新宿東口に伸びる新宿通りをCGで再現し、高さを揃えたり、色を揃えたり、看板をなくしたりして、印象がどう変化するか見たことがある。9通りの街並みを作ったのだが、もっとも効果的だったのは看板を1階に制限することであった。
ヴェネツィアは、すでに5度訪れているが、もう一度訪れてもいい町である。そこには袖看板がない。狭い路地が多いから邪魔になるというのもひとつの理由だろうが、厳しい制限が存在するので、やろうとしてもできないのである。店の名前は壁面に書かれている。
こういう造りは、歩く町だからできるのだという人もいるだろう。店の名前程度わかれば、あとはウィンドウの中を覗けば、何屋かわかる。それで事足りるのは歩行の速度だからだと。車社会で的確に情報を掴みながら動き回るのは確かに大変だが、そんなにアピールが必要だろうか。自分の普段の行動パターンを思い起こしてみると、上記程度の情報で事足りることが圧倒的に多い気がする。もう一度、看板の情報源としての効果、広告としての効果の程度を考え直してみてもよい。
具体例を挙げてみる。
ロンドンの中華街に行ったときには、面白いことを発見した。ここの商店には、売っている商品の紹介やサービスの紹介が窓に貼ってあったりするのである。ロンドンの他の商店街では、そういうものをほとんど目にしたことがない。一方、中国やタイなどは広告の洪水だというから、これはアジア人の習性なのかもしれない。もちろん、コンビニの有り様を見れば、日本も例外ではない。商品はウィンドウから覗けばだいたいわかるから、サービスについての紹介を工夫して、目立ちすぎないようにしてはどうだろうか。
ロンドンの中華街
「日本の看板は背景付きだから邪魔なんだよ。」と仰ったのは、恩師I先生である。ウィーンの街で色彩調査をしていたときの一言だったと思う。
確かに、そこいらの看板を眺めれば、袖看板は筆記体のアルファベット。看板は線で構成されていた。しかし、それが日本語となると、草書体の看板もわかりづらいだろうし、偏と旁の間をつなぐのも格好が悪いから、どうしても背中に板が付くという訳だ。
もっとも、背景が必要な訳はそれだけではなさそうだ。店名を表す文字の背後に拡がる壁が低彩度の落ち着いた色だからこそ、看板が目立つわけで、そういう建物に囲まれていなければ、額縁の役割を果たす板が必要になろう。看板をよきデザインにするためには、壁面ファサード全体に気を配らないといけないのかもしれない。そのあたりが課題か。
これは新宿辺りでしょうか 背中の板と関係するので、ちょっとだけ夜の看板の話をしてみる。
いつも利用している駅の前の狭い道に商店街があって、ちょうどバス停から見えるものだから、バス待ちの間に眺めることがあった。それが...やたらと明るいのである。何で明るいのかと思って観察すると、つまりは背中が白いのであった。黒、赤、青。文字の色は異なっても、背景は圧倒的に白が多かったのである。これが内側から照明されるから、やけにまぶしい。
看板屋さん。もう少し、夜のことを考えてください。
※紹介した研究の詳細は....槙 究、竹之内香織:日欧比較に基づく街路景観改善手法の提案 ?3Dモデラーを用いた新宿通りのシミュレーション?、日本建築学会大会学術講演梗概集D-1、pp.317-318、2002参照