日本色彩学会誌2008 Vol.32 No.3
ストックホルムの街
今年度のAIC Meetingが開催されたStockholmは、大小14の島で構成される海と湖に囲まれた街である。海と見える湖の色はブルーではなく、もっとシルバーに近い。建物はクリーム、そして煉瓦の赤茶が混じる。それよりも、空が青い。期間中は天候に恵まれ、ネーデルランドの画家たちが描きとめたような柔らかな青空を眺めることができた。雲が美しい街である。
NCS
Welcome partyはNCSのオフィスで開催された。もう一人の報告者である鈴木さんが職員に声を掛けられNCSについてレクチャーを受けたそうだ。そこから、PCCSとNCSの違いは何かという話になった。どちらも純色へのグレーの混合を考慮している点が共通しているけれども、PCCSと異なり、NCSは色立体の中の色すべてを記号で表すことができる表色系である。調査にはこちらを用いることになろう。Yが低明度になると緑がかってくるなどということもない。一方、Munsellと対応が取れているので同時に明度を考慮するにはPCCSの方が向いているかもしれない。日本で実験する分には色票などを手に入れやすいのもメリットである。
Munsellも含め、3者の使い分けの指針があってもいいかもしれない。
Color Effects & Affects?
例年は物理的、技術的な話題、つまりハードな話題を扱った発表の方が、心理的?社会的もしくはデザインに関わるソフトな話題を扱った発表より多い印象がある。けれども今回はテーマ「Color Effects & Affects」が関係していたのか、ソフトな話題が多くを占めていたようだ。すべての発表を視聴した訳ではないが、新たな視点を提供した発表というより、これまで知られている事柄を豊富な画像とともに紹介した、そんな発表が多い印象を持つ。したがって、一方ではブレイクスルーが必要であることを感じたが、もう一方ではカラーに関連する情報が流通していることも感じさせられた。発表者が撮影した画像のみでスライドを構成したとは思えず、ビジュアルな情報を手に入れやすい環境が整備されていると考えられるからである。日本でも、そのような環境を整備することが考えられていいのではなかろうか。
環境デザイン
ストックホルムの建物紹介や、地下鉄のデザインの紹介では、建築家とデザイナーの共同を感じる事例が報告された。建築家が内装を手がけると、(そこにはコストが否応なく絡んでいるとしても)全体に統一されたデザインになりがちだが、こちらではそこにグラフィック系のデザイナーを介在させることによって個性を付与している事例が多い。そこに色が活躍する場がある。環境のデザインに関わる職種を育てたいものである。
...AICの大会に参加すると毎度感じさせられることだが、日本人はソフトな話題を扱う場合でも研究をする。しかし、ヨーロッパやアメリカの人がソフトなことを発表すると事例報告になる。今回は、個別の報告を取り上げることをせず、後者の発表から考えさせられた事柄を紹介するという報告形態をとらせていただいた。ご諒解をお願いする次第である。
(槙 究)