生活環境講座

第30回 夏対策は、ユニバーサルにあらず? 佐藤健
日焼け対策

 5月の末、梅雨前だというのに、日中の気温が30度を超え、強い日差しがありました。出かける装いは、どうしましょうか?ファストファッションの売れ筋で、皮膚を露出して街を攻めるか?それとも、日傘や帽子などなどUV対策するのか?別の見方では身軽な装いで出かけるか、いくつか荷物になるが、UV対策を充実させる。ということになります。正解はありませんが、その人々が選んだ理由はあるでしょう。

 紫外線が、シミやしわの原因になっていることは知られています。日焼け直後に、皮膚が赤くなるサンバーンと呼ばれる状態から、5日程度かけて、サンタンと呼ばれる、メラニン色素が作られた状態になります。白い肌の人は、紫外線に対する感受性が高いので、日常生活において適切な紫外線対策は必要です。職業上、見晴らしがいいところに長くいて、紫外線をたくさん浴びてしまうパイロット、高所作業者や漁業従事者は、皮膚がんのリスクが一般人より高くなっています(日職災医誌,51:109─114,2003)。

(図1)釣行で日焼けしすぎた私の首。ちょっとした隙間も、日差しが強いとこの通りやけどと同じです。この教訓により、日焼け止めだけでなく、帽子の形状や首回りにも工夫をするようになりました。

汗と熱中症

 暑くなると汗をかく。というのが、体温を37度前後で恒常的に保とうとする人間の重要な機能です。しかし、中高生の制服姿を見て気づきはないでしょうか?最近の中高生は、かなり暑くなるまでベストを着用したままです。

 暑くないから汗をかけないのですが、汗をかくには、汗腺が発達する必要があります。つまり体温を調節する汗腺がたくさんあれば、汗をたくさんかくことができ、汗腺が少ないと汗をあまりかかないようになります。長年の研究で汗腺は、生まれてから3才くらいの間にどのような温度環境で生活したかで決まり、人種などの差は大きくないそうです。例えば、熱帯の熱いところで生活した人は、能動汗腺が発達し、逆に寒いところで生活した人は能動汗腺が少なくなります。日本人の場合は、温帯で四季があるため、熱帯人と寒帯人のちょうど中間くらいの汗腺の数(250万?350万くらい)に収まるのが普通です。

 ところが、近頃はどこの家庭でも空調設備が整っているため、生まれたばかりの子供は、エアコンのある快適な部屋で育ちます。つまり、夏汗をかく必要がないので、汗腺は当然発達しません。そして、成長した子供は外で遊びます。本来夏暑いときはたくさんの汗をかいてくれなくては困るわけですが、汗腺の成長していない子供は体温を下げるために必要なだけの十分な汗を汗腺がかいてくれません。このままでは、恒常性が維持できないために、体の方でも生体防御反応として、体の熱を産生しないように調節します。その結果、「基礎代謝」を低くして熱がでないように個人で適応しています。

 では、体温調節機能が低下しても、汗をかかないから、エアコンの温度設定28度に適応したエコロジー新人類誕生バンザーイとはいきません。発汗などの体温を調節する機能が低下すると、暑くても汗をかきにくく、汗の量も少なくなります。また、皮膚の血流が増えて、体内の熱を逃がそうとするはずですが、特に高齢者の場合は、暑くても皮膚の血流量が増えにくくなります。すなわち、体温調節機能の幅に個人差が大きく、熱中症にかかりやすくなる人が増えています。

(図2)日野キャンパスでWBGT温度(2010年7月23日)。31.8度は、運動禁止です。

暑さ指数に注意

 近年、熱中症予防の観点から、暑さ指数という温度が取り上げられています。WBGT(湿球黒球温度:Wet Bulb Globe Temperature)と呼ばれ、湿度を7割、 日射?輻射(ふくしゃ)など周辺の熱環境を2割、 気温を1割の観点で3つを取り入れた指標です。汗をかくことが、体温調節でもっとも大きな要因になります。したがって、湿度が高い場合は、汗をかいても体温調節がしづらい環境になります。湿気のある室内では洗濯物が乾かないのと同じ理屈です。WBGTが28度以上あっても、オリンピックのフルマラソンなど特別なトレーニングをしている人は対応できます。また、室内で熱中症になることもあります。扇風機や換気でWBGTの数値が下がることはありますが、汗をあまりかけない人は、潔くエアコンの設定を28度以下にする必要があります。もちろん、こまめに水分を摂取しましょう。 (T. S.)

(図3)日野キャンパス卓球場(2013年7月8日)。40度近いですが、WBGTでは、湿度も関係するので、32度くらいになります。いずれにしても運動はできません。いるだけで汗をかきます。