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事業目的
源氏物語は、世界最古の女流文学?長編小説のひとつであり、日本の文学?文化?社会に大きな影響を与え続けている。
海外でも多くの翻訳が流通する中で、国際的にも高い評価を受けており、近年の日本文化に対する関心の高まりの中、更なる注目を集めている。
本事業は、源氏物語研究について創立以来の伝統と蓄積を有する本学において、国内外の研究機関?研究者との連携のもとで学際的?国際的な研究の実施と拠点形成を行い、その成果発信をもとに本学のブランディングを行うものである。
外部環境、社会情勢と研究テーマとの関連
近年、日本文化への国際的な関心が高まっており、日本政府観光局の統計によれば2016年までの10年間で訪日外国人は約1670万人増加し、2020年の東京オリンピック?パラリンピック開催も控え、今後もその数は増加し続けることが予想される。また、インターネットの発展によりSNS等が普及し、個人が国境を越えて情報収集?発信を行うことも容易になっている。このように海外とのコミュニケーションの機会が増加する等、グローバル化が進む社会情勢において、日本文化について日本人自身がその価値を十分に認識した上で、国内外へのより積極的な発信を行う必要性が唱えられている(「平成26年度 文部科学白書」等)。
源氏物語は最古の女流文学?長編小説のひとつであり、日本の古典文学作品の最高峰とされ、現在に至るまで詩歌、随筆、戯曲をはじめとした日本文学の様々な分野に対して影響を与え続けている。それだけではなく、源氏物語をモチーフとした絵画、服飾、工芸品等も数多く製作されており、源氏物語は日本文化の源流をなすものとしても位置づけることができる。上述のように日本文化発信の必要性がある中、日本文化の象徴ともいえる源氏物語の研究を行うことは大きな意義を有する。そして、源氏物語研究を深めるためには、文学的視点だけではなく、文化?社会的側面等、様々な側面を考慮した学際的な研究拠点の形成が求められる。
さらに源氏物語は、国際的にも高い評価を受けている。現在は33の言語に翻訳され、流通するとともに、2008年の源氏物語千年紀で国際的な興味関心を広く集めたことを受け、海外でも源氏物語研究が盛んになりつつある。こうした環境において、様々な国の研究機関?研究者との連携のもとで国際的な研究拠点を形成し、継続的に事業を実施することは、源氏物語研究の高度化にもつながるものである。
本学に係る現状と研究テーマとの関連
本学は、1899年の学園創立以来、源氏物語研究に取り組んできた。文学的研究においては、本学の創立者である下田歌子がその講義で評価を得たほか、戦後も山岸徳平、阿部秋生、野村精一らが多くの研究成果を発表し、学術界をリードしてきた。さらに、本学は源氏物語に関する資料を豊富に所蔵しており、中でも黒川文庫、山岸徳平文庫、常磐松文庫等は世評の高い特色あるコレクションである。加えて、将来を見据え、これまで文献研究の中心であった室町期の資料だけでなく、鎌倉期の資料も他の研究機関に先駆けて収集しており、源氏物語関連の古写本や古筆切等の所蔵数は世界でもトップクラスである。
これらの研究蓄積と豊富な資料を基盤として、近年、本学は全学的に推進すべき事業として源氏物語研究を位置付け、推進している。同時に、国内外の研究機関?研究者との連携のもと、附置研究所である文芸資料研究所を中心とした研究拠点形成に取り組んでいる。特に有職故実、装束、礼法、民俗芸能、美術等の様々な分野の専門家を研究員とすることで、源氏物語が日本文化に与えた多様な影響を分析し、源氏物語に描かれた時代?社会に関する知見を得るための体制を整えている。これら文化的?社会的側面に関する源氏物語研究の成果を蓄積するとともに、「異文明との対話の新世紀 実践『源氏物語』研究フォーラム」(2001年)、「源氏物語千年紀記念講演会」(2008年)、「宮廷の華 源氏物語」(2014年)、「公開講座 源氏物語のたのしみかた」(2017年)といった本学主催の講演会等を通じ、社会に対して積極的に発信している。
源氏物語研究の学際的?国際的拠点形成を本事業のテーマとして選択した理由
本学は創立以来約120年にわたり源氏物語研究に取り組み、研究成果の蓄積と社会への発信を行ってきた伝統に加え、文芸資料研究所を中心とした全学的な研究体制や学外とのネットワークを構築し、学際的?国際的な研究体制の整備も進めている。また、教育機関としても源氏物語に関連する共通教育科目?専門科目も多数開講されており、教育面における本学の特色となっている。グローバル化する社会情勢において、日本文化を深く理解し、わかりやすく説明できる人材を育成することが求められる中、源氏物語に関する研究成果を通じて、日本文化の特徴を理解する人材の育成により、本事業はそのニーズに応えることとなる。
以上のように、源氏物語研究の学際的?国際的拠点形成を本学が実施する理由は十分であり、本事業のテーマとして選択した。
期待される研究成果
文学的?文献学的視点による源氏物語研究古筆切の活用と科学的手法に裏打ちされた本文の探究
本テーマでは、源氏物語の本文(原典のテキスト)の探究と考証を、以下に述べる2つの手法を組み合わせて、文学?文献学領域における新たな学術的知見を得る。
まず、1つ目は鎌倉期以前の古筆切を活用した調査研究である。本文の探究はあらゆる古典研究の基盤となる重要な研究領域であり、現在も様々な議論と検証が重ねられている。従来、本文の探究は主に室町期以降の古写本を中心に行われてきた。その要因は、鎌倉期以前に作成された源氏物語の写本の多くが冊子や巻物としての形態を保っておらず、切断されて断片化し、古筆切として散逸しているため、研究資料としての活用が困難であったことが挙げられる。しかし本学は、これまでの積極的な資料収集と調査研究の蓄積により、古筆切を用いた研究手法を確立しており、2014年には古筆切の調査研究によって平安期の物語である「夜の寝覚」の欠落した本文の復元に貢献する等の実績も有する。本事業においても、本学で保有する世界有数の古筆切資料群を中心に、連携研究機関に所蔵されている資料や新たに収集する資料を加え、鎌倉期以前の源氏物語本文に関する調査研究を実施することにより、文学的?文献学的な新たな知見を獲得する。
2つ目は、紙質測定や光学分野の技術を応用することで、非破壊の手法で古筆切の年代や作者等の科学的な同定を行う。これまで古筆切の作成された年代等の調査は、筆跡や描かれたテキスト、資料の流通過程等を総合的に検討することで行われてきたが、科学的裏付けや客観性が十分でない事例も存在していた。そこで、本テーマにおいては紙の繊維を3Dレーザ顕微鏡によって観察?分析したり、表装された資料の裏面に描かれたテキストを高精細の光学機器で読み取り、客観性のある科学的裏付けの下で各資料が作成された時代等の同定をより正確に行う。本学には紙質研究の専門家が所属しており、3Dレーザ顕微鏡による測定環境も整っているほか、連携研究機関である国文学研究資料館や奈良先端科学技術大学院大学の協力を仰ぐことで光学分野を応用した調査も可能となる。
これらの最先端の科学技術を活用した資料研究の実績を重ね、古筆切を用いた研究手法と組み合わせた調査手法を確立することは、新規性があり、かつ独自性の高いものであり、学術界への寄与のみならず社会?産業面への波及効果も期待できる。
源氏物語の文化的?社会的側面に関する研究源氏物語および日本文化の可視化?具現化
源氏物語は文化的な地位も有し、日本社会の服飾、食文化、工芸品、伝統文化など、現在に至るまで様々な側面に影響を及ぼしている。例えば源氏絵や、源氏物語を題材とした様式?意匠の類は、服飾や調度品のデザインとして応用されているほか、食文化史の観点から、源氏物語を意匠とした和菓子の存在等も注目されている。源氏物語が描かれた当時の文化について理解するとともに、室町期以降、これらが社会でどのように享受?受容されたのかを明らかにすることで、源氏物語を源流とする日本文化の特徴を描き出すことが可能となる。加えて、こうした文化的?社会的視点は、源氏物語が描かれた舞台、日本文化を感覚的に捉えることを可能とし、イメージによる源氏物語の理解の促進につながる。
本テーマでは、ⅰ服飾?有職故実から見た源氏物語(服飾?儀礼文化的研究)、ⅱ「食」の視点から見た源氏物語(食文化史的研究)、ⅲ子ども(遊び)の文化に関する研究、ⅳ日本古来の伝統文化に関する研究、という項目で研究を行う。
本学ではこれまでも、源氏物語の図様、源氏絵、装束の文様と画題、平安期の食文化(食材と調理)、また礼法等の伝統文化など、文化的?社会的側面からの研究を蓄積してきた。例えば、源氏物語に記された食の視覚化や、当時から現在に至る食の変遷と伝統の解説により、国内外に対する日本文化の理解促進と発信に寄与した実績がある。本テーマではこれをⅰ~ⅳの項目で展開し、得られた幅広い知見を集約?統合することにより、源氏物語研究の可視化?具現化を行い、体感的に源氏物語を発信するという本学独自の取り組みとして国際的に発信する。
海外研究者との連携による国際的研究世界文学としての源氏物語の評価と研究の高度化
源氏物語は、最古の女流文学?長編小説のひとつとして、また心理描写の優れた小説として、世界的に高い評価を受けている。現在は多数の外国語訳が発表され、海外でも源氏物語研究が盛んに行われつつある。例えばフランスにおいては、以前から平安期の文化に関する興味関心が強く抱かれており、日本と同様に王朝文化と女流文学の歴史を有することもあって、近年は様々な比較文学的な研究が行われている。また、大英博物館のアーサー?ウェイリーによる古典的な英語訳は、源氏物語の海外での普及に大きな役割を果たしたが、これが逆輸入され、2017年から日本語の現代語訳が発表されている。こうした多様な翻訳の存在は、源氏物語の異文化における解釈と受容、また比較文学的な研究課題を提起している。
本テーマにおいては、比較文学的な視座に立ち、海外4カ国(フランス、イギリス、韓国、マレーシア)の研究機関?研究者との連携のもと、研究を行う。これにより、源氏物語の世界文学としての評価と普及を進めると共に、異文化の視点を加えることで源氏物語研究に新たな解釈?分析をもたらす。
学際的?国際的な源氏物語研究の拠点形成研究の高度化と成果の発信
1~3の成果をもって源氏物語研究の高度化をはかるためには、様々な専門分野や国籍の研究者が学術交流を行い、成果発信を継続する環境が必要である。そこで、本学に学際的?国際的な源氏物語の研究拠点を形成することにより、研究の高度化を実現する。本事業で得られた研究成果は、データベース化し、オープンデータとして世界中の研究者が活用できる仕組みを整える。これにより、源氏物語研究の活性化に寄与するとともに、本学を拠点とした源氏物語研究の更なるネットワーク化が実現する。以上を継続的に実施し、源氏物語や日本文化への関心?理解がいっそう高まることは、文化的、社会的、国際的にも大きな価値を有する。