生活環境学科 一色ヒロタカ准教授がグッドデザイン賞[グッドデザイン?ベスト100]とグッドフォーカス賞[地域社会デザイン]をダブル受賞しました
生活科学部生活環境学科(2025年4月から環境デザイン学部環境デザイン学科)の一色ヒロタカ准教授が、ワイン作りを軸にした新たな南三陸ブランドの発信拠点「南三陸ワイナリー」のデザインおよびそれにまつわる一連の取り組みで、2024年度のグッドデザイン賞[グッドデザイン?ベスト100]、特別賞となるグッドフォーカス賞[地域社会デザイン]を受賞しました。
「グッドデザイン賞」とは
日本で唯一の総合的なデザイン評価?推奨のしくみであるグッドデザイン賞。2024年度は5,700件を超える応募があり、一色准教授がディレクター、デザイナーとして手掛けた「南三陸ワイナリー」は、その中から見事グッドデザイン賞に選出されました。さらに、グッドデザイン賞を受賞した1,579件の対象の中でも特に優れた100件の一つとしてグッドデザイン?ベスト100にも選ばれ、地域社会の持続的発展や経済の活性化に特に寄与するデザインとしてグッドフォーカス賞 [地域社会デザイン]も受賞しました。2024年度のグッドフォーカス賞 [地域社会デザイン]を受賞したのは、「南三陸ワイナリー」を含むわずか3件のみです。
「南三陸ワイナリー」とは
2011年の東日本大震災で津波の被害を受けた宮城県の漁港エリアに位置する「南三陸ワイナリー」は、震災復興を牽引した旧水産加工場の仮設プレハブ建築を改築?継承して建設された地域の拠点です。地産地消のワイン作りを軸に、食産業と一体となった新しい南三陸ブランドをここから日々発信しています。
このワイナリーの誕生は、2017年に地域おこし協力隊によりスタートした南三陸ワインプロジェクトに端を発します。地域おこし協力隊のメンバーで、南三陸ワイナリー株式会社の設立者である佐々木道彦氏から相談を受けた一色准教授は、ディレクター兼デザイナーとしてこのプロジェクトに参画。ワイナリー施設の建築設計やブランディングを担当し、グッドデザイン賞受賞へと導きました。
なお、今回のグッドデザイン賞受賞の対象は施設の建築デザインだけにとどまりません。地域と全国をつなぐリレーションシップの構築、地域の資源?技術を生かしたプロダクトの開発、新事業を軸にした歴史?資源?新しい文化の継承など、「南三陸ワイナリー」を巡る一連の取り組みおよびデザインプロセスが評価の対象となっています。
一色ヒロタカ准教授のコメント
今回、「南三陸ワイナリー」がグッドデザイン賞およびグッドデザイン?ベスト100に選出され、グッドフォーカス賞を受賞したことを大変うれしく思っています。これまでの取り組みが価値あるものとして評価?認知されたことで、今後の活動がより加速するのではないかと期待しているところです。
「南三陸ワイナリー」がオープンしたのは2020年10月。2017年から南三陸ワインプロジェクトを進めていた佐々木道彦氏が、東日本大震災の津波で被害を受けた漁港エリアに放置されていた旧水産加工場の仮設プレハブ建築に目を留めたのが始まりでした。震災からの復興を支えたこの施設をなかったことにしたくない。海から恩恵を受けて繁栄してきた地域の未来を、海とのつながりを再構築することで今まで以上に明るく照らしたい——。1本のスパイラルで紡いできた地域復興のプロセスを、途絶えることなく未来につなぎ、さらに発展させていきたいと考え、仮設プレハブ建築を壊すことなくコンバージョンし、ワイナリーという新たな地域のシンボルにしました。
「南三陸ワイナリー」の目的は、ワインの販売だけではありません。そもそも、地産地消のワイン作りは耕作放棄地など遊休地の利活用に貢献していますし、レストランでのワインに合った食事の提供は地域資源の魅力の再発見、さらには食材の供給を支える漁業の発展につながっています。また、「南三陸ワイナリー」の建設においては、特産品の南三陸杉のほか、復興の過程で解体されていく仮設建築物の材料など、地域に“今”ある資源を最大限活用。サステナブルな建築を実現しました。
ほかにも「南三陸ワイナリー」のオープンから4年の間に、さまざまな挑戦がありました。漁船をリニューアルした小型クルーズ船での「志津川湾R&Bクルーズ」の実施や南三陸ワイナリーオリジナル食物販「ピースオブ南三陸」の開発、ブドウの搾りかすを餌にした「ワインパミスわかめ羊」の飼育等々。今後も、三陸のワイナリーを巡る三陸クルーズ企画や、漁師と観光客をつなげるカフェ、漁港エリアを活用したポートスクエアなど、これまでの軌跡の延長線上に次なるステップを描こうとしています。つながりを再構築しながら未来へと進む道を模索したプロセスデザイン、それこそが今回のグッドデザイン賞受賞における最大の評価ポイントになったのではないでしょうか。
2025年4月、生活科学部生活環境学科は環境デザイン学部環境デザイン学科として生まれ変わります。建築?住環境、インテリア、プロダクト、ファッションに加え、ICT(情報通信技術)を生かした「情報デザイン」や、社会の課題解決に必要な実践的なスキルを身につける「コミュニティデザイン」にも力を入れていきます。多様なデザインスキルを習得し、複合的な発想によるプロデュース力を身につけるのがその狙いであり、「南三陸ワイナリー」の取り組みはその参考事例になるのではないかと考えています。デザインで社会課題にアプローチする実感を、ぜひ学生たちにも味わってもらいたいです。
私は建築家として建築設計事務所も営んでいます。そのコンセプトは、「身のまわりの小さな社会を、楽しく動かすこと」。これは、「南三陸ワイナリー」にも環境デザイン学科の学びにも共通するものです。とかく大規模なデザインが注目されがちですが、身の回りの人の仕事や生活を少しでも豊かにすることで社会全体に変化を起こす——。そこにデザインの面白さがあります。今回のグッドデザイン賞受賞に至るまでに得た私自身の経験を、学生たちの学びにもうまく還元していければ幸いです。