森南海子
手縫いのこころ -おんなの目 女のおしゃれ-
三笠書房、1987
ものつくりの得意だった日本人の日常生活からものつくりが減少してきたことが危惧されています。それはものをつくる時の工夫や製作過程の経験が新しい発想の源になるからです。かつての日本では母親が家族の衣服を縫い整えることがあたりまえでした。そして子どもたちは縫い物をする母親の周りで、針を持つことを見よう見まねで覚えていきました。
ところが、洋服の普及と既製服の発達は、家庭で衣服をつくることから主婦を解放すると同時に、家庭から布を使った手仕事を遠ざけてしまいました。現在、家庭で縫い物をすることは極端に減ってきています。その結果、若い人々の布を使ったものつくりに対する経験は非常に乏しくなっています。この本は、ものつくりの大切さ、縫い物の楽しさ、それが伝える心、おしゃれの本質を改めて考えさせてくれるでしょう。
著者の森南美子氏は、リフォームに注目してリフォームに市民権を与えた個性的な服飾デザイナーです。この本は、日本経済新聞社に連続掲載された「おしゃれ千字文」を改めてまとめられたもので、ほぼ見開きで一つのテーマが完結していますので、読みやすいと思います。針目って何でしょう、美しく装うって何でしょう、女の熟年って何でしょう、夫の目って何でしょう、思いやりって何でしょう、ものの値打ちって何でしょう、機能性って何でしょうの疑問形からなる7章をとりあげ、各章が十数編ずつで構成されています。今は忘れられてしまった人々の衣服への思いが、若い人には新鮮に感じられるのではないでしょうか。(H. T.)