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生活環境を知るための文献

私が薦める一冊の本

坂本光司
日本でいちばん大切にしたい会社
あさ出版、2008

 学生や生徒の皆さんは、これから学校を卒業し「就職」することにどのようなイメージを抱いているでしょうか。ある人はいよいよ社会に出ることに対して期待に胸を膨らましているかもしれませんし、またある人は漠然とした不安を感じているかもしれません。卒業したら働くことになっているから働く、と淡々としている人もいるでしょう。

 それにしても、働くってどういうことなのでしょうか。どうして私たちは働かなくてはいけないのでしょう。生活費を稼ぐために仕方なく働くことになるのでしょうか。それとも、自分の本当にやりたいこと、自己実現のために働くのでしょうか。

 外国の人から見ると、日本人はどうしてこんなに長い時間働くのだろう、という疑問があるようです。しかもそれだけ働いているのに、ちっとも豊かさを実感できない社会であるとも言われています。就職して「働く」ことは賃金と引き替えに自分の時間を売ることであって、「働く」こと自体が「豊かさ」や「幸せ」につながるとは思えない人も多いかもしれません。

 「日本でいちばん大切にしたい会社」と題されたこの本には、著者が「大切にしたい」と思う会社が紹介されています。金銭的な価値よりも社員とその家族を大事にする。株主への利益還元よりも下請け業者を大事にする。そして何より顧客を大事にする。一見効率的で合理的とは言えないような経営に見えながらも、しっかりと地域に根を下ろしながら、着実に発展し続けている。こうした会社が日本にちゃんと存在するんだという事実は、「会社」に対するイメージを大きく変えてくれるように思います。

 もちろん、この本を読んでおけばこうした会社に就職できる、というわけではありません。こうした働き方をしたいと思ったからといって、必ずしもその希望が叶うかどうかは分かりません。しかし、「働く」ことが私たちの「豊かさ」や「幸せ」にしっかりと繋がるような働き方があることを、確かに私たちに教えてくれます。「働く」ことは苦役ではなく、私たちの価値観を創出する営みなんだという、「働く」ことに対する希望を抱かせてくれるでしょう。

 就職を間近に控えている人にも、そうでない人にも、ぜひ一読をお薦めしたい本です。続編も出版されています。(H. T.)