SD法で印象を測る訳

SD法で印象を測るわけ  

印象と特徴の対応関係を見る

 「馬鹿の一つ覚え」とでも言おうか。SD尺度で印象を計測し、ついでに一応は因子分析するというようなことを、20年に渡って繰り返してきた。
 何年か前に、ある委員会の席で「未だにSD法をやっている人もいるみたいだけど。」という発言があったのを憶えている。もっと進んだデータ収集方法がある、解析方法があるという趣旨だろう。でも、私はそこで揶揄されたようなことを続けている。それには理由が在る訳で、それを書いておいてもいいかなあと思い、このコラムを書き始めたのである。
SD法の比較的短めの解説
 さて、そうは言っても、私がやっていることは正統的なSD法の概念からは若干ずれることかもしれない。
 この文章を読んでいる人は若干なりともSD法に対する知識がおありだろうと思うが、SD法は、印象を測ってその次元を特定することがそもそもの目的であった。その目的を達成するために創始者オズグッドが考案したのが、多数のSD尺度を用いた印象の評定と、その結果得られたデータの因子分析である。さまざまな地域で、さまざまな対象に対してSD法を適用し、いずれも3次元が得られたことから、人の印象の主要な軸は3次元であり、それは人類に普遍であると主張したのである。私も10回以上はSD法のようなことをしていると思うが、確かに主要な次元は3次元が得られることが多い。

※オズグッドの用語では、印象=情緒的意味、評価対象=コンセプトと呼ばれる

 こういった目的の場合、印象を表す言葉をたくさん集めてSD尺度群を構成することが第一の作業となる。たとえば、インテリアの印象の次元を知りたいのであれば、さまざまなインテリアの写真を集めて被験者に呈示し、その印象を表す言葉を収集するというようなことをまず行う。続いて、「温かい‐冷たい」、「明るい‐暗い」というように反対の意味を持つものを対にしていく。その対になった言葉の間に多段階尺度を埋め込んだものがSD尺度である。学生に評定してもらうとき、普通に解説すれば戸惑いが生じることはないと言っていいほど単純な尺度である。しかし、印象を数値化できるメリットは大きい。数値化により、解析手法のバリエーションが圧倒的に増えるからである。

 その中でオズグッドが因子分析を選んだのは、印象の次元を知るためであった。ということは、それ以外の目的であれば、因子分析が必須であるとは言えないだろう。
 私は、街路景観やインテリアやプロダクトなどの印象を、それらの特徴によって説明するということに興味を抱いている。

 物品や環境の特徴 ←→ 印象

そうであれば、印象の数値化が必要なだけで、必ずしも次元を特定する必要はない。多数の尺度を評定してもらった場合には因子分析に掛けることもあるが、それは、何十もの尺度のすべてで印象と特徴の関係を説明するのは億劫だから、「次元を代表する尺度だけで対応関係を見る」ことにしたいためであることが多い。
  さて、私のような興味を持っているのなら、特徴の方はそれを表現する変数を考案して用意し、一方、印象の方は各次元を代表する得点を算出し、対応関係を見るということになろう。一般的にはその得点として因子得点が利用されている。これは次元に対応する軸を仮想的に設定した場合の得点である。しかし、これは必ずしも我々の感覚と対応しない。尺度をベクトルで表したとすれば、そのベクトルが密なところばかりでなく疎なところに次元のベクトルが現れることがあるからである。それは、我々の感覚を合成して得られるもので、我々が感じているものではないのだ。(詳しい解説は省く)
 私が「次元を代表する尺度だけで対応関係を見る」と、あくまでも尺度にこだわりを見せた書き方をしたのはそのためである。次元を表現するより、尺度(=特定の印象)を表現したいのである。したがって、最初から評定尺度を絞り込んでしまうこともある。好まれるデザインの特徴が知りたいのであれば、好ましさだけ尋ねればよい。その方が、同じ時間でより多くの対象について評価してもらうことが可能になるのだから。

 実は、これは大きなメリットだと思う。
 私は配色の印象評価の研究をしてきたが、いつもサンプル数を多くしたい衝動と戦っている。20色のバリエーションを用意したとして、2色配色なら 20×20=400サンプル、3色配色であれば20×20×20=8000サンプル。サンプル数は累乗で増えていくから、網羅的にサンプルを作成すれば、サンプル数の爆発につながる。
 かと言って、実験を数回に分けて実施すれば日によって傾向に違いが出ないかなどと言われそうだし、時間を長く掛ければ評定がいい加減になるだろうと言われそうだ。サンプルをグループ分けしてその部分だけを評定してもらうようにすると、個人差の解析がしづらくなる。斯様に、さまざまな問題が存在するので、短時間に多くのサンプルを評定できることはメリットなのである。
 さらに、SD法の評価方法というのは、ME法などと比べ、普段の我々の評価とシチュエーションが類似しているという長所がある。普段の我々は、何かに出会って、それをそのまま評価することが多い。一方、ME法などは、比較するという方法を取る。もちろん我々は比較することもあるが、それは少数の対象に的を絞ってからだろう。それに比較にはそのし易さというものがあって、似ているけれどもひとつだけ違っているところがあるというような場合には全体的な評価もしやすいけれど、まったく違った属性(特徴)を持った2つを比較することは難しく、安定した結果が出ないことも多い。人間は比較は容易にできるが絶対的な評価は苦手だという(昔の?)心理学者の思い込みは、現実にそぐわないような気がする。

 さて、このあたりで一旦お開きとしよう。

 続きは個人差の扱いの話題や、最先端の解析方法を用いない理由になると思う。


2007.07.25

SD法についてはひとまずこちら


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実験7用紙(記入).pdf第1実験の評定用紙例

実験7用紙(理由).pdf第2実験の評定用紙例

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Paper01.pdf
評価構造の安定性

Paper02.pdf
評価項目の影響力

Paper03.pdf
評価構造の個人差について

Paper12.pdf
街路景観の評価構造
カード?ピックアップモデルの提案







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