福島第一原発事故とその推移について書かれた2冊の教本が提供され、これを手に学生たちはセミナーを受講しました。さらに、武井さんは発表の一部門である「台詞作成部門」にも応募。かねてよりの積極性を発揮してくれました。
学生には、「大学はこれまで知らなかったことを知り、難しいと敬遠してきたことについて考える場」と教えています。知らないこと、敬遠してきたことを放置することは、ある種の損失です。そこで学生が学ぶべきは積極性?主体性であり、「ラジエーションカレッジ」に参加した3名は、まさにそれを体現する学生の代表といえるでしょう。
昨今のロシアによるウクライナ侵攻で、チョルノービリ原子力発電所がロシア軍によって占拠されたのを見ても分かるように、原子力発電所は戦時の危機になり得ます。一方で、原子力発電は発電効率に優れており、その是非は極めて難しい問題です。だからこそ、放射線について正しい知識を得ること、そして放射線にまつわる偏見?差別をなくしていくことは非常に大切です。今回の「ラジエーションカレッジ」で学んだ知識が将来どのような場面で役に立つかは分かりませんが、少なくとも今回の挑戦で培った積極性はすぐに実践の場で役に立つはずですし、就職活動における“ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)”にもつながります。今後も引き続き、学生たちの積極性を引き出すべくサポートをしていきます。