SD法に飽き足らない人に
SD法に対する批判の一つに、回答させるのに相応しくない評価項目が出てくるというのがある。
たとえば、「美しい」の反対は反対語辞書では「醜い」だが、街並みにそれを用いるのはためらわれる。私は「美しい-美しくない」を用いるが、「ない」というのは厳密には反対語ではないという意見もある。
反対の意味を持つ言葉がはっきりしないというのもある。「暖かい」の反対なら「冷たい」でいいだろうが、「和風」の反対は何だろうか。「洋風」?、「中国風」?、「アジアン」? それとも「現代風」?
2つの意味を持つというのもある。明るい照明という時の「明るい」と、明るい人という時の「明るい」では意味が異なる。そして、色の印象などは前者の意味だけでなく、後者の意味が含まれることは普通のことである。しかも、人によってどちらかの意味で解釈したり、どちらもの意味で解釈したりといった個人差があるかもしれないのである。
SD法についてはひとまずこちら
こういうことへの対処として、評価対象ごとに被験者に評価項目を述べさせ、それを評価項目とするという方法を推奨する人もいる。一人一人が状況に応じて利用する言葉であれば、反対の言葉を用意する必要はないし、意味も個人の範囲内で一定だというとみなせる可能性は高いだろう。自分で発した言葉であれば、意味が明確だから回答しづらいということもないだろう。そういう考えである。
ただ、こうすると評価項目が個々人で異なることになるので、解析の方法が限定される。
そこで、両方のメリットを享受できる解析方法というのを考えた。それが博士論文で用いた「評価理由選択法(=KM法)」である。まあ、今名付けたのだが。
これは評価の理由を収集する第1段階と、評価の理由を選択させる第2段階からなる。
第1段階では、図のように評価の理由を収集する。自由記述なので、言葉が出る人はたくさん書いてくれるだろうし、出ない人は一言だけになるかもしれない。とにかく、バリエーションを集めることに主眼を置く。
それが済んだら、同じ意味の項目をまとめて第2実験の選択項目を作成する。第2実験では、「あなたが評価したときに感じていたことを以下の項目から選択してください。」とやるので、できるだけバリエーションを残すことを心掛ける。もっとも、数十名の被験者が居ても、これは1~2名しか挙げないだろうなという表現?項目が記述されている場合もあるから、そういうものは「その他( )」を用意してごまかすことにする。
そういうことをやってできあがったのが、第2実験の評定用紙である。
総合的な評価と評価の理由が知りたいだけであれば、①と③があればよいのだが、ここにはSD法による印象評価の部位(②)と評価の理由が評価を上げるか下げるかを訊ねる部位(④)が追加されている。
②は、SD法でわかることもあるという考えである。ただ、利用する尺度は外部の状態を表すもの(ex.広い-狭い)というよりは自分の内部に湧き上がる感情に近いもの(ex.開放感のある-ない)である。「評価対象の状況」→「内部感情」→「総合評価」という評価構造を仮定したとするならば、右から2つの関係を見るために使用しようという狙いを持たせている。
④は、同じ言葉で表現される事柄でも評価を上げるときと下げるときがある(たとえば、「都会的」な風景を好む人と嫌う人がいる)ので、それを分離しようという狙いを持たせている。ここでは5段階で上げ下げする度合いまで表現してもらおうとしているが、方向性だけ見る3段階でも大きな違いはないかもしれない。
この手法は、博士の時に実施した街並みの評価構造の研究がベースになっている。
予備調査的な第1実験と本実験に当たる第2実験を実施して一番嬉しかったのは、「一つめの実験の時には言いたいことが書けないところがたくさんあったのに、二つめの実験では、それが全部書いてあったから自分の気持ちを表現できた。」というManaちゃんの言葉であった。SD法でも、自分の言葉で語らせるのでも、すべてを表現できるような気分にはなれない人が多かろう。そこをある程度クリアできたのは大きい。
その他にも、いくつかの点で、SD法単独もしくは理由を語らせるという手法にはないメリットがある。
○人々が述べた言葉を基にしているので、その評価対象に固有な事柄についても網羅できる
○言葉が同じで異なった内容を表現するということに対応できる
○実は、「都会的な」風景から「冷たい」印象を受けるか、「洗練された美しさ」を感じるかで評価は変わる。このように、評価に直接的な影響を与えるのは、「内部感情」の部分だと考えられる。それをSD法の評定の部分で捉えることができる
SD法単独だと、「どうしてそういう評価なのかわからない」ということが起きる。それでSD法は一時期より用いられなくなってきたのだと思う。「KM法(評価理由選択法)」は、そこを補うことができると考えている。
...ということなので、SD法に飽き足らない方々にトライしていただけると幸いである。
※博士論文の内容をまとめた4つの論文を読んでいただけると手法の背景について詳細が記述してある。
2010.02.25