新ブランド「BAUM」に至るグローバルキャリア形成の軌跡!資生堂と社会連携授業を行いました(5/18)
グローバルビジネスの最前線で活躍する人材にキャリア形成を学ぶ社会連携授業が18日(火)、オンラインで行われました。資生堂と本学の社会連携授業として実施され、今年度で8回目となります。講師は昨年度に続き、同社バウム?グローバル?ブランド?ユニットの林順子さんが登壇。林さんは、資生堂が海外展開を視野に入れた新ブランド「BAUM(バウム)」立ち上げに至る自身のグローバルキャリアを紹介するとともに、学生たちに「挑戦は必ず挫折を伴う。痛い失敗をすればするほど、その後の人生がより豊かになる」と、エールを送りました。
社会連携授業は、本学の学部を問わず2年生以上が対象の共通科目「国際理解とキャリア形成」のセッションの一つとして実現しました。文学部国文学科の深澤晶久教授(キャリア教育担当)が指導教授です。今年度は3年生17人、2年生9人の26人が受講しています。
講師の林さんは、2007年3月に関西外国語大学を卒業し、同年4月に資生堂に入社。今年で入社14年目となります。かつて資生堂の人事部にいた深澤教授とは、林さんが就職活動で資生堂を受験した際、深澤先生が林さんの面接官だったという、ご縁だそうです。林さんは、バウム?グローバル?ブランド?ユニットの現職に至る自身のグローバルキャリア形成の軌跡を、「大学生」「見知らぬ土地での出会いと気付き」「グローバルマーケットでの奮闘」の3つのフェイズに分けて紹介してくれました。
あなたの人生のテーマは何?~大学生時代
林さんは授業の中で、自身の大学時代を「挫折と挑戦を絶えず繰り返し続けるという私の人生のテーマの礎を築いた」と振り返りました。彼女のグローバルキャリアとの関わりでいえば、外国語学部英米語学科専攻という環境に加えて、イギリスに短期留学したという経験も影響。「将来いずれかは海外に携われる仕事がしたいと漠然と考えていた」といいます。
ただ、英米語学科という環境は、林さんにとり、あまり居心地のいいものではありませんでした。というのは、一緒に学ぶ学友の英語力やコミュニケーション能力がすこぶる高く、「帰国子女もいるようなクラスで学友と一緒に授業を受けるたび、自分の英語力とスキルの低さが恥ずかしくなった。いつしか、自分の殻に閉じこもり、努力することを止めてしまった」と自身を省みました。挫折といっていい、ほろ苦い経験でした。
しかし、一つの新たな挑戦が彼女を奮い立たせます。アラビア語習得への挑戦です。アラビア語の習得は、英語と違い、「学友も自分も1からのスタート。英語では帰国子女と間で埋めきれない経験の差があったが、アラビア語なら自分の努力で、いくらでもカバーできる」と考えたそうです。アラビア語を学ぶ学生は、語学が専門の関西外国語大にあっても1学年で20~30人程度だったとか。林さんは「アラビア語を学ぶクラスで1番いい成績を取る」という目標を自らに課し、アラビア語の習得に熱中しました。「それからは自分に課したノルマをこなすのが楽しくなり、経験ではなく自分の努力でカバーができ始めたので、やればやるほど上達した」と語りました。
「努力でカバーできるものを自分で見つけ、自分の短所を知り尽くして補う方法を考えて、それを長所まで伸ばせば、それが自分の個性になる。そう、何となく考え始めたのが大学時代だった」(林順子さん談)
見知らぬ土地での出会い気付き~中国ビジネス時代
入社後は、北海道の販売拠点に3年間配属されました。北海道時代のいつのころからか、学生時代から憧れていた「世界とつながる仕事をしてみたい」という気持ちが少しずつ強くなっていったと語りました。衝動は抑えがたく、社内の公募異動公募制度のジョブチャレンジに応募。見事合格、研修生として中国に1年間派遣されることが決まりました。
中国ビジネス部門に2010年に異動。2011年に研修生として北京に派遣されます。それ以前に訪中経験はなく、中国語も当時全く話せませんでした。「シンプルに全く自分の知らない新しい価値観の土地を見てみたい。これから伸びていくと言われていた中国市場を自分の目で見て、肌で体感してみたい」という希望に満ち溢れていました。
訪中後、資生堂チャイナの日本人社長の「ローカル感あふれる中国の現地を見たほうがいい」という方針から、いずれも日本人ゼロという黒竜江省ハルビン市や上海市に近い江蘇省無錫市のオフィスに林さん1人で、2か月間ずつ滞在しました。もはや「中国語は話せません」で済むはずもなく、猛烈に勉強。その時にできた中国人の友人は今でもやり取りをする無二の存在であると話しました。
グローバルマーケットでの奮闘
帰国後は再び中国市場に向けた商品開発に携わります。ほどなく、これまでのキャリアを活かせる新分野への挑戦を決意。日本や中国を含むグローバルマーケットで取り扱うブランドの仕事を目指しました。こうして、大学時代から夢見てきたグローバルな世界とのやり取りが、ようやく現実のものとなりました。
しかし、夢にまで見たグローバルマーケットの現実は「言葉の響きはいいが、単なるカオスマーケット」と甘くはありませんでした。理想と現実のギャップに苦しみ、痛い目に何度も遭いまくったと述懐します。その結果、グローバルマーケットとの向き合い方を、経験を通じて学んだと振り返りました。
「世界に自分と同じ考えの人はいない。言葉も思想も価値観も異なる。そういう彼ら彼女らとコミュニケーションを取るには、同じ一つのことを伝えるのも、いろんな手法があるし、いろんな伝え方を考えていかなければいけない。また、自分が考えていることがすべてが正しいわけではなく『そういう捉え方もあるのか』と自分の価値観も少しずつ幅が広がっていった」(林順子さん談)。
グローバルマーケットを相手に奮闘する日々は5年間続きました。この間、できないことの連続で、落ち込むことが9割だったとか。しかし、残りの1割で、小さくても自分の中でできることや、仲間の助けを借りながらもできることをちょっとずつ増やし、周囲の信頼を勝ち取っていきました。
林さんの次の挑戦が目前に迫っていました。「新しいブランドの立ち上げにプロジェクトメンバーとして参画したい」。2019年夏、現在に至る新ブランド「バウム」を立ち上げるプロジェクトメンバーに加わります。2020年1月、バウム?グローバル?ブランド?ユニットが発足。資生堂としても、高付加価値?高価格帯のプレステージ分野では、30年以上の空白を埋める新商品?ブランドとなりました。
「一つは、挫折と挑戦を繰り返して人生の礎を築いてきた。二つ目は、自分の短所とか長所をいろんな経験から知り、時には落ち込み、時にはそれをポジティブに言い換え、いろんな経験を重ねることによって、それが蓄積されて自分の個性になっていった。それを人に誇れるまでに昇華させることが重要だったと思う」
「一つ目と二つ目の連続という経験を通じて、『自分の中でのできること』を積み重ねた。後は運の要素が大きかったと思う。運をたぐり寄せるのも自分の実力の一つ。いろんなことを頑張っていれば、必ず誰かが見ていて、その人が思わぬところで、いいきっかけをポンとくれる。そういう幸運が重なり合った結果、自分が夢見ていたグローバルマーケットで戦うブランドの担当者という今の私がある」(林順子さん談)
渋谷SSで会える「バウム」の世界
さて、林さんが丹精込めて育てた新ブランド「バウム」を、皆さんはご存じでしょうか?ブランドメッセージは、「樹木がくれる美しい世界の始まり」。洗顔や化粧水やルームフレグランスなどのスキン、マインドブランドであり、「樹木由来の天然香料を中心に調合した香り」が、森林浴のような心地良さとともに、心身の調和をもたらしてくれます。
林さんは現在、店舗?カウンターに関するあらゆるものに携わっています。中国の建築家「ネリー&フー」社とコラボレーションして店舗デザインを担当しているかと思えば、店頭体験プランの構築やスタッフの応対プラン、コスチューム開発も林さんの仕事です。また、住友林業株式会社とコラボして店舗で育てたオーク(なら)の苗木を原産地?東北地方の森林を開拓して植樹するというサステナブルな(持続可能な)取り組みも展開。ネリー&フーの凝った店舗設計も、カリモク家具の職人芸と協業することで実現しました。
何はともあれ、実際に手に取り自分の目で確かめてみるのが一番です。本学の近くでは渋谷駅直結の複合施設型超高層ビル「渋谷スクランブルスクエア」6階のビューティフロアに「BAUM」があります。「学生の皆さん、是非、通学途中を利用して、バウムにお立ち寄りください」と、林さんからの伝言でした。
学生へのメッセージ
林さんは、最後にZOOM越しに学生たちに向かい、「あなたの人生のテーマとは何か」と改めて呼び掛け、講義を締め括りました。
「私の人生のテーマ『挫折と挑戦』は、バウムとの取り組みを通じて少し変わった。今は『挫折と美しい未来への挑戦』になった。私たちが住んでいる地球にバウムを通じて恩返しができればいい。将来にわたり、美しい地球が循環していくために今できることを最大限やることが、私の人生のテーマではないかと思う」
「自分の好きなことや興味のあることを是非見つけてほしい。見つけられなければ、今自分がやっていることを誰よりも熱心に取り組んでみてはどうか。レベルを誰よりも高いところに持っていけば、その先に必ず見える景色がある」
「挑戦するからには挫折する時が必ずある。でも挫折をしないと成長はない。痛い失敗をすればするほど、その後の人生がより豊かになると自分に言い聞かせることだ。ネガティブになることも多い。しかし、今の経験が先の将来につながると思うことが、いつしか挫折があってよかったと思える日が来る」
「人生のテーマはどんなことでもOK。ただし、人に話せるように自分の中で明確な言語化をしておけば、今後、就職活動などにも有益になる」(林順子さん談)
深澤晶久教授の話
思い起こせば今から15年前、林さんとの出会いは資生堂での採用活動、約20,000名の応募者の中から選ばれた精鋭の一人でした。営業での仕事、中国での経験、そして新しいブランドのローンチと、彼女のキャリアは挑戦の連続、素晴らしい活躍ぶりに触れ、本当に嬉しく思います。学生には、林さんのお話しから、何ごとにも主体性を発揮し、失敗してもなお挑戦を続けるチャレンジ精神を学び、これからの学生生活、そしてそれに続く社会人生活でも活かして欲しいと願います。