島﨑 あかね先生
運動の効用を追究し続けて。
楽しく?正しく身体を動かすことで
心身の健康を創造していく。
島﨑 あかね
Akane SHIMAZAKI
生活文化学科
専門分野?専攻 運動生理学、環境共生学
Akane SHIMAZAKI
生活文化学科
専門分野?専攻 運動生理学、環境共生学
[プロフィール]日本体育大学体育学部社会体育学科卒、日本体育大学大学院体育学研究科修了、東京農業大学大学院農学研究科環境共生学専攻博士後期課程修了。日本体育大学、大妻女子大学、上田女子短期大学等を経て、2016年実践女子大学に着任。所有資格は健康運動指導士、ノルディックウォーキング?マスターインストラクター、中級レクリエーション?インストラクター、スポーツ?レクリエーション指導者、など。著書に『〈ねらい〉と〈内容〉から学ぶ 保育内容?領域 健康』(共著、わかば社)がある。趣味はドライブという、根っからの行動派。
身体を動かす機会が減る現代。改めて運動の重要性を知ってほしい
子どもの頃から身体を動かすのが大好きでした。そんな私の現在につながる原点は、高校時代、地元の自治体で開催されたトレーニング講座に参加したこと。誰もが参加できる場で、老若男女が集まり、専門の指導者から効率よく身体を動かすためのトレーニング法を学びました。その指導者の存在がとても印象的で、運動に携わる仕事にはこういうものもあるんだ、と驚いたのです。さまざまな年齢の方と一緒に身体を動かして健康づくりをする、身体の上手な使い方をレクチャーする、といった仕事を、自分も将来できたらいいな、と思いました。
そのためには社会体育という分野をしっかりと学びたいと考え、私は体育大学の社会体育学科を進学先に選びました。社会体育とは学校体育の対義語として使われることが多いのですが、地域社会や職場、家庭などで行われる、人々が自主的に取り組む体育を扱うもので、いうなれば生涯にわたって健康の保持増進のために運動やスポーツをどう行っていくかということを学ぶ分野です。
そこで担任の先生にとても親身になってもらいました。“社会人を対象にした健康づくりについて学びたい”と漠然と思っていましたが、どの先生のゼミにつくべきなのかがわからない。担任の先生に相談すると“この中から興味のあるテーマをピックアップしてごらん”と先輩方の卒業論文の趣旨をまとめた冊子(抄録集)を渡され、その結果から所属ゼミについてアドバイスをいただきました。
卒業論文では、職場で働く人々の作業姿勢によって健康や疲労度にどのような違いが出るかを研究しました。在学中に教員免許も取得しましたが、社会人、特に中高年の健康づくりについてもっと追究したい、知識を充実させるとともに情報発信についても考えを深めたい、という思いがあって大学院に進みました。
大学院修了後、教員として幼児教育?幼児体育の授業を担当したことなどから、対象の幅を中高年から全年齢へと広げましたが、一貫して研究テーマとしてきたのは「運動による心身の健康づくり」です。
現代はとても便利になっているので、歩く?階段を昇るといった移動から掃除や洗濯をするといった生活面まで、いろいろなことが省力化されて身体を使うシーンがどんどん減っています。すると筋肉が細くなったり脂肪が増えたりなどの悪影響が出てくる。けれど、日常生活の中でできる運動を無理なく組み込むことで身体を刺激し、健康を維持できるのです。それを多くの方に知ってもらいたい、という思いで、ここまで研究に取り組んできました。
コロナ禍の経験が私たちに教えてくれたこと
「身体を動かすことが心身の健康につながる」ことは何となく理解できると思いますが、それでは具体的にどのくらい効果があるのでしょうか。例えば、対象者に一定期間、歩行(ウォーキング)に取り組んでもらい、心拍数や血液データ、速度などを計測して前後の内容を比較した研究についてご紹介すると、3カ月程度で変化が見られ、血圧降下や体重減少、歩行速度の上昇などが確認できました。
けれどそういったデータで表さなくても、今回のコロナ禍により、身体を動かすことの大切さを、身をもって感じた人は多いと思います。外出の自粛やキャンパス閉鎖で家にこもりきりになり、身体を動かす機会が激減する。すると体力は落ちるし体重は増える、そればかりでなく気分もうつうつとしてくる。身体を動かすことと身体と心の健康が密接につながっていることが、逆説的に理解できたのではないでしょうか。
私は日野や渋谷のキャンパスで運動の実習や演習を担当しており、コロナ禍によるキャンパス閉鎖期間以降は基本的に対面で授業を行っています。そして、出席している学生たちの様子に、いつもハッとさせられます。
さまざまな場で感染の不安を感じているとは思いますが、クラスの仲間に会った時、そして身体を動かしている時の表情に、何とも言えない輝きがあります。そういった時に覚える解放感や心の高揚は、数値化はできないかもしれないけれど、私たちヒトにとって非常に大切なものなのではないかと改めて感じさせられました。
学校に通っている年代では体育の授業などで身体を動かす時間が設けられていますが、卒業以降は自分で意識しないとその機会をつくれません。身体を動かすことは心身の健康につながるため、運動しないと健康を保つことが難しくなります。社会人になる直前のこのタイミングで、コロナ禍を体験することで学生がそれを学ぶことができたのであれば、試練を経ての成果とも言えるかもしれません。
とはいえ、ただ運動すればいいというものではありません。正しい知識に基づいて、さらに楽しみながら身体を動かしてほしい。楽しくなければ続かないからです。私が担当する実習や演習では、身体のつくりや運動がそれにどのような影響をもたらすかを学ぶとともに、気軽に取り組める軽スポーツで身体を動かします。大切にしているのは、まさに“楽しむ”こと。自分が無理なくできる身体活動は何か?どのくらいの強度なのかということを授業を通じて把握し、日常生活に取り入れて心身の健康をマネジメントする力を育んでもらうことをねらいとしています。
失敗を恐れず、“まず、やってみる”を後押し
私は生活文化学科で運動生理学研究室を主宰しています。運動生理学とは、運動が身体や心にどのような影響を与えるかを追究する分野で、所属している学生には健康や運動、子どもなどに関心を持っている傾向が見られます。
運動生理学をテーマに掲げてはいるけれど、ゼミ活動でスポーツばかりしているわけではありません。研究してみたいことが運動に関わりがなくても健康に関するものであれば指導できますよ、と学生には話しています。
卒業論文作成に向け、3年次に研究テーマを決めますが、なかなか決定できずにいる学生には、私自身が学生時代にしてもらったように、いろいろな先行研究を提示したり、キーワードをいくつか出して論文検索を行ってもらったりして、テーマ決めをバックアップします。
生活文化学科の学生は3?4年次で保育実習や教育実習におもむく場合が多いですが、並行して卒業研究にも取り組まなければなりません。限られた時間の中で着実に研究を進めていけるよう、学生一人ひとりのカリキュラムや研究テーマに合わせて、フレキシブルに指導やサポートを行うことを大切にしています。
とはいえ、忙しかったりやらなければならないことの多さに気持ちがくじけたりして、ついつい研究に手を付けるのを後回しにしてしまうケースも少なくはありません。ですから、“まずはやってみる”、学生が一歩を踏み出すきっかけをつくることをいつも心がけています。やってみて初めて見込みがあるかないかがわかり、進めるための課題も具体的に見つかります。だから、まず手を付けてみよう、行動してみよう、と学生に声をかけています。
行動するとは、身体を動かして体験することでもあります。身体を使って学んだことは、必ず実感を伴った記憶、つまり心の引き出しに蓄積されていきます。思った通りに行かない経験もまた、引き出しを豊かにしてくれる存在。振り返りをして次は同じことを繰り返さなければいいし、状況が変わったなら経験をアレンジして活用すればいい。ですから、失敗を恐れる必要はないんです。
自分の不完全さを理解し、相手の気持ちに寄り添う姿勢を
私自身、たくさんの出会いに恵まれてここまで歩んできました。特に大学や大学院での恩師との関わりに大きな影響を受けたので、“学生と教職員との距離が近い”点に本学の強みを感じています。私が所属する生活文化学科は、生活心理と幼児保育の2専攻を合わせて1学年100名程度。15名の専任教員が学生一人ひとりに寄り添いながら、自信をもって社会に飛び立てるよう丁寧にサポートしています。目標を同じくする学生同士が切磋琢磨し、時には助け合う姿もよく目にします。
そんな出会いをより豊かなものにするために、自分の考えや想いが必ずしも完全ではないことを学生にはいつも頭に置いておいてほしい。他者の考えや意見に謙虚に耳を傾けたり、その思いや気持ちを汲み取ろうとする心のゆとりを持つよう、意識してほしいですね。
生活文化学科で学ぶ学生の多くは、将来、何らかの形で対人支援に携わる可能性があります。相手に寄り添い信頼を獲得するためには、その言葉に耳を傾ける姿勢が不可欠です。自分は完ぺきな存在ではなく一人でできることには限界があると理解し、わからないと感じたら訊く、何か困ったことがあったら誰かに相談する。そういった姿勢を今のうちから育み、出会いや経験、学びで心の引き出しをいっぱいすることが、自身の魅力を高め、充実した人生を送ることにつながるのではないでしょうか。