当研究室では産学官プロジェクトの一環として、NPO法人 生物多様性農業支援センター(略してBASC)で行なっている「日本の田んぼ守ろう」という運動をお手伝いしています。まだ記憶に新しい3.11大地震における放射能に汚染されたお米やTTP(環太平洋戦略的経済連携協定)による日本のお米作りのあり方などホットな話題ですので、今回は分かりやすく簡単に解説したいと思います。
今回のテーマ「生きものがたり」とは、BASCで進めている「日本の田んぼを守ろう」という運動のキャッチフレーズです。田んぼに生息する生きものを調査することによりその田んぼがどのくらい安全であるかの指標をBASCでは作成しています。生きものが生息できるということは、その田んぼで作られるお米は美味しくて安全であると言えます。
今回のケーススタディとして取り組んでいる佐渡島では昔ながらの田んぼの象徴であった「トキ」が絶滅してしまいました。田んぼに、餌になる小動物が生息できなくなってしまったからです。お米はたくさん収穫できるようになりましたが、果たして安全なお米であるかは疑問です。我々は毎日お米を食べています。田んぼから生きものの命を奪ってしまうような有害物質で育てられたお米は、我々人間にとっても無害なはずはないのです。
BASCは生き物調査をすることにより、我々に安全でおいしいお米であることを証明してくれます。また、お米を作っている農家の方々には、生きものと共存しながら作るお米のメリットを伝えています。自然を破壊しないで生きものと共存できる本来の田んぼを、日本中に展開することが将来の日本のお米作りの理想であるとの願を込めて、この運動を「生きものがたり」とよんでいます。
人間の暮らしと密接に関係している環境に「里山」があります。
里山とは地域の大自然(ジャングルなど)と都市部の中間に位置し、人間と自然を結びつける重要な役割を持っています。田んぼや畑などのも里山の一部と言えます。里山は人間が管理して初めて成立します。そしてそこは、人間だけではなく野鳥や小動物にも重要な生活の場を提供します。トキやコウノトリは里山で食事を行い、子育てはジャングルで行います。
現在、この里山が都市部の拡張により、消滅しつつあります。野鳥が住めなくなった理由には、ただ単に有害物質の使用だけではなく、里山の消滅も大きな理由の一つなのです。タイで起こった大洪水も里山が消滅したために起こった災害と言われています。
福井県越前市では里山を復活させてコウノトリを呼び戻しました。「生きものがたり」の成功例の一つです。田んぼにメダカやドジョウが生息できるようになると、それを餌にするコウノトリが戻ってきたそうです。またそこでとれたお米は「自然に優しいブランド米」として日本中で注目されるようになりました。
佐渡島の話は最初に少ししましたので、CRMについて話をします。CRMとはCause Related Marketingの略で、企業においては、利益と社会貢献を両立させようとする21世紀型のマーケッティング手法です。我々の身近では「ベルマーク」が有名ですね。その他、いくつかの例を紹介します。
?「1チョコ for 1スマイル」 森永のチョコレートを一個買うと1円が途上国の子どものためにファンドされます。
?「1L for 10L」 ボルビックミネラルウォーターを買うと一部がアフリカの井戸建設のための資金にファンドされます。
?「千のトイレプロジェクト」 ネピア製品購入で売上金の一部が、東ティモールのトイレ建設資金にフォンドされます。
?「トラカムバック」 阪神タイガースのバックを買うと売上の一部がネパールの虎の保護資金にファンドされます。
など、言葉自体に馴染みはないですが、我々は知らず知らずに社会貢献に参加しているのです。
さて、前置きが長くなりましたが、佐渡島の取り組みと、当研究室の役割です。
佐渡島はお酒用のお米「酒米」作りが有名です。昔からの酒蔵も存在します。そこで、「生きものがたり」をベースに佐渡島発の日本酒をCRM製品にしたて、代金の一部をトキが生息できる里山復活運動の資金に当てる計画です。当研究室はこのCRM製品のプロモーションツールデザインのお手伝いをしています。
これまで計画したツールには、若者向けボトルデザイン、コースター、ボードゲーム、居酒屋計画、カルタ?すごろく、フリーペーパー、ストラップなどです。2012年度はこれらを全国展開すべく、インターネットへの投稿、ポスター作成、お米を使ったB級グルメの開発などをメインに進めています。もうすぐインターネットに投稿されますので、興味のある方は是非、覗いてみてください。(T. T.)