中村好文
住宅巡礼
新潮社、2000
ル?コルビュジェの「小さな家」、フィリップ?ジョンソンの「タウンハウス」、リートフェルトの「シュレーダー邸」、フランク?ロイド?ライトの「落水荘」、、、建築の好きな人であれば、どこかで写真などを目にしたことがあるような、いずれも名作中の名作と言われている住宅ばかり。建築家の中村好文さんが、これらの住宅を実際に巡って、写真とスケッチを用いながらその魅力を解説してくれています。
この本の良いところは、自らも建築家である著者がわくわくしながらそれぞれの住宅を訪ね歩く様子が、手に取るように伝わってくることです。一つひとつの建物に対する熱い気持ちと暖かい目線が、この本の隅々まで行き渡っており、建築にさほどの知識がない人が読んでも、これらの住宅の魅力を存分に感じ取ることができるでしょう。本を読み進めるうちに、著者と一緒になって建物を眺め、室内を歩き回り、椅子に身を置いて窓からの光を感じたり、暖炉を眺めている気にさせてくれます。建築の魅力とは、いわゆる「建築家」と呼ばれる人が発信する小難しい理屈にあるわけではなく、その実際の空間で得られる豊かな体験にあることを、存分に伝えてくれる本と言えます。
建築やインテリアに興味を持ち始めた人には、入門編としてぜひ一読をお薦めします。建築を学ぶことでより多くの魅力に触れてみたいという、わくわくした気持ちが高まることでしょう。建築の設計を目指したい人が読んだとき、かつて建築家がいかに隅々まで考え尽くして作品を生み出してきたのか、という事実に直面し、ともすると建築を設計することの大変さに思い至るかもしれません。しかしそれ以上に、ぜひ自分もそれだけの苦労をして価値のある住宅を創り出してみたい、と思わせてくれるに違いありません。
続編は、残念ながら絶版となってしまったようですが、機会があればこちらも合わせてご覧いただきたいと思います。(H. T.)