著書の紹介
SD法
『ユーザビリティハンドブック』編集委員会、共立出版、18,900円(税込み)より
アメリカの心理学者 Osgood, C. E.が考案した事物の情緒的意味、つまり印象の次元を把握する方法。対象の印象をSD尺度で捉える前半部分と、因子分析を用いて次元を抽出する後半部分からなる。
SD尺度は、反対の意味を持つ形容詞?形容動詞の間にスケールを配したもので、被験者は対象の印象がどちらの形容詞?形容動詞に近いか、それをその程度を含めてスケール上に印をつけることで表現する。スケールは5?7段階が用いられることが多いが、それ以外の例も多数存在する。また、SD尺度は印象の漏れを防ぐため、数十のオーダーで用意される。その結果、対象×SD尺度×評定者の3元データが収集されることになる。
続いて行われる次元の抽出にあたっては、評定を数値化し、因子分析にかける。多数のSD尺度を用意しても3因子程度の少数の因子で評定分散の大半を説明できることが多い。
オズグッドの興味は情緒的意味の次元に共通性があることの確認にあり、さまざまな対象(オズグッドはconceptと呼ぶ)にSD法を適用し、類似した3因子、評価性因子、活動性因子、力量性因子(Evaluation, Activity, Potency)が抽出されることを確認したところに言語学的?心理学的意義が認められる。しかし、ユーザビリティとの関連でいえば、SD尺度の開発により、印象を数量的に捉える手段を整備したところに大きな意義が存在する。たとえば、「使いやすい」←「表示が見やすい」←「文字と背景の明度差が大きい」というような印象の階層構造を考えたとき、それらはすべて広義のSD尺度で捉えることができる。それらを数値化することにより、項目間の関連の大きさを相関係数で表現する、項目と物理的属性の関連を重回帰式で表現するといったことが可能となるのである。
今、「広義の」と書いたのは、「使いやすい?使いにくい」は「暖かい?冷たい」などと異なり、一方が他方の形容詞?形容動詞の否定形となっており、これはオリジナルのSD尺度の定義に反するからである。このような拡張には賛否両論あるが、SD尺度は多数の対象を評価させるのに向いているので、そういった特性が求められる場面では、今後も多用されるであろう。そこでは、目標とする印象を捉えることに主眼を置けば良く、多数の尺度を評定させる、因子分析を実施するといった側面は必ずしも重要ではないと考えられる。